第49話 新魔法・舞風
空に大輪の華が咲き乱れる。
夜空に描く花火のように一瞬で散り散りになる真紅の花。
それは白鷹の血液だった。
白鷹の真下にいた私の髪や顔に滴り落ちる血液を舌で舐め取る。
ふむ。どうやらこういう飲み方をしても、吸血モードにはなれないらしい。また一つ勉強になったね。
《経験値が一定基準に達しました。レベル上限を解放します》
お……どうやら今ので更にレベルが上がったらしい。
それでこそ危険な橋を渡った甲斐もあるというもの。
早速確認してみよう。
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 9歳
LV3
体力:157/162
魔力:5249/5270
筋力:135
敏捷:145
物防:110
魔耐:70
犯罪値:212
スキル:『鑑定(79)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性』『色欲』『魅了』『魔力感知(16)』『魔力操作(62)』『魔力制御(23)』『料理の心得(12)』『風適性(18)』『闇適性(21)』『集中(9)』『吸血』『狂気』『再生(7)』『影魔法(6)』『毒耐性(5)』】
んー……レベルが上がったのはいいけど、まだステータスの伸びが弱いな。もっとこう、ガンガン上がって欲しいところなんだけど。まあ、無理か。
こればっかりは焦っても仕方ない。ちょっとずつ上げていこう。
……というかちょっと気になってたんだけどさ、犯罪値が全然変化してなくね? 前に山賊を血祭りに上げたときは爆上がりしていたからかなり心配だったんだけど、魔物相手ならあんまり関係ないのかな?
はあ……駄目だ。分からないことが多すぎる。頭痛くなってきた。
気にしすぎないようにはしてるけど、こうしてステータスを見る度に上下していないか目で追ってしまうのは仕方ない。データ厨の悲しき性ってやつだね。
……まあいい。レベルアップのことは置いておいて、とりあえず石ナイフを回収しよう。
使ってみて分かったんだけど、『舞風』はなかなか有用な魔法だ。
私の弱点である射程の短さをカバーしながらもそれなりに威力があるし、何よりそのために必要な材料がそこら中にあるってのが良い。
石ナイフを量産しておけばほとんど無敵なんじゃね? ってくらいだ。
まあ、放つまでにちょっと時間かかるのが難点だけどね。
後は連射も出来ないところも問題か。うん、全然無敵じゃなかったわ。
だけどそれでもかなり使える技であることは疑いようがない。これからも重宝しそうだ。
とりあえず石ナイフは何本あってもいいから、さっきぶん投げた分を回収しようと落ちていた白鷹の死体に近寄ってみるのだけど……
「…………あ」
見れば、石ナイフは粉々に砕けて持ち手の部分だけが残っていた。
どうやら威力に耐え切れず自壊してしまったらしい。
全力で魔力込めたしそれも当然か。
「これはちょっと使えそうにないね……となると舞風を使うには一発につき一本のナイフを消費しないといけないってことになるけど……」
うーん……それは結構面倒だな。
何気に作るのに時間がかかるんだよね、あれ。
それに持ち歩ける数にも限りがあるし、そうなると残弾数が出来てしまったことになる。思ったより、色々と制約がありそうだ。
折角最強の技が出来たと思ったのに……まあ、こればっかりは仕方ない。切り替えていこう。
それに……今はそれ以上に嬉しいことがある。
「さーて、それじゃあ勝者の特権、使っときますか」
ふふふ……ようやく当初の目的を達成できそうだ。
もともと私が歩き回ってたのは"獲物"を探すためだからね。こうして無事にゲット出来たのは大きな収穫だ。
「では……頂きますっ」
日本人らしく手を合わせ、それから私はがぶりと勢い良く白鷹の体に牙を突き立てる。こっちは蛇よりも体が大きいから、かなり満足感が得られそうだ。
さっき撒き散らした分、体内の血が減ってるのが残念だけど。
「ぷはっ……あー、おいしぃ」
まるで仕事帰りのお父さんがビール飲むみたいに、白鷹の血を最後の一滴まで絞り取る。これだよ、これこれ。これが欲しかったんだ。
血を飲んだことで吸血モードに入る私。体中に力が漲っていくのを感じる。
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 9歳
LV3
体力:162/162
魔力:5249/5270
筋力:282
敏捷:342
物防:260
魔耐:180
犯罪値:212
スキル:『鑑定(79)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性』『色欲』『魅了』『魔力感知(16)』『魔力操作(62)』『魔力制御(23)』『料理の心得(12)』『風適性(18)』『闇適性(21)』『集中(9)』『吸血』『狂気』『再生(7)』『影魔法(6)』『毒耐性(5)』】
うーん。良い、良いね。
この全能感たまんないわぁ。
出来ることならずっとこの状態のままでいたい。流石に叶わないだろうけど。
今回は結構血を吸えたし、30分くらいは持つかな?
その間に石ナイフを量産して…………ん? 吸血モードの聴覚に何かの反応があるぞ。
かさかさと、まるで台所を這い回るGみたいな音だ。聞こえるか聞こえないかぎりぎりの音量だけど……確かに何かがいる。
音の聞こえた方向、暗がりの向こうからこちらに向けて音が少しずつ大きくなってくる。何者かが近づいてきているのだ。
「……新手か?」
両手に魔力を纏わせ、いつでも影魔法が放てるように準備しておく。
いいぜ、誰かは知らないけど来いよ。
今の私は好戦的になってるからな。どんな奴だろうと相手してやる。
緊張感と僅かな期待の中、ゆっくりと暗がりから現れたのは……




