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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第7章 未来篇

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第347話 ハーバー家の純心なる人々


 ノラが居候している家はハーバー家というらしく、突然おしかけた私を家にあげてくれたばかりか、真摯に私の話を聞いてくれた。


「と、言うわけで私は母の病気を治す手がかりを求めて放浪しているのです」


 とはいえ、千年前の世界から来ましたなんて言っても話がややこしくなりそうだったので、その部分だけは伏せての説明になってしまったが。いや、隠しているだけで嘘はついてないからね、嘘は。


「そう……」


 瞳を閉じ、俯き気味に話を聞いていたハーバー家の三人が私の話をどう感じたか……ちょっと嘘くさくなってしまったかもしれないと内心で焦っていると、


「それは……大変だったねぇっ!」


 どばーっ! と瞳から涙を流しながらうんうんうんうんと首を振る三人。

 隣に座っていたレイチェルなんかは涙を流しながら私の肩をばんばんと叩いてくる。ちょっと微妙に痛いからやめていただきたい。


「ちょっとアナタ! こんな話を聞いて見捨てるなんて私できないわ!」


「わだじもっ!」


 というか奥様とレイチェルさんは泣きすぎじゃない?

 自分で言うのもなんだけど、結構怪しいと思うよ、私。

 そんな簡単に信じちゃっていいの?


「ああ、そうだな……君の話を信じるよ」


 ああ、ダメだ。お父さんもそっち側だったか。

 私としてはやりやすいことこの上ないけど、ちょっと心配になる家族だな。


「せ、世話ならちゃんとノラがするから、ルナをここに置いてあげて欲しいっ」


 そしてノラよ、君も相変わらず説明の仕方が拾ってきた子猫のそれなんよ。


「私もお世話手伝うから! いいでしょお父さんっ!」


 レイチェル嬢も悪気はなさそうなんだけど扱いが……もうなんでもいいか。


「ああ。もちろんいいとも。散歩、忘れるなよ」


「はいっ! ……ありがとうございます!」


 いや、なんかいい感じに話がまとまったみたいだけどさ……

 散歩ってこの街の案内とか、そういうののことだよね?

 首輪付けて連れまわすつもりじゃないよね?


「それじゃあ早速部屋に案内してあげる! 私とノラの部屋と一緒でいいよね?」


「えっ……」


「ノラは問題ないよ、ルナもその方がいいと思う」


「よーし、それじゃあ早速いってみよー!」


 レイチェルに手を引かれ、階段を上がって二階へ向かう。

 案内されたのは二階の奥、木彫りのプレートにレイチェル&ノラと書かれた部屋だった。入った瞬間、ふわりと鼻をくすぐる甘い花のような香りが漂う。


「ノラがお友達を連れてくるなんて初めてでなんだか嬉しいわ! 改めまして私はレイチェル。よろしくね!」


「よ、よろしく」


 レイチェルは親愛の表現として私の手を握りぶんぶんと振り回す。

 彼女から受けた第一印象はとにかく元気な子、という印象だ。

 カレンのようなぐいぐい来るタイプと見たね。


「ルナはこの街に来たばかりだから、色々と教えてあげないといけなくて……ノラが説明するより、レイチェルの方が説明上手。だから……えと……」


「オッケー! そういうことなら任せて。私、生まれも育ちも百八番街だから!」


 そう言ってレイチェルは豊満な胸に手を当て、自信満々とアピール。

 いかん。同年代でここまでの代物を持っているとなると目が吸い寄せられる。

 男らしくするんだ私。男らしく……あれ、むしろここで視線が寄ってしまうのはむしろ男らしいことなのでは? いやいや、落ち着け。男としては正しいかもしれないが、人としてダメだろ。


