第304話 太陽が沈む日
大穴の開いた天上。ひび割れた地面。吹き荒れた家具。
ルナとキースの戦闘により荒れ果てた太陽の園、ギルド本部。
その瓦礫の山から這い出る人影が一人。
「ふぃぃ……まったく、どいつもこいつもバケモンかよ」
やれやれと服に着いた埃を払うのは太陽の園幹部。参謀を務めるハーマンであった。
彼はキースとテゾーロの戦闘に巻き込まれ、一時的に意識を失っていた。
ルナが参戦した辺りから意識はあったのだが、流れ弾を警戒して潜伏していたのだ。
「つか、いくら影が薄いからって俺のことみんな忘れすぎじゃね? 俺、泣いちゃいそう」
荒れ果てた大広間で独り言を呟く彼に、
「大丈夫だよーん。僕は忘れてないからさぁ」
天井から少女の声が降りかかる。
咄嗟に視線を上げたハーマンの視線の先にいたのは……
「あ、アンタは……」
流れる黒髪。真っ白な素肌を大胆に露出した衣装に身を包むのは16、7ほどに見える少女だった。
「アンタ? ちっちっち、僕の名前はアンタじゃないよ」
大穴の淵に腰を掛けていた少女は指を左右に振ると、軽やかに跳躍する。
「私こそが神に愛されし、絶世の美少女。無辜を司る第一天子、即ち太陽の神子──」
地面に降り立った少女は、左手を腰に添え、右手を目元でVの形にして高らかに宣言する。
「皆大好きネロちゃんです♪」
きらりん、と効果音でも付きそうな笑顔でピースを構えるネロと名乗った少女。それに対するハーマンは対照的な引きつった笑みを浮かべていた。
「ネロ……さん、どうしてここに……」
「いやー、ちょっと暇だったからさー。遊びに来てみたらびっくりだよ」
ぐるりと周囲の風景を視界に収めるネロ。
「随分とはしゃいだみたいだね。表のアレも含めて、さ」
「…………っ!」
「クローンっていうのかな? 何人も何人も出来損ないの怪物が徘徊していたよ。ねえ、あれは何かな? 僕たちは何も聞いてないんだけど?」
「お、俺は……」
段々と笑みすらも消え去っていくハーマンの顔色。
それが真っ青になったところで、ハーマンは地面に額をつけた。
「俺はやめようって言ったんだ! そんなことしなくても戦力は育つからって! でも、キースの旦那が……」
「キースが? ふーん……なるほどねぇ」
顎に手を添えたネロは思案顔を浮かべる。
「うん、大体事情は察したよん。彼は僕たちの家族になりたがっていたからねぇ。見るにアレは吸血鬼の亜種。どっから原液を入手したのかは気になるけど、本人がこれじゃなぁ」
そう言って地面に転がるサッカーボール程の大きさの物体を軽く蹴飛ばすネロ。
その視線はすぐにハーマンへと向けられた。
「君は何か知ってる?」
ネロの問いにハーマンは首がねじ飛ぶのではないかと思う勢いで横に振る。
「昔からそういう類の人間はいたんだよねぇ。超常の存在、人を超えた種に憧れる人間。つまりは吸血鬼になりたい人間が。キースがそれを望んでいたとは思わなかったけどね」
「…………」
「僕には理解できない感情だけどね。というか、僕らみたいな存在からしたらさぁ……」
呟くネロの右手がブレる。
「そういうの、さいっこーーーーに、ムカつくんだよね」
一瞬の閃光。瞬きする間に通り過ぎた一撃がハーマンの左腕を吹き飛ばした。
茫然としたハーマンは一瞬の間をおいて自らの左腕を見る。
光の奔流に飲まれ、消え去った己の左腕を。
「ひっ……ぎぁああああぁぁっぁぁああああああああっ!」
「あ、ごめん。今の完全に無意識だった。ナシナシ、今のナシ」
「ぐっ、うっ、ひぃっ、ひぃぃぃっ!」
「あー、やっちゃったなぁ。僕の悪い癖だ。すぐに手が出ちゃう。反省反省。まあでも、拷問の手間が省けたと思えばいっか」
血が噴き出る左肩を抑え、激痛に悶えるハーマンの眼前にネロは顔を寄せて尋ねる。
