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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇

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第29話 殺意の波紋

 力を失い、倒れる体。

 私の横に派手に転倒したティナの口からは泡のような血が零れ出ていた。


「………………お母様?」


 何だ、これ。

 どうしてこうなった?

 何で……ティナが血を吐いて倒れているんだよッ!


「あ、あ、ああああァァァァァッ!?」


 焼けた両手でティナの体を抱き起こす。

 ……呼吸はある。心臓も鼓動を止めていない。

 だけど、このままじゃ……


「お母様……」


 語りかけるが返事はない。

 何度も笑いかけてくれたティナの顔色は今、真っ青に変色してしまっていた。

 なぜ? どうして?

 そんな疑問が頭の中を駆け巡る。


「私が……逆らったから?」


 私が大男に反抗しなければ……私が大人しくしていれば……少なくともティナに害が及ぶことは無かったのではないか?


 違う……違う違う!

 私はこんなこと望んでなんかいなかった!

 だったら誰が悪い? 誰がこの現状を作り出した?


 そんなの……決まっている。

 ゆっくりと視線を山賊達へと向ける。

 こいつらだ……こいつらがティナを刺したんだッ!

 その事実を認識した瞬間……


 ──私の中の何かが……キレた。


「……殺す」


 師匠の言いつけ?

 知るか、そんなもの。

 私は今、どうしようもなくこいつらを……殺したいんだ!


「あああァァァァァッ!」


 獣のような咆哮を上げ、大男へと襲い掛かる。

 殺す、殺す、殺す、殺してやるッ!


「ちっ!」


 大男が焦った表情でナイフを振るう。だが、その軌道はすべて見えている、かわすことなんて造作もない。極限の集中状況にある私はこの世界すべてがスローモーションのように見えた。


《スキル『集中』を獲得しました》


 だけど攻撃手段が乏しい。

 何か……武器になるようなものは……

 自らの手の内を探り、私は咄嗟にその方法を選んでいた。

 それはもしかしたら本能とも言うべき習性なのかもしれない。

 私は大男の懐へと入り込み……

 ──その首筋へと、歯を立てた。


「ぐ、ぎぃッ!?」


 ズブズブと犬歯が肉に沈み込む。

 元から鋭かった犬歯がこのとき、更に伸びたような気がした。


《スキル『吸血』を獲得しました》


 喉を伝わるのは大男の血液。

 それはまるで甘美な高級ワインのような味わいを私に与えていた。

 下がっていたステータスが一気にその力を取り戻す。

 体に力が溢れるようだ。

 これなら……殺せる。

 ──こいつらを殺せる。


「……あはっ」


「ぐ……何をやってる! 魔術を使え! この怪物を止めるんだ!」


 私が口を離した瞬間、大男は滅茶苦茶に腕を振り回して私を振りほどいた。

 体格ではかなり劣っているからね。取っ組み合いは不利だ。


「《光あれ──【ソーラ】》!」


 そして距離が開いた瞬間、再び光の魔術が飛んでくる。

 男は転移属性が低いのかそれほど速度のある魔術ではない。

 これなら……かわせる!


「ひっ!?」


 はは……驚いてる驚いてる。

 少しは感じてるのかな、私の殺意を。

 だとしたら嬉しい。

 お前たちには恐怖の中、死んでもらう。


「あはっ、あははははははっ!」


 愉快で愉快で仕方がない。

 他者を蹂躙する快感。

 他ではまず味わえない感覚だ。


【ルナ・レストン 吸血鬼

 女 8歳

 LV1

 体力:126/138

 魔力:5022/5066

 筋力:257

 敏捷:320

 物防:211

 魔耐:153

 犯罪値:124

 スキル:『鑑定(77)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性(75)』『色欲』『魅了』『魔力感知(12)』『魔力操作(58)』『魔力制御(22)』『料理の心得(12)』『風適性(8)』『闇適性(15)』『集中(1)』『吸血』】


 見ればステータスが元の倍近く跳ね上がっていた。

 道理で体が軽いと思ったよ。

 たぶん吸血の影響なんだと思うけど、とりあえず検証は後だ。

 まずは……この男達を殺す。


 厄介な魔術師の男は首元を掻っ切ってやった。

 二度と詠唱なんて出来ないよう、ナイフのような鋭い爪で皮膚を裂けば面白いように血が吹き上がった。


 次は大男。こいつだけは許さない。

 左腕、右足、左足。すでに関節をはずしていた右腕も合わせてすべての部位を破壊してやった。まるで虫けらのように悲鳴を上げる男の断末魔が心地よい。

 最後は男のナイフを使い、内臓を滅茶苦茶に抉りだして殺す。


 そこまでやってようやく私は気が済んだ。

 ふと周囲を見渡せば誰もが怯えたような目で私を見ていた。

 山賊を、ではない。私を、だ。

 彼らの瞳の奥、反射した鏡のその先に……


 ──一匹の鬼がいた。

 

 比喩でもなんでもない。

 額から伸びる漆黒の角、禍々しく輝く緋色の瞳、血潮を浴びたその立ち姿はまさしく鬼と呼ぶに相応しい形貌だ。

 それが自分自身の影であることに、私は遅れて気がついた。

 そして……


「なっ、なんだこりゃあ……っ!?」


「お、お頭!? し、死んでる……!?」


 外からぞろぞろと新手の山賊が姿を現す。

 その有様はまるでゴキブリだ。

 殺しても殺しても湧いて出てくる。

 ああ……駄目だ。

 私はまだ……終われないらしい。


「こいつ……こいつがやりやがったのか!?」


「お、鬼だっ! 吸血鬼だっ!」


「慌てるな、包囲して魔術を展開しろ!」


 見れば山賊たちの内、三割くらいは指に魔法石の指輪を嵌めていた。

 その人の魔力適性を補助する魔法石。使ったとしても下位魔術しか使えない程度の欠陥品だと師匠は言っていたけど、光魔術なら下位魔法でも十分私に対抗できる。

 やっぱり……これだけの準備をしていたってことは私が吸血鬼だと分かって襲ってきたのだろう。


 どこから情報が漏れたのか分からない。

 どうして情報が漏れたのか分からない。


 私は誰にも吸血鬼であることを明かしていない。

 一度アリスに話そうとも思ったが、それすら我慢した。

 だけど……今はそんなことどうでもいい。

 彼らが私を殺そうとするのなら、私も彼らを殺すだけ。

 私はティナを馬車に置き去りにして、戦場へと駆け出した。

 もう二度と戻れない修羅の道へ。

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― 新着の感想 ―
本当はもっとハッピーな展開を期待していた。読むのが辛い。
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