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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第7章 未来篇

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第374話 最強の盾と矛


 大量の血が地面に撒き散らされる。

 石造りの床が、あっという間に深紅に染まっていく。

 その光景を、滲む視界の中でどこか他人事のように私は眺めていた。


(……いや、しっかり、しろ……まだ、私は死んでない……)


 心臓への攻撃だけは影糸でなんとか守ることに成功した。

 あとは全身に突き刺さった剣をなんとか……


「…………?」


 剣の柄部分に何かが繋がっているのが見える。

 これは……糸か?


(そうか、武器に糸を繋げてそこを魔力の供給源にしていたんだ)


 手元を離れても残る影魔術ではなかった。手元から離れず、糸を使って遠くまで射出しているだけだったのだ。となると弱点もはっきりと分かる。


「致命傷は避けたか。器用だね、でもそれがいつまでもつかな?」


「…………ッ」


 追撃が、来る。その前に……


「影法師──『影槍』……っ」


 私の攻撃に備え、構えを見せる女王を無視して私は下方向……床に向けて、影槍を放つ。一撃ではダメだ、同じ場所ではなく円を描くように狙い、穿つ。


「……っ」


 私の狙いに気付いた女王は、慌てて影魔術を起動する。

 が、私の方が僅かに早かった。


「ぐっ……あああああああ!」


 全身をズタズタに引き裂かれながらも、私は体を捩じり、鋼鉄の網から逃れる。

 そして……ドガンッ! と、同時に砕けた床面から下の階へ落ちていく。


「ぐはっ……はっ、はっ……はっ……!」


 瓦礫と共に背中から床に叩きつけられた私は、物影を探して這いまわる。

 奴の魔術の弱点は私と変わらない。つまりは視界内という条件と、射程距離だ。

 始発点を定めたところで射程そのものは変わらない。女王の視界外かつ五メートルの距離を取ることができれば攻撃は当たらないと読んだわけだが……下の階へ逃れたのは正解だったようだ。


(女王の狙いは分かった……なら、私がするべきは一つだ)


 私の目的は女王の撃破ではない。過去へ無事に帰ることだ。

 となると、ノラの身柄を確保しこの城から脱出する必要がある。

 そのためにもまず女王から逃げる必要があるのだが……


「おいおい、人の家の床を勝手にぶち抜くとかどういう教育されてんだ」


 私が空けた穴から飛び降りて来たらしい女王に私を見逃がすつもりはないらしい。まあ、それもここまで敵対してしまった以上、当たり前なんだけど。


「その上かくれんぼってか? 倉庫で運が良かったね。隠れる場所は山ほどある」


 こちらの位置は掴まれていないようだ。落ちた衝撃で舞った埃が目くらましになっているのだろう。だが、地面に落ちた血の跡からこの場所もすぐに見つかってしまうだろう。何か、ここから脱出する術があれば……


 周囲を見渡した私は、壁にかけられたとあるものを見つける。

 この場所を倉庫と言っていたが、なるほど、こういうのもあるのか。

 これなら……イケるかもしれない。


「──そこか」


 壁際に移動しようとした瞬間、女王の声が届くと同時に、倉庫棚が吹き飛ぶ。

 物音であたりを付けた無差別攻撃だ。正確な狙いは出来ていない。


「くっ……!」


 左肩を切り裂く刃の感触。この程度ならすぐに再生できる。

 それより今は……


(これ……だ……ッ!)


 私は壁にかけられていたそれ……自動小銃を手に取る。

 監査局の人族が持っていた武器と同じ類だろう、なら使い方も分かる。

 安全装置を外し、照準を合わせ……トリガーを引く!


 ──バババババババババババッッッ!!


 轟音と共に、薄暗い室内をマズルフラッシュが照らしていく。

 反動で肩が吹き飛びそうだが、吸血種の腕力で強引に固定。狙いは適当でいい、こちらが強力な武器を持っていると認識させ、牽制するのが目的だ。


「うおおおおおおおおおおおおッ!」


 咆哮と共に壁際から移動する。女王の位置は掴めないから適当に乱射するしかない。だが、こちらから視認できないということは、向こうからもこちらの位置はつかめていないはず……


「まったく、こんな場所でそんなものを乱射するんじゃないよ」


 ……だったのだが、土煙を払うように正面から現れた女王は真っすぐにこちらへ突撃してくる。急所を守るように広がる影は盾か?


