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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第2章 迷宮攻略篇

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第33話 とある冒険者の冒険

新章開幕!

 よお、俺の名前はガンツ。

 迷宮と呼ばれるダンジョンに挑戦することが生き甲斐のしがない冒険者だ。

 今まで挑戦してきた迷宮は全部で3つ。回数にすれば27回だ。

 そのどれもが失敗に終わってきたが、今回ばかりは違う。

 ついに俺は切り札を手に入れたんだ。

 半年前にとある奴隷商人から買い入れた新しい奴隷……こいつが俺の切り札。迷宮攻略の要となるアイテムだ。


「おら、しゃきしゃき歩けよ奴隷。高い金出して買ったんだ。役に立たなかったら置いて帰るからな!」


「…………」


 ちっ……返事すらしねえ。


「ちょっとガンツ。あんまり虐めないであげなよ。奴隷だって人間、感情がないわけじゃないのよ?」


「ふん。俺の金で買ったモノをどう扱おうと俺の勝手だろうが」


「またアンタはそういうこと言って……もういいわ、知らない」


 そう言って松明を揺らすこの女は俺の古くからの冒険者仲間だ。

 今回のダンジョン攻略の話をして真っ先に飛びついてきた人間でもある。

 だが、気安い性格ってのはこういう時面倒でもある。

 俺のやることに一々文句つけてきやがるからな。

 鬱陶しいったらないぜ。


「……そこ、魔法陣がある」


「ん? おい、止まれ。トラップだ」


「トラップ? どこにも見えないが……」


「俺達にはな。だが、こいつは違う」


 俺は目の前のガキの頭を叩きながら告げてやる。


「こいつは魔力が直接目で見えるんだ。魔力を元にした魔法陣のトラップは全て感知できるってわけだな」


「ほう……それは凄いな。だが、魔力が目で見えるってことはそいつ長耳族なのか? どうもそうは見えないが……」


「ばーか。長耳族以外にもいるだろうが。魔力が直接目で見える種族がよ」


「え? それって……」


「ほらほら。無駄話している暇があったら進むわよ。食料にだって限りがあるんだから。お喋りなら休憩中にしなさい」


 ちっ、またかよ。

 折角人が良い気分で説明していたってのに。

 リーダーは俺だぞ。なのに年長面して、仕切りやがって。


 ムカつく。ムカつくが……まあいい。これもダンジョン攻略の為だ。

 この奴隷のおかげで道中の危険はぐっと減る。お宝に辿り着ける確率も上がるってもんだ。それにもしかしたら……到達できるかもしれない。

 このフェリアル大迷宮、その最深部へ。


 伝説では迷宮の最深部には秘宝と呼ばれる黄金の金属器が存在するらしい。

 歴史上、たった数人の冒険者のみが辿り着いたとされるその領域。

 これからそれに挑戦できるかと思うと……へへ、たまんねえな。

 それだけで金貨数万枚、下手したら数十万枚という高値のつく秘宝だがその価値はそんな上辺の部分にはない。

 伝説の金属器。

 その伝説の伝説たる由縁はもう一つの噂にある。


 曰く……黄金の光を受けた者はどんな願いだろうとたった一つ、たった一つだけ叶えることが出来るというものだ。

 もしその伝説が本物なら……とんでもねえことだ。

 どんな願いだろうと叶えてくれる黄金の金属器。

 もしも巡り合えたならどんな願いをしてやろうか。

 何しろたった一つだからな。慎重に選ぶ必要がある。


「…………」


「何だよ。何見てやがる」


 ふと気付くと例の奴隷が俺の方を見ていた。

 透き通るような蒼色の瞳には侮蔑の感情が浮かんでいるように見えた。

 ちっ……奴隷のくせに忌々しい目つきだ。

 お前らは黙って主人の命令に従っていれば良いんだ。

 それなのにこいつは買ったあの日から延々と俺をその瞳で睨み付けていやがる。くそ、確かに俺は歯向かうことのないよう命令したってのに。

 だがまだ奴隷になって日が浅いらしいし、そういうものなのかもしれん。

 多少の無礼は我慢してやろう。

 まだ貧相なナリをしちゃいるが、将来こいつはとんでもない美人に育つ。

 その頃には従順な奴隷に仕上げてやる。

 ひひ……その時が今から楽しみだぜ。


「おい、ガンツさんよ。別れ道みたいだがどうする?」


「あん? 別れ道? なんだ、もうここまで来たのか。そうだな……おい、奴隷。罠があるのはどっちだ。ちょっと見てみろ」


 俺が命令すると、奴隷はその瞳で道を凝視し始める。

 魔力が目で見えるってのがどんな感覚なのか分からないが便利なもんだ。

 こいつがいる限り俺達は絶対にトラップには引っ掛からないんだからな。


「……こっちに罠」


「左か。それなら進むのは右だな。よし、お前ら行くぞ」


 奴隷の指し示した方向とは逆へ進み始める。

 奴隷には俺の命令を無視した場合、痛みが走るよう奴隷紋に設定してある。

