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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇
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第4話 消えたバナナ

 え? ちょちょちょ、ちょっと待って……お、女?

 誰が? 俺が?

 いやいやいやいや、そんなバナナ。

 鑑定間違いでしょ。実際体見ればはっきりするって。


 ──ごそごそ、ごそごそ──


 そ……そんなバナナ。

 ない……俺の下半身に、バナナが!

 うわー! マジかぁぁぁぁっ! 俺のバナナぁぁぁぁぁっ!


「おぎゃああああああっ!(訳:うぎゃああああああっ!)」


 その日、俺はかつてない勢いで泣いた。

 夜泣きしない子として可愛がられていた俺が始めて本気で泣いた。

 それはもう滂沱の勢いで。

 あまりの泣きっぷりに母親が飛んでくるほどの大声で。


 だってさ……いくらなんでも酷くない? 普通男は男に転生するもんじゃないの? 記憶がないならどっちでもいいかもだけど、俺にははっきりと記憶があるんだよ? それなのに女って……もう泣くしかないよ……。

 まだ童貞だったのに……。

 俺は女の子の体を知らないままにこのまま生きていくのか……はあ。


 ……

 …………

 ………………ん?


 いやちょっと待て。

 女の子の体を知らないままにってことはないでしょう。

 だって俺、改め私、女の子なんだもん。

 むしろ男より圧倒的に知るチャンス多いじゃんっ!

 やっほい! これでいつでもおっぱい触り放題じゃんっ!?


 ただし自分のだけどな!

 まだ赤ちゃんだけどな!


 いや、意味ないでしょそれ。

 うん。冷静に考えると全く嬉しくないわ。

 どっちかって言うとバナナ失った喪失感のほうがでかい。

 はあ……でもこれ、今からじゃどうしようもないよね?


 こうなった原因として考えられるのは自分で選べないって言う理不尽パターンとあのポンコツ女神が俺のことを女だと勘違いしていたふざけんなパターンだけど……うーん。後者の可能性が高い気がする。

 だってあの人、ゲームと現実の区別が付かないようなポンコツなんだもん。

 今から直訴して何とか男に戻してもらえるよう頼む?

 いやいや、両親は俺の性別が女だってことに気付いているし、いきなり子供の性別が変わったら怪しいどころの騒ぎじゃない。普通に無理か。

 そもそもあのポンコツに連絡する手段がないし。


 ああ、駄目だ。これ詰んだわ。

 俺はもう……私として生きていくしかないんだわ。

 ネトゲで散々女プレイしてたから言葉遣いとかは多少慣れてるけど、仕草とかまでは自信ない。

 元男だってバレたらどうしよう……いや、そりゃねーか。流石に。

 多少怪しまれることはあっても、前世が男でその頃の記憶を引き継いでいるって正解にたどり着ける人間がいると思う? ははっ、いるわけねー。いたらどんだけ察しがいいんだよっていうね。

 ならとりあえず性別バレする心配はしなくていいかな?


 口調くらいは気をつけるべきだろうけど。

 うん……そういうことならこれからは言葉遣いに気をつけよう。

 一人称も私にして。

 とにかく今はこの世界に溶け込むことを最優先する!

 なーに、鑑定スキルとか意味不明なものが存在する世界だから『性転換』なんていうふざけたスキルがあるかもしれないじゃない。

 うん。ポジティブに行こう、私! 頑張れ私!

 とりあえずもっかい鑑定してみよ。


【名前:ルナ・レストン

 年齢:0歳 

 性別:女】


 うーん。性別欄の衝撃に押されて気にしてる暇なかったんだけど……これ使えねー!

 なんで名前と年齢、性別しか分からないんだよ!

 いやそんだけ分かればかなり優秀だとは思うけど!

 これがあれば人の名前絶対間違えなくなるとは思うけど!

 特に人の名前覚えるのが苦手だった私には凄く嬉しい機能だけど!


 ……ぐ。

 何か普通に私って一人称使い始めてる自分に少しショック……

 ま、まあいい。男でも私って一人称使う奴が全くいないわけじゃないし。むしろ公共の場だと私が普通だし。うん。普通普通。

 あまり気にせず行こう!

 というわけで鑑定、お前使えねーよ。

 何でそんだけしか分からないの?

 今まで散々読んできたネット小説の転生者にはもっと優秀な鑑定が付いてるのになんで君だけそんななの? 馬鹿なの? 死ぬの?


 はあ……もういいや。

 とりあえず寝よう。

 なんだか眠くなってきたし。

 やっぱり赤子だからなのか最近眠たくて仕方ないわ。一日の半分以上寝てる気がする。まあ、寝る子は育つというし、寝るけどね。それしかすることないし。

 というわけでお休み、お月様。


 そんでおはよう、太陽。

 くー、朝の光が眩しいぜ。

 こうして朝日と共に目覚めるのはいつぶりだろうな。うん。やっぱりいいね。これからは真人間として生きよう。

 と言う訳でちょっくら外の空気でも吸ってみますかね。

 ようやくハイハイくらいなら出来るようになったんだし。


 適当な本や椅子やらをよじ登って窓際まで近づいてみる。

 ふう、かなりの大冒険だった。これだけ体が小さいとちょっと上るのでもエベレスト登頂くらいの気合がいるわ。この部屋の窓がわりかし低い位置にあるのが助かった。そういう意味では富士山ぐらいの難易度になるかな?


 まあ、なんでもいい。

 私はこれから太陽に生への感謝を捧げるのだ!

 生きてるって素晴らしい!

 皆、ありがとう! 太陽、ありがとう!

 赤ん坊の腕には重いカーテンを引っぺがし、外開きの窓を全開にする。

 そうして清々しい朝の風と共に、燦々と輝く太陽の光が室内に飛び込んできて……



 ──私の全身に激痛が走った。



 それもちょっと我慢できないくらいの痛み。

 あまりにも突然のことだったので思わず「おぎゅあッ!?」とかなりマジな悲鳴を上げてしまう。

 というかヤバイ。

 痛い、痛い痛い痛い!

 本気で痛い!

 どたばたとまるで全身に火が付いたかの如き痛みにテーブルの上でひっくり返りながら耐える。

 その時だ。


《スキル『苦痛耐性』を入手しました》


 突然頭の中に女性の声が流れ込んでくる。

 これはあれだ。ヘレナさんの声だ。


 けど今はどうでもいい!

 とにかくこの痛みをなんとしてくれ!


 必死の祈りが通じたのか、ヘレナさんの声が聞こえると同時にすっ、と痛みが少しだけ引いたような気がした。

 辛うじて動けるようになった私はとにかくこの場を逃げようと這いずりながら移動する。

 だけど場所をよく考えずに動いたせいでテーブルのふちに到着した私はそのまま1メートルくらいの高さを落下してしまう。

 気分は富士山の登頂部3700メートルからの落下。死ぬわ!


 気持ちの悪い浮遊感も一瞬。床に激突した私は新たな痛みに呻きながら必死に耐える。物音に気付いた母親がやってきて悲鳴のような声を上げるのはそれから十数秒後のことだった。

 痛い……でも、これは落下したときの痛みであってさっきまでの身を引き裂かれるような痛みじゃない。これなら大丈夫。耐えられそうだ。


 でもさっきのは一体なんだったんだろう?

 もしかしてこの体何か持病とか持ってるんじゃなかろうか。

 不安だ……転生して一年待たずに病死とかやめてくれよ?

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