第42話 レベルアップ。しかし、実感はほとんどなし
《経験値が一定基準に達しました。レベル上限を解放します》
「……どういうこと?」
聞こえてきた懐かしのヘレナボイス。
レベル上限? ……あ、もしかして。
「……やっぱり」
ステータス画面を確認すると幾つか変更されている箇所があった。
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 9歳
LV2
体力:152/152
魔力:5170/5170
筋力:125
敏捷:135
物防:100
魔耐:60
犯罪値:212
スキル:『鑑定(78)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性』『色欲』『魅了』『魔力感知(15)』『魔力操作(60)』『魔力制御(23)』『料理の心得(12)』『風適性(13)』『闇適性(21)』『集中(5)』『吸血』『狂気』『再生(6)』『影魔法(6)』】
ずっと何の意味があるのか分からなかったレベルの表記が、LV1からLV2になってる。これはスライムを倒したからかな? 全然手ごたえなかったけど。
「ふむ……」
どうやらステータスは全体が10ずつ上がっているみたい。
スキルに関しても、『風適性』『闇適性』『影魔法』が5ずつ上がっている。熟練度は別にしても、ステータスが上がってくれるのは嬉しいね。感覚的にはまだ変化が分からないけど。
まあ、元の数値から比較しても1.1倍程度の増え幅だし、それほど違いはないかな?
どうせなら100くらい一気に増えてくれても良かったのに。
……ん?
いや、待って。うっかり見逃しそうになってたけど……これ、魔力ステータスだけ100増えてね?
……うん、やっぱりそうだ。ずっと確認してきたステータスだから内容は頭に入ってる。間違いなく、100増えてますわ、これ。
つかなんで魔力なんだよ!
お前はもう良いっちゅうねん!
どうせなら一番低い魔法耐性とか上げてくれよ!
はあ……融通が利かないステータスだよ。まあ、多分これも『色欲』の影響なんだとは思うけど。
ネトゲではバランス良く鍛える派だった私にとってこの特化型ステータスは何と言うか、落ち着かない気分にさせられる。
魔法抵抗だけ二桁ってのもあるね。多分、吸血鬼の『柔肌』スキルのせいで魔法抵抗がダントツで低いんだと思う。
私が唯一黒星をつけられた山賊戦だって、白魔法を使われたことが一番の原因だったし、魔法抵抗の上昇は今後の大きな課題になりそうだ。
……え? 土蜘蛛戦?
あれは引き分け、引き分け。こうして無事に逃げ切r……【戦略的撤退】が出来たわけだしね。次会えば楽勝っすよ。もう二度と会いたくないけど。
しかし……改めて考えると何なんだろうね、このスキルとかステータスっていうシステムは。
私がずっとネトゲに入り浸っていたから、こういうステータスの見え方がするんだろうとは思ってたけど……今回のレベルアップに伴う、各種ステータス強化はいくらなんでも違和感が強すぎる。
例えば日本での生活を例にして、素手で猪を倒したら筋力が上がるか? 足が速くなるか? 体力が付くか?
そんなわけない。
あくまでそれらは自分の努力の結果であって、誰かを倒したからといって上昇するようなものじゃないはずだ。
なのにこの世界では実際にそうなっている。
これは……違和感というよりは最早、不気味だ。
この世界はどういう仕組みで動いている?
この世界はどういう原理で回っている?
この世界は……一体何だ?
「……考えても仕方ないか」
もしここにヘレナさんがいれば教えてくれたかもしれない。
だけど、実際ここにヘレナさんはおらず、私の中にも答えはない。
答えが出ないなら考えるだけ無駄と言うものだ。
ならば……進もう。
結局、スライムは四散してしまって食料にはならなかったし。
まあ、分かってたことだけど。もしかしたらウィ○ーインゼリーみたいな味がするかもと密かに期待するだけ無駄だったね。
本当にもう……この世界はままならないことが多すぎる。
「……でも、いや、だからこそかな」
にやり、と口角が釣り上がるのを感じる。
……楽しい。
──この世界は楽しい!
まるで新作のゲームを買ってもらった子供のように私ははしゃいでいた。
状況は絶望的。活路なんてどこにも見えない。
だけど……無理ゲーを攻略してこその廃人ゲーマーでしょ?
「やってやんよ……ここまで徹底的な底辺に堕としてくれたんだ。後は上がるだけさ。どこまでのし上がれるか……見てろよ、ヘレナさん」
ぴっ! と指先を天に突き立て、私は宣言する。
この世界を攻略してやるという、その誓いを。
見ているかどうかも分からない自称神様に向けて。




