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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第2章 迷宮攻略篇

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第41話 …………ん?

 このままだと……まずい。

 体中をスライムに覆われた私はかつてないほどに焦っていた。スライムはついに首元まで上ってきており、このままだと口を覆われるのも時間の問題だったのだ。

 スライムに殺されたとなれば元廃人ゲーマーの名が廃る。

 別にそんなもの廃ってもいい気はしたが、命がかかっているのだからどの道抗うしかない。


(何か……このスライムを引き剥がす方法はないか……!?)


 懸命に活路を探し……私は一つの方法を思いついた。


「う、ぐぐっ……」


 スライムの拘束により動かしにくい足を懸命に動かし、私はゆっくりと湖へと近づく。水中に移動して、スライムを物理的に引き剥がそうという魂胆だった。

 スライムのステータスにあった『液化』のスキル。

 これはおそらく今の形状を保つのに使っているスキルなのだと思う。液体になっている状態で水の中につかればどうなるのか。向こうも生物である以上、弱点はあるはずだ。その一つが水だと踏んでの行動だったのだが……


 ──ググッ、ググググッ!


 湖に近づいた途端、スライムの力が急激に強くなった。

 まるで私をそちらに行かせたくないかのよう。

 これはどうやら……ビンゴだったようだね。


「大人しく……しなさいっ!」


 渾身の力を込めて、湖へと近寄る。

 私とスライムで綱引きをしているかのような気分だ。

 ここで負けるわけにいかない。

 スライムに負けたとなれば元廃人ゲーマーの名が(以下略)。


「うらああああっ!」


 全力で跳躍した私はスライムの妨害を振り切り派手な音と共に湖へと着水した。

 だが……


(ええっ!? は、剥がれないっ!?)


 水中に没した後もスライムは私の体から剥がれることなく、へばり付いたままだったのだ。動きが緩慢にはなっているようだが、それだけ。

 水をかけた程度では引き剥がせないらしい。

 しかも、最悪なことに水中でスライムに絡みつかれているせいで泳ぐことすらままならない。湖へ避難したことが完全に裏目に出ている。スライムに呼吸を塞がれることを恐れて、水の中に飛び込んでそのまま窒息死とか冗談にしても笑えない。


(ぐ……それなら……っ!)


 結局水に浸した程度ではスライムの拘束を外せなかったが、私が湖を目指したのは何もスライムを水で洗い流そうという短絡的な理由からだけではない。

 水中では水中での戦い方が私にはあるのだ。


 イメージするのは竜巻。


 私が習得した闇系統の単一魔法である『影魔法』のように、それぞれの魔力性質にはそれぞれの特化魔法が存在する。

 闇系統なら影を収束し、物質化する『影魔法』。

 光系統なら魔力に干渉し、術式を破壊する『白魔法』。

 光系統に関しては私に適性がないから使えないけど、『影魔法』とは別に、私にはもう一つ残された魔法適性がある。


 それは……『風』。


 つまりは『移動』することに特化した『操魔法』だ。

 かつて私の体を宙に浮かせた実績を持つ、念力にも似た念動操作の魔法。私はまだまだ錬度が低く、この魔法を使いこなせる段階にはない。

 だけど……水中においてのみ、私はこの魔法を未完成の状態ながらも行使することが出来る。


『いいか、ルナ。全ての魔術、魔法はイメージにより完成される。常に思考することを意識しろ。考えることを止めた瞬間に、魔法はただの魔力に還元される。想像し、創造するんだ。出来ないなんて考えるんじゃねえぞ。自分の限界を自分で決めた瞬間にお前の成長は終わる』


 かつて師匠に言われた言葉。

 私とアリスはこの言葉に従い、常に新しい魔法の開発に尽力してきた。

 そして前にアリスと一緒に温泉に浸かっていた時に、暢気な顔で湯に浸るアリスに悪戯しようとして会得した私の固有魔法(オリジン)こそが、今……活路を開く!


 それは理論としては単純な魔法だ。

 風系統の魔力を使い、体に触れている水を操作する。

 ただそれだけ。

 本当は水鉄砲のように、ぴゅーっと水飛沫を発射する狙いだったのが、この魔法は私の予想を遥かに超える可能性を秘めていた。

 後になって名付けた私の初めて作ったオリジナル魔法。

 その名は……


(操魔法──発勁ッ!)


 頭の中で唱えた呪文に呼応し、水が流動を開始する。

 一瞬にして周囲の水は私の体を中心に渦を巻き、そして……


 ──ボンッッッッ!!


 爆発音にも似た快音と共に、水柱を空中に作り上げた。

 それはまるで水の柱のように。私の体から外向きに放たれた指向性の高い水圧はスライムごと周囲の水を勢い良く打ち上げたのだ。

 そしてざざざざっ、と雨でも降ってきたかのように水の飛沫が水面に舞い落ちる。一緒に飛ばしたはずのスライムの姿はどこにもなかった。もしかしたらあまりの水圧に消し飛ばされたのかもしれない。ざまみろ。


「はあ……はあ……」


 荒い呼吸を繰り返しながら何とか陸地へ帰還する。

 ところどころまだべたついているけど、ひとまずはスライムを引き剥がすことに成功した。

 ふう……これで一安心。

 しかしなかなかの強敵だったな、スライム。近くに水場がなければあのまま為すすべなくやられていたかもしれない。

 まあ、運も実力の内と言うし今は素直に迎撃できたことを喜ぼう。

 先に手を出したのはこっちの気がするけど、細かいことは気にしない。


《経験値が一定基準に達しました。レベル上限を解放します》


 …………ん?

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― 新着の感想 ―
スライムが水分の塊ならスライム自体に浸透勁打ち込めば良かったんじゃ…… 発勁知ってるなら浸透勁も知ってるだろうし、要は水分を波立たせて弾けさせるだけなんだから。
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