 だから絶対に嘘はつけない。

 ……そのはずだった。


「あ……?」


 気付いたときにはもう手遅れだった。

 床が発光し始めたかと思ったら、それは瞬く間に魔法陣となり床一面に広がったのだ。

 まず間違いなく、設置型の魔法系トラップ。

 そのエリアに侵入したものに何らかの攻撃を行う罠だ。


「くそっ! 全員伏せろ!」


 反射的にそう指示して俺も地面に伏せる。

 火炎か、雷撃か、水流か、針山か、風刃か。

 何が来るかは分からないが、魔法陣が発動してしまった以上できることは身構えることだけ。


 パーティメンバーが次々に身を伏せる中、そいつだけは立ったまま目の前の魔法陣を見据えていた。

 それは俺に嘘の道を教えた奴隷だった。

 今もなおその身を苛む激痛ゆえか、辛そうではあったがその奴隷は俺を見て……



 ──確かにほくそ笑んだ。



「…………っ!?」


 そのぞっとするような笑みを見た瞬間、全てを悟る。

 こいつはずっとこの時を待っていたのだと。

 俺を嵌める瞬間を虎視眈々と、この半年間ずっと狙い続けていたのだと。

 そして……光が俺達を包み込み、周囲の景色を一変させた。


「……こ、これは?」


「助かったの?」


「わ、分からん……さっきのは一体何のトラップだったんだ?」


 それぞれ助かったことにほっと息を吐き出しているが、俺だけははっきりと見ていた。


「これは……転移系のトラップだ」


 一瞬にして切り替わった視界。

 先ほどまでは整備された硬い土の上にいたというのに、いつの間にか俺達は洞窟のようにごつごつとした広間へと連れて来られていた。

 現状を正しく認識した俺の言葉に、他の冒険者も焦りの声を上げる。


「転移系だと? ま、まさか……っ!?」


 そう。これは数あるトラップの中でも特に凶悪とされる罠の一つだ。

 それが転移系トラップ。

 大迷宮のどこかへと飛ばされるこのトラップにかかればまず脱出は不可能とされている。この地下世界で自分たちの場所を見失えばどうなるか……いきなり迷路の隅から隅へ飛ばされるようなものだ。


 まず助からない。

 じわじわと絶望感が背中を這い登る。

 しかし、俺達は次の瞬間。更なる絶望を知ることになる。


「……ん?」


 微かに拾った音。

 それは足音だった。

 カサカサと、まるで布の擦れるような音。

 大きい。そして近い。


「お前ら。何かいるぞ」


 迷宮には数々の魔獣が生息している。

 だから最初はそれだと思った。


「……近くにはいないようだが?」


「そんな馬鹿な。俺は確かに聞いたんだ!」


 だが……そうではなかった。


「聞き間違いじゃないのか? とにかく今は落ち着こう。作戦を立てるんだ」


 そう言って地図を取り出したのは一番若い冒険者だった。

 貧乏な家計を助けるため、ここで一発当てるのだと張り切っていた彼の頭上に……


 ──ベチャリ、と。乳白色の液体が落ちてきた。


「っ……な、なんだ、上から何か……」


 彼の声に釣られるように、その場の全員が地下迷宮の天井へと視線を向ける。

 そして……見た。

 そこにいたモンスターを。

 凶悪な牙、赤黒い6つの眼球、体毛に覆われた8本の脚。


 それは蜘蛛だった。


 だが、それは俺達の知る蜘蛛ではなかった。

 何せその蜘蛛は体長が俺達の十倍近くあったのだ。

 まさに怪物。

 俺達の恐怖に歪んだ顔を映す眼球はぎょろぎょろと忙しなく動き回っており、俺達の恐怖を更に助長させた。


「うっ、うわああああああああああああああッ!?」


 叫び、逃げ出そうとした若い冒険者の首が一瞬にして吹き飛んだ。

 見れば空中を血の雫が伝っており、そこに細い糸が通っていることが分かった。

 到底目には見えない薄い糸。

 俺達はすでにこの怪物の手中にいたのだ。


 逃げ出そうと走り出す一人一人がその順番そのまま糸に絡め取られていく。

 俺はというと動くことも出来ず、ただ呆然とその様子を見守っていた。

 気が付けば周囲に生き残っているのは俺ともう一人、あの奴隷のガキだけだった。


「……お、おい……お前……な、何とかしろ。何とかしろよ! お前のせいでこんなことになってんだろうが!」


 恐怖に震える口で必死に吼える。

 それは最早命乞いに近い、懇願だった。


「頼む……た、助けてくれ……"ルナ"」


 一縷の望みに賭け、俺は初めてその奴隷の名を呼んだ。

 必死に縋り助けを求めるが、その奴隷は……


「……死ね」


 ただ一言。

 どこまでも冷たい瞳で俺を見つめるだけだった。

 そして……次の瞬間、俺は死んだ。

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― 新着の感想 ―
そして冒頭に戻ると さぁ!ダンジョンを出て裏切り者を探そうか!
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