「でも、どこの街でもルールは大体一緒だと思うんだよね。吸血種の人には気をつけるとか、魔術を調べたり使ったりするのがタブーだったり……」


「え? 魔術の使用って……駄目なの?」


 私がこの時代にやってこられたのはノラが『ノアの箱舟』を起動してくれたからだ。レイチェルの言葉に早速違和感を覚えた私はつい、ノラを見るのだが……


「…………!」


 ノラは真っ青な顔でだらだらと冷や汗を流していた。

 その様子にレイチェルはピンときたようで、


「……ノラ? まさかあなた約束破ってないでしょうね?」


「ヤ、ヤブッテナイヨ?」


「その顔は嘘ついてるときの顔だー! 白状しなさいっ!」


「わあああっ! ごめんごめん! またこっそり秘密基地に行ってましたぁっ!」


 ぽかぽかと貧弱そうな音を立てて殴るレイチェルに悲鳴を上げてガチビビりしているノラが完全降伏とばかりに頭を抱えて蹲る。まるで亀みたいだ。


「この……おばかっ! 魔術の研究はしちゃダメだって何回言えば分かるの!? あなたのご両親だってそのせいで中央に連れて行かれたのに!」


「だ、だからごめんってばぁ!」


 決して本気には見えない殴り方だが……レイチェルが怒っているのは伝わる。

 ノラはこの時代では禁止されていることをやってしまっているらしいね。


「魔術の研究って、やっちゃダメなの?」


「え……法律で決まってるじゃない。人族は魔術の修得も研究もしちゃダメよ」


「なんで?」


「なんでって……ダメなものはダメでしょう?」


 誰でも魔術を扱える時代から来た私には当然の疑問だったが、その答えをレイチェルは持ち合わせていないようだった。わざわざ法律で決まっているということは、そこになにか理由があるはずなのだが……


「……たぶん、人族が反抗できないようにだと思う」


 それまで謝ってばかりだったノラが、突然呟くように答える。


「魔術はとても大きな力だから……種族の差を簡単に埋めてしまうくらいに」


「ちょっとノラ、そいうことは思っていても言っちゃダメよ。危険思想の持ち主だと思われたらどんな処罰が下るか……」


「……そうだね、ごめん」


「…………」


 私の疑問から始まった会話のせいで、なんだかとんでもなく重い空気になってしまった……ノラの両親も魔術のせいで何か不幸があったみたいだし……ど、どうしよう、この空気。


「確かに生きづらい世の中かもしれないけど、不満を言っても仕方がないわ」


「……レイチェル?」


「私は今の生活が好きよ。お父さんがいて、お母さんがいて、ノラがいて……それで新しいお友達もできそうで。これ以上に望むことなんてないじゃない?」


 重たい空気を払しょくするかのように、パンと手を叩くレイチェル。


「というわけで、今日はルナの歓迎会をしましょう! 今日ならきっと夜中にお菓子を食べても許されるはずだわ!」


「ほ、ほんと? だったらノラ、アップルパイがいい!」


「だったらお母さんに頼んでこないとね。ちょっと聞いてくる」


 そう言ってレイチェルは部屋を後にする。元気で、明るい子だ。

 私やノラみたいな根暗とは違う。ああいうのを陽キャっていうのかな。


「ノラも……」


 私がレイチェルの背を見送っていると、暫定陰キャのノラがぽつりと漏らす。


「……ノラも、レイチェルと一緒にいられて嬉しいな」


 その一言に、思わず私は笑ってしまいそうになる。


「そういうことは本人のいるところで言ってあげないとね」


「む、無理だよ……だって、その……恥ずかしいし……」


 照れくさそうに話すノラはどうやら私以上に対人スキルが低いらしい。


(『ノアの箱舟』が使えたってことは、魔術の才能は相当あるはずなんだけどな)


 この才能や、グレイと言う家名から察するに、恐らくノラはノアの子孫か何かなのだろう。初対面で見間違えるくらいには似ているわけだし。グレイ家のDNAが強すぎるとは思うが。


 まあ、その辺もおいおい聞いていくとしよう。分からないことは山ほどあるが、時間に制限があるわけでもない。こういう時は慌てずに一つずつ情報を集めよう。

 予想外の時間転移にはなったが、きっとなんとかなるはず。そう信じて。


 ちなみに、その後帰って来たレイチェルに先ほどのノラの一言を告げ口しようとしたら真っ赤な顔でノラにガチのグーパンをもらいました。

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