第31話 ロリ奴隷って凄い響きだよね
さて……こうして奴隷にされちゃった訳だけど。
どうしよっか?
え? 軽いって?
だってなったもんは仕方ないじゃん。
考えても仕方のないことは考えない。
それが私の人生論。
ひとまずの目標はこの生活から抜け出すことだけど、それも奴隷紋がある以上どうしようもない。勝手にどこにも行かないよう命令された私にはこの牢屋を突破したとして外には出られないのだ。
いやー、参った参った。
あれからティナがどうなったのかも気になる。
すぐに応急処置をしてもらえれば助かっただろうけど今の私にはそれを確認する術がない。
こんなところでグズグズしている暇はないんだけど……うーん。駄目だ。解決策が見つからない。
とりあえずはこの生活をこなしながら逃げ出す機会を伺う感じかな?
といっても、今の私に出来ることなんてほとんどないんだけどね。
周りにいる他の奴隷の子たちと違って私にはかなり厳重な拘束がされている。
まず噛み付かないように猿轡。
うん。これ基本。
吸血鬼相手にはまず牙をなんとかしないとね。
おかげで喋る事も出来ませんわ。はっはっは。
そんでそれに加えて後ろ手に掛けられた手錠。鉄球に繋がった足枷。
完璧に私の動きを封じに来ているね。それだけ吸血鬼が恐ろしいってことなんだろうけど、今のステータスはほとんど人族と変わらないよ?
だからこれ外してー。
って言っても無駄か。
そもそも喋れないし。
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 8歳
LV1
体力:138/138
魔力:5066/5066
筋力:110
敏捷:120
物防:88
魔耐:46
犯罪値:212
スキル:『鑑定(77)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性(75)』『色欲』『魅了』『魔力感知(12)』『魔力操作(58)』『魔力制御(22)』『料理の心得(12)』『風適性(8)』『闇適性(15)』『集中(1)』『吸血』】
うん。やっぱりステータス落ちてるね。
……ん?
というかちょっと待って……
なんか、犯罪値上がってない!?
えと、前が確か124だったから……88も上がってる!?
ええー? な、なんで?
いや多分あれだろうなーって言うのはあるんだけど……ええー? そんなに上がります? 筋力とか敏捷性とかほとんど上がらないのにいきなり88? いや、これが何に影響しているステータスなのか全然分からないんだけど……ええー?
まずい、犯罪値の下げ方が分からない。
これって多分、あるよりはない方が良い系のステータスだよね?
今まで生きてきてたった3しか下げられなかったのに、いきなり88も増えるって……とんでもない負債を背負わされた気分だよ。
ま、まあいい。
とりあえず他のスキルも確認しておこう。
『集中:認識時間を延長させる』
『吸血:他者の血を吸うことで、ステータスを一時的に上昇させる。なお吸血には興奮作用が付随する』
まあ、この辺は予想通りかな。
吸血スキルの副作用的なのも想定内。
あの時の私、少し変だったし。
色欲の衝動にも似た、抗い難い強制力。
自分が自分でなくなってしまう感覚。
強力なスキルだけど、そうほいほい使わない方が良いかもしれない。
「おい、吸血鬼。餌の時間だ」
突然現れたサドラーはガチャリと牢屋の錠が開け、中に入ってくる。
お食事の時間だ。
内容はいつも決まって硬いパンと野菜のスープ。
育ち盛りなんだからもう少し考えてもらいたいね。
「俺を噛むんじゃないぞ」
「……あむ」
半ば強引に押し付けられたパンを咀嚼する。
ちょっと食べにくいな。
私の犬歯は吸血スキルを使った時から伸びたままだ。
角はいつの間にか引っ込んでいたけどね。見た目的にもどんどん吸血鬼らしくなっている気がする。あんまり嬉しくないことに。
「よし、食べたな。また夜に来る。それまで大人しくしていろ」
食事を終えたらすぐに退室。
少しくらい暇つぶしに付き合ってくれても良いのに。
まあ、話したいことなんて何もないけど。
はあ……退屈。早く新しいご主人でも何でも連れて来いっての。
猿轡を嵌められ、再びすることのなくなった私。
仕方ないからスキルの熟練度上げでもしておこうかな。
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俺の名前はシュルツ・サドラー。
奴隷商人だ。
俺の職業を聞いて嫌な顔をする奴もいるが、まあ、気持ちも分からないでもない。こんな家業、誰が好き好んでやるんだって話だからな。
人の不幸を常に見続けるこの職業は正直言ってきつい。
親を失い行き場を失った孤児。
金に困って自ら体を売りにくる浮浪者。
そして、他種族の子供。
色んな奴隷を求める人間の元へ送り届ける仲介人としての役割が俺の仕事だ。
先日俺の元へ届けられた女の子もまた、俺はどこかの誰かに売らなければならない。それも手に入れるのにかかった代金より高くだ。
最初は吸血鬼というレアな種族ということで楽勝かと思ったのだが、これがなかなか客が捕まらない。
得体が知れないという意味では確かに二の足を踏んでしまうのも分かる。
何せあの吸血鬼だ。
一昔前に起きた大戦で少数ながら我が人族に甚大な被害をもたらした種族……人族の突然変異などと呼ばれてはいるがアレは最早別物。人外の何かだ。
確かに吸血鬼には弱点が多い。
日光に弱かったり、水に弱かったり、火に弱かったり、匂いに弱かったり色々だ。生まれたばかりの吸血鬼は人族の人間に劣るほどに弱い。
だが俺みたいに他種族の情報を集めている人間は全員が知っている。
吸血鬼がなぜ、鬼と呼ばれるのか。
その由縁を。
始まりはただの弱者に過ぎない彼らが成長したらどうなるのか……駄目だ。考えただけでも恐ろしい。あんな怪物は早く手放してしまいたいのだが、買い手が見つからないのだから仕方が無い。
とはいえ……あの娘はどこか普通の吸血鬼とは違う気がする。
いや、吸血鬼というよりは普通の子供とは違うと言うべきか?
あの娘の目……あれは奴隷になる者の目ではない。
あれは支配する者の瞳。
ヒエラルキーの頂点にあることを疑っていない人間のする目だ。
あの娘は何か狙っている。
とても興味深いことにな。
奴隷としての生活に一体どこまでその精神力が持つのか見物だ。
今後、あの娘への警戒は怠らないようにしよう。




