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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第6章 従者近衛篇

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第314話 こいつらいっつも喧嘩してんな


 ニコラの驚きの発言から数日後、私はカレンの付き人として順調に日々を過ごしていた。

 あの日はその後すぐにアンナとデヴィットがやってきて、真剣な話をするムードでもなくなってしまったため、具体的な話は何もできずにいる。とはいえ、そんなことは大した問題ではなく、私としてはニコラともう一度真正面から話が出来るようになっただけでも心が軽くなった気分だった。


 まあ、本音を言えば人間に戻る方法より男に戻る方法を探す手伝いをして欲しいところだけどね。

 これは追々解決すべき問題として……


「……カレンお嬢様。私は危機感を感じています」


「何ですのルナ、藪から棒に」


「カレンお嬢様、いい加減に現実を見つめましょう。具体的に言うと、あなたの目の前にあるテストの結果を受け入れてください」


 教室のテーブルを挟んで向かい合う私達。

 私はテーブルの上に置かれた紙をとんとんと指先で叩く。

 具体的には先日行われたテスト結果の点数が書かれた部分を。


「100点満点中23点ってどういうことですか」


「100点満点中23点ということですわ」


 そげなことはわかっちゅーとね。


「私が聞いているのはどうしてこんな点数になってしまっているのかということですよ!」


 私がどんどんとテーブルごと紙を叩くと、カレンはビクッと体を震わせる。


「え、えーと……そうですわね、今週は色々と忙しかったものですから……」


「……もしかして私との早朝練習が体に響いて、勉強中に眠ってしまったりなんてことはありませんよね?」


「…………もちろんですわ」


 ジト目で問い詰めると、カレンは視線を逸らしながらそう言った。

 こいつ……


「本当に?」


「え、ええ……」


「本当の本当に?」


「……実はちょっとだけ居眠りしちゃったりしなかったり……」


 てへぺろ、と言わんばかりに舌を出しておっちょこちょいっぷりをアピールするカレン。だが、今の私はカレンの従者。主の為に行動する冷徹マシーンだ。その程度のぶりっ子に動じるほど私は甘くはないのだ。


「カレンお嬢様」


「何かしら?」


「帰ったらみっちりやりますので覚悟しておいてください」


「いやああああっ! みっちりコースはいやなのぉぉぉぉ! せめてがっつりコースにしてくださいましぃぃぃっ!」


 地獄の勉強コースにカレンは悲鳴を上げていた。

 放課後の教室で人が少ないとはいえ、はしたない言動にカレンをたしなめておく。


「しくしく……ルナは人の皮を被った鬼ですわ……」


 まあ、鬼だからね。実際。


「まったく、信じられない体たらくね、カレン」


 私とカレンが話していると、珍しくクレアが話しかけてきた。

 いや、ここ数日であまり珍しくもなくなってきているかもしれない。

 以前にはあまり見られなかった光景だが、私がカレンの従者となってからは割とクレア側からカレンに話しかけることが増えたような気がする。


 私がカレンと一緒にいるからだとしたら激しく萌え上がっているしまうところだ。

 あくまで級友との雑談というていにしたいからなのか、カレンにばかり話しかけているところも加点対象だね。

 まあ、この考察が私の妄想に過ぎない可能性はあるのだけれど。


「クレア! 体たらくとは言ってくださいますわね。そういうあなたは……」


「なに?」


「……どうせ高得点なのでしょうね」


「よく分かってるじゃない」


 カレンお嬢様……勢いで反論するから反撃喰らうんですよ。

 クレアに舌戦で勝てる奴なんて理屈屋のノアか捻くれ者の師匠くらいだろう。


「それで、一体どういう用向きですの? まさか私を笑いに来たわけでもないでしょう」


「それは……」


 言い淀むクレアがちらりとこちらに視線を向けてくる。

 なんだなんだ? どういう意図の目くばせだ? 一発芸でも披露すればいいのか?