「バカが、火薬に引火したらどうする」


「──っ」


 一瞬で距離を詰めた女王の蹴りが私の腕を払いのける。

 逸らされた銃口は頭上に、私が再照準する暇さえなく女王の拳が迫る。


「──『影糸』ッ!」


 が、ギリギリのところで影糸による防御が間に合った。

 蜘蛛の巣のように張った影糸は女王の腕を絡めとり、勢いを殺す。

 私の腹部に女王の拳が届く頃には、アンナのぽかぽかレベルの威力にまで落ちていた。これなら……


「──『発勁』」


 ズン! という重低音と共に、私の身体中を衝撃が駆け巡る。

 今のは……風系統の……!


「ごぼッ……」


 魔力を衝撃に……まずい、内臓を、やられた……呼吸が……!


「心臓をもらうよ。悪く思わないでね」


 血を吐き、詠唱を封じられた私に女王の手刀が迫る。

 その狙いは一直線に心臓へ向けられている。が……


(詠唱はもう……終わっているぞッ!)



 ──ババババババッババババババッ!



 女王の背後から轟く銃声が、私達を呑みこんでいく。

 複数の自動小銃による一斉放射。まともに食らえば一瞬で肉片だ。


「ぐっ……!」


 襲撃に気付いた女王は背後に影の盾を生成、ゆらゆらと動く影は銃弾の雨を防ぐ幕となる。だが、気付いてから防ぐまでに相当のダメージを食らったぞ。

 位置的に私よりも先に銃弾に当たる女王は体中から血を流し、負傷している。

 叩くとしたら……今しかない。


(『再生』スキルによる回復を超える速度で攻撃を叩き込む!)


 私は背後に移動して距離を取りながら、影糸で掴んでいた自動小銃を手元に引き寄せる。女王のパンチを防ぐときに出した影糸の一部を伸ばし、私は背後にある自動小銃を動かしていたのだ。

 私の両腕は二本しかないが、こうすれば複数の武器を同時に扱える。

 複雑な動きはできないし、射程も五メートルしかないが、簡単な機構の拳銃であれば十全に扱える。言わば、魔術と兵器のハイブリッド。


「私の一番イヤな距離……ここだろ?」


 射程六メートルの距離を測り、射撃を続ける。

 マズルフラッシュに照らされる女王の表情にははっきりと苛立ちが浮かんでいた。自分の劣勢を悟ったか、それとも……


「この程度で優勢にでもたったつもりかッ!」


 迫る銃弾が女王に叩き込まれる。爆煙が周囲を包み込み、視界が曇るが……手ごたえはある。全ての銃弾が命中したはずだ。いくら吸血種の女王でも……


「仕方がないから見せてあげようか。レッスン1、これが私の最適武器だ」


 煙の奥で、女王が言う。


「影法師──『天覇衣(あまのはごろも)』」


 自身に満ちた声で、煙を払う女王。

 そこには漆黒の衣を纏う私がいた。

 爆風の影響か、揺れる布端……それも影魔術なのか?


「──無駄だ」


「…………ッ」


 試しにとばかりに発砲するが、女王へは届かない。

 今の、見えたぞ。私の銃弾を女王の衣が防いでいた。

 あの外套のようなフォルムの影は他の影魔術と同じく、高い硬度があるらしい。

 だが、銃弾の衝撃すらも完璧に防ぐとは……


「変幻自在の絶対防御。これが私の盾だ」


 私の攻撃を防ぎ切った女王は右手を伸ばし、指を拳銃に見立てて私へ突きつける。なんだ……? ただの意趣返し、か?


「──次は私の矛をみせてやる」


 言うが早いか、女王の指先に魔力が集中していくのが見える。

 螺旋を描くように収束していく魔力……そう、収束だ。影魔術を使うときにも魔力を練る。その動きと同じ……


(……イヤ、違う。これはもっと高度な『収束』だ……ッ!)


 指先に集められた魔力は集められ、束のように収められていく。

 ありえない密度の魔力だ。僅かでもバランスを崩せば魔力が暴走するぞ。幼い頃、私がその魔力を制御しきれず、周囲を嵐へ変えたように。


 だが……もしも、完璧な魔力制御でその力を完全にコントロールできたなら?

 更に更に、そのエネルギーを一定方向にのみ作用するように自らバランスを崩すことができたなら……?

 その答えを、私は知ることになる。


黒砲(こくほう)──『国崩(くにくずし)』」


 集められた魔力が生み出した極小の黒球、その外殻がひび割れ……


 ──衝撃が、世界を包み込んだ。


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― 新着の感想 ―
最強の楯と矛が出てきたら、矛楯対決させてみたくなるなーと思ってみたり 仮にも女王様が国崩はいかんでしょ…
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