「んじゃ教えてくれる? 失敗作があるってことは成功作もあるよね? 何人いるの?」
「ひい、ひい、うっ、ぐ、ううううう……」
「もしかして言葉を忘れちゃったのかな? 右腕も吹き飛ばせば元に戻る?」
「ま、待って、ください……全部で二人……いや、三人、です……」
「名前は?」
「ね、ネネとノノ、こ、この二人はうちで管理してた、西地区の捜査を任せていたからそっちを探せば見つかる、はずです……」
「んで? もう一人はどこに?」
「そ、それは……分かりません。ここでキースと戦って、それからダレンと一緒にどこかへ……」
「キースと戦って? ……へえ、ってことはコレをやったのはその子なんだ」
近くに転がるキースの死体を横目に見るネロ。
その口元が小さく笑みを形作る。
「良いね。とっても良い。その子とは友達になれそう。俄然興味が湧いてきたよ。それでその子の名前は?」
ガタガタと震え続けるハーマンにネロが尋ねる。
痛みを知ったハーマンに逆らうことなどできない。
ゆっくりと開かれたハーマンの口から、その名前が告げられる。
「そいつの名前は……」
◇ ◇ ◇
「ルナ」
呼びかけられた声に瞳を開く。
どうやら私は眠ってしまっていたらしい。
疲れのせいかな。随分と長く眠っていたような気がする。
ガタガタと揺れる馬車の振動を感じながら体を起こすと、近くでお父様が私を心配そうな表情で見つめていた。
「大丈夫か? ずっと起きないから心配していたんだが……」
「ん、大丈夫です。ちょっと疲れてるだけなので」
私が体を起こすとしゅるり、と毛布がズレ落ちる。
自分で毛布を用意した記憶はないのだが……あ、もしかして。
「これ、お父様が?」
「ん、まあ、な」
口元に手を当て、視線を逸らしながら言いにくそうにしているお父様。
いや、これぐらいで照れるってどれだけ感謝され慣れてないんですか、お父様。
……仕方ない。ここは娘として私が一肌脱ごう。あ、違う。息子。息子ね。息子として。
「……ルナ?」
お父様に身を預けるように寄り掛かる私に、お父様が不思議そうな声を出す。
「もう少しだけ……休ませてもらっても良いですか?」
「それは構わないが……寒いなら別の毛布も……」
「いえ、これで良いんです」
立ち上がりかけたお父様を静止する。
距離感を測りかねているらしいお父様にはこれぐらいの荒療治が必要だろう。
昔から不器用な人だったしね。それに……
「……これが良いんです」
私もまた、少しだけ誰かに甘えたい気分だった。
それほどまでに辛く、厳しい戦いだった。
私の言葉にお父様は小さく、
「……そうか」
「はい」
短い会話。親子の会話としてはちぐはぐに感じてしまう。
だけど今はそれで構わない。
いつかはきっと、この距離感も埋まってくれるはずだから。
その為の時間も、私たちにはまだまだ残されているのだから。
どうも、お久しぶりの投稿になりました秋野錦です。
2019年も残すところあと僅か、皆様にとって今年はどのような年でしたでしょうか。
令和元年、新元号となって気持ちを新たにスタートした人……は、そんなにいないと思いますが今年、そして来年も皆様にとって良い年であることを祈っております。
と、前置きはここまでにして……
投稿遅すぎんだろうがおいぃぃぃぃぃいいいっ!!!
失踪したのかと思ったわ!生きてるならちゃんとUPしろ!
いやね? 私としても上げたかったんですよ?
でも、やっぱり人それぞれ色々と事情もあるじゃん?
忙しい時期って誰にでもあるじゃん?
つまり、そういうことです(反論を許さない断言)
真面目な話、来年の四月からは余裕も出来るはずなので……
…………出来る、かなぁ。出来ると良いなぁ。やっぱり出来ないかなぁ
まあ、そんな感じです。
皆さま、良いお年をv(≧∀≦*)v




