第44話 どうせ期待外れと分かっていても、袋とじの中身に期待してしまう自分が憎い
蛇というゲテモノ食材を食べてみて分かったのだが、どうやら私は生き物の血であれば吸血モードに入ることが出来るらしい。人間の血でないと駄目なのかと思っていたけど、これは嬉しい発見だね。
加えて、血を吸えば空腹感もいくらか解消されるみたい。
身体能力が上がるということは血液からエネルギーを吸収しているということでもあるから、同時に食事と同じ効果も得られるのだと思う。おかげで蛇一匹食べただけなのにかなりの満腹感を得ることが出来た。
うむ。余は満足じゃ。
あ、それとどうやら吸血モードは吸った血の量によって持続時間が左右されるみたい。蛇の血はちょっとしかなかったから、5分もすれば元の状態に戻ってしまったよ。まあ、特に吸血モードになる必要もなかったから良いんだけどさ。
そうなると試しておきたいのが血液を瓶か何かに保存して、いつでも吸血モードになれるよう調整することが出来るかどうかってことだ。
もし自分で吸血モードに入る術を身に着ければ、たとえ土蜘蛛に遭遇したとしても逃げ切r……【戦略的撤退】くらいは出来るだろうしね。
ぜひ身に着けておきたい技能だ。
ただ現状ではかなり難しいけど。
瓶というか水筒には水を入れているし、そもそも保存した血液でも吸血モードになれるかどうかも分からない。
ガンツの血を吸った時は普通に吸血モードになれたけど、抜いてから時間が経った血が同じような効果を発揮するかは正直怪しいと思う。
なのでまあ、それほど期待せずチャンスがあれば試すくらいの気持ちでいこう。何事も期待しすぎはよくないからね。
そうそう、期待と言えば昔、辛いことがあったんだよね。私が中学生だったころ、級友の下田君とトレジャーハントに出かけた時のことだ。山の中でお宝を発見した私達は飛び上がるぐらい喜んで、表紙の絶妙な煽り文句から期待満々でページを開いたのだけど……肝心の中身は大した事なかったというね。まあ、よくある表紙詐欺だよ。男の子なら分かってくれると思う。
あれ以来、私はその手の本に過剰な期待を抱かないようにしている。
子供ながらに思ったものだ。期待が大きければ大きいほど、落胆したときの絶望は大きくなる。賢くなるということは現実を知るということなのだ。
こうして大人になるにつれ、人は夢や希望を失っていくのだろう、と。
「……いや、何の話だよ」
いつの間にか脱線しまくっていた自分に自分で突っ込む。
そうじゃないだろ。昔を懐かしむ暇があったら少しでも迷宮攻略を進めろっての。
とはいえ、ほとんど一本道のせいで道を覚える必要もないんだけど。
私は湖があった場所から丸一日かけて移動を続けていた。
縦穴を登るのは物理的に無理そうだったので、他の道を探していたら丁度いいサイズの洞穴を見つけたのだ。これがどこに繋がっているのかは分からないけど、あのまま湖にいても仕方がないのでとりあえず進んで見ることにした。
運よく中層に戻ってくれればいいんだけど……流石にそれは無理だろうな。あてもなく歩いて出口に出られるような簡単な造りはしていないだろうし。いや、別に誰かが作ったわけじゃないとは思うけどさ。
「少なくとも土蜘蛛クラスの魔物には出くわしませんように……ん?」
私が手をこすって祈りながら進んでいると、パタパタと何かの羽音のようなものが頭上から聞こえてきた。見上げてみると、かなり高い天井なのか薄暗く良く見えなかった。
(何かいるのかな……?)
例えば蝙蝠とか?
洞窟内だし、いてもおかしくなさそうだ。問題はそいつが食べられるかってことだね。蛇はなかなか美味しかったけど蝙蝠はどうだろう。
「おーい。誰かいるなら出ておいでー、痛くしないからさー」
呼びかけてみるが反応はない。
むう……仕方ない。こうなったら、
「来ないなら……こっちから行くぜ!」
食料を求めて私は跳躍した。
近くの壁を足場にぐんぐん登っていくと、少しずつ天井付近が見えてきた。
どこに何がいるのか興味津々で、見渡していると……それはすぐに見つかった。
「……へ?」
というか探すまでもなかった。
なぜならそれは……
──"それら"は天井一面をびっちりと埋め尽くすように蠢いていたのだ。
「気持ちわるっ!?」
慌てて地上に戻る私をそいつらは鋭い眼光で睨み付けると、一斉に羽ばたき始めた。
そこにいたのは私の予想通り、蝙蝠だった。
だけど……その数が予想を遥かに超えて多い。
数百、下手したら数千体ぐらいはいるのではないかというまさに大群だ。
一匹一匹は日本でのイメージに近い小さな蝙蝠だがこれだけの大群に群がられたら流石にまずい。直感的にそう判断した私は、地面に着地した瞬間に駆け出す。
これだけの数はいくらなんでも相手にしてられないからね。
だけど……
「うわっ……追ってきてる……っ!?」
後ろを振り返ると、蝙蝠達はバタタタタタッ! と騒々しい音を奏でながら私を追いかけてきていた。追いつかれたらどうなるか……想像したくもない。
「くそぅ、なんでいつも私はこうなるんだよぉっ!」
半泣きになりながら走り続ける。
その途中、なぜか『自業自得』という単語が頭を掠めたが気にしないことにした。




