第46話 自己分析は正確に
夢を見ていた。
懐かしい……いつか見たあの日の夢。
すでに遠い日のことのように思える、温かい日々。
………………
…………
……そうだ。
そうだった。
私には……帰る場所がある。
帰らなくてはいけない場所がある。
そして……守らなくてはいけない『約束』がある。
私は……こんなところで死んでやる訳にはいかない……ッ!
《スキル『毒耐性』を入手しました》
一気に視界が晴れていく感覚。
暗い水底から引き上げられるような感覚に導かれ、私は……
「…………はっ!?」
真っ暗な洞窟の中、目を覚ました。
頭が重い。えと……何があったんだっけ。
「確か……蝙蝠の大群に追われて、それで……」
冴えない頭で思い出す。
そうだ、私は蝙蝠共に大量の毒を打ち込まれたせいで倒れたんだった。
さっきの声は……ヘレナさん?
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 9歳
LV2
体力:152/152
魔力:5170/5170
筋力:125
敏捷:135
物防:100
魔耐:60
犯罪値:212
スキル:『鑑定(78)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性』『色欲』『魅了』『魔力感知(15)』『魔力操作(60)』『魔力制御(23)』『料理の心得(12)』『風適性(13)』『闇適性(21)』『集中(5)』『吸血』『狂気』『再生(6)』『影魔法(6)』『毒耐性(5)』】
うお……なんかまたスキルが増えてやがる。
毒耐性のスキル……そうか。このスキルのおかげで助かったのか。まだ体中に痺れるような痛みがあるし、多分蝙蝠の毒は致死毒だったんだと思う。運良く『毒耐性』のスキルを手に入れたおかげで何とか生き残ったみたい。
……いや、運良くじゃないな。
きっと私の生きようって強い想いに体が応えてくれたんだ。
生死の境を彷徨っていた私が最後の最後で、生を諦められなかったのはあの夢のおかげでもある。言うなれば彼女は私の命の恩人だ。これはなおさら生きて帰らなくちゃいけなくなったね。
「ふっ……また一つ、死ねない理由が増えた(←言いたかっただけ)」
重い体を引きずり、立ち上がる。
一体どれくらいの時間、気を失っていたのやら。
丁度岩陰に隠れるように倒れていたおかげで他の魔物には襲われなかったらしい。この辺はツイてた。
さて、何とかこうして命を拾ったわけだけど……ヤバイな。私、この短い間にすでに3回も死にそうになってる。このままだと本当に命が幾つあっても足りなくなりそうだ。
土蜘蛛、スライム、蝙蝠群。
ステータスに差はあれど、そのどれもがこれまで生き残ってきただけはある魔物達だ。生き残る術を持っている。簡単には倒れてくれないどころか、下手をすればこっちがやられる。
やはり一番の課題は自分の意思で吸血モードにいつでも移れるようになることかな。スライムと蝙蝠群に関しては、吸血モードなら蹴散らせただろうしね。
でもその手段がなあ……思いつかないんだよなあ……。
となると、今の素の私でも戦えるような戦法を編み出すか?
うん……それが一番現実的な気がする。
となると、まずは自分の戦力分析。
ステータスは魔力を除き、敏捷性が一番高いからどっちかって言うとスピードタイプ。筋力値はそれほど高くないから、何かしらの魔術か武器を使わないと決定力に欠ける。
魔術に関して私が使えるのは魔力を固めて、槍のように飛ばす『闇魔術』。これは詠唱が必要になるタイプだけど、その分威力はかなり高い。吸血モードになると、これは『影魔法』となって無詠唱・無挙動で使うことが出来る。
後は普段から無詠唱で使える『操魔法』だけど、水中以外では錬度が低すぎるせいであんまり役には立たない。かなり集中力が必要になる技だし、隙も大きい。
(こう考えると魔術と魔法ってくっきり区別されてるんだよね。詠唱が必要で効果が大きい『魔術』、集中力が必要で自由度が高い『魔法』って感じかな)
昔はこの二つの違いが良く分からなかったけど、こうして自分で使うようになってくるとその差が良く分かる。どっちも一長一短で、どちらが優れてるって訳じゃないんだけどね。
どっちにしても今の私に足りないのは熟練度。もっと使いこなせるようにならないと、今までのように苦戦を強いられることになってしまう。
それならいっそ魔術や魔法以外の戦い方を探してみるべきかもしれない。何か武器を作ってみるとか。
ナイフが一本あるだけで、かなり戦い方の幅は広がるような気がする。前に師匠が言っていたように、遭遇戦では魔術師よりもナイフ使いのほうが強い。
うん。今の私にはその言葉が本当に良く分かる。
だったらまずはそっちの方向で考えてみようかな?
「良し……頑張るっ!」
頬を叩いて気合を入れる。
まだまだ私の迷宮攻略は始まったばかりだ。