「クレアお嬢様はカレンお嬢様とのご帰宅を希望されています」


「レイン!」


「黙りこくっていても話は進まないかと」


 脇からいきなり話題をぶちこんできた空気の読めないレインの言葉にクレアが頬を赤らめる。

 

「へぇ、なるほどなるほど。クレアは私と一緒に帰りたいのですわね?」


「ぐっ……」


 まるで弱みを握ったと言わんばかりに両腕を組んでニヤニヤと勝ち誇るカレン。

 なんで君達は常にマウント合戦してるんだ。普通に一緒に帰るだけだろうに。


「別にあなたと一緒に帰りたいわけじゃないし」


「それじゃあどうして私と一緒に帰りたいなんて結論になったのでしょう? 分かってますけどね。クレア、あなた本当はルナと一緒にいたいだけでしょう?」


「なっ……!」


「昔の従者のことが忘れられないなんて、恋人に振られた失恋女みたいでみっともないですわ~、でも、残念。ルナはもう私の従者ですので」


 そう言ってカレンは私をぎゅっと抱きしめる。ほっぺとほっぺがくっつくくらいの距離感だった。カレンの仲良しアピールに怒りと恥ずかしさからか顔を真っ赤にしているクレア。なかなか貴重な表情だ。心のアルバムに取っておこう。


「可哀想ですし、一緒に帰るぐらいの慈悲は認めましょう。ルナ、帰り支度をしますよ」


「……カレンお嬢様もなかなかに鬼ですね」


 ここまで一方的な口撃になるとは……図星を突かれたせいかクレアも全く反論で来てなかったし。

 それでそのクレアはというと……


「……決闘よ」


「はい?」


 唇を噛みしめ、両手を握りしめ、ぷるぷると真っ赤な顔で震えながらそのワードを口にするクレア。


「私と決闘しなさいって言ってるのよ、カレン! どっちが上かこの際はっきり白黒つけようじゃない!」


「ふふ、お勉強だけが取り柄の良い子ちゃんのあなたが私に勝てるわけないのですわ」


「魔術も学問の一つよ。学問での勝負ならあなたみたいなおばかさんに負けるわけがないわ」


「ばか!? 今、ばかって言いましたわね!? ちょっと成績が良いからって調子にならないで欲しいですわ! それに、ばかって言った方がばかなのですわ!」


「アンタはその口調含めて言動全てが完全にばかそのものなのよ!」


「ですのーーーーーーーー!?」


 小学生みたいな口喧嘩にカレンが爆発した。


「毎回毎回、人の事ばかにして……っ! もう怒ったから! 決闘でもなんでも付き合ってやろうじゃない! 後で後悔しても遅いんだからね!」


 途中からカレンの口調が素に戻っていることに気が付く。どうやら相当にヒートアップしているらしい。これを止めるのはなかなか骨が折れそうだ。


「では、決闘の日時を決めましょうか」


 そう思っていると、落ち着いた口調でレインがそう言い始める。

 従者なら少しは止めようとか考えないのかこいつ?


「ルールは学園の決闘に基づくということで。早い方が良いでしょうから明日の放課後でどうでしょう?」


 レインの提案にクレアとカレンは揃って頷く。どうやら本気でやるらしい。


「校章は賭けますか?」


「は? いやいや、そこまではしないわよ。負けたら退学になってしまうじゃない」


「それではただの喧嘩になってしまいます。決闘というからには敗者には何かしらの罰則(ペナルティ)が必要かと」


 レインの言葉に二人は顔を見合わせる。そして、同時にこう続けるのだった。


「「負けた方は……勝った方の言うことをなんでも一つ聞く!」」


 言い出したら聞かない系のお嬢様である二人の言葉に私はがっくりと肩を下ろす。

 いつかはこうなるだろうと予想もしていたことだ。仕方がない。付き合うとしよう。


「おい、レイン。せめて二人が安全に戦えるような場所と条件を……」


 私が外野として精一杯のフォローをしようとレインに視線を向けると……


「クレアお嬢様……ふふっ」


 するとそこには、私でなければ聞き逃していただろう声量で不気味に笑うレインの横顔があるのだった。

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