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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第5章 縁者血統篇

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第286話 演者決闘

「ルナっ!」


 私の名を呼ぶ声に、裏路地を駆ける足を止める。

 振り返るとそこには、見知った仲間の姿があった。


「イーサン? アンタ、どうしてここに……」


「はあ……はあ……お前の、手伝いに……来たんだよ……」


 どうやらここまで必死に走ってきたらしく、イーサンは珍しく息を切らしていた。


「手伝いにって……アンタには王都に帰る準備を頼んでたはずでしょ? そっちはどうしたのよ」


「その役はアンナとウィスパーのおっさんに頼んだ。機動力は俺の方があるからな。こうして駆けつけてきたってわけだ」


 ふう、と大きく息を吐き改めて私に向き合うイーサン。


「……お前は一人でやるって言ったけどよ。やっぱりそれは違うと思った。確かにこれはお前が始めた喧嘩で、お前にしか関係のない話なのかもしれない。だけど、それでも俺はお前の力になりたい」


 真っ直ぐな瞳で私を見つめるイーサンにはある種の決意のようなものが滲んでいた。


「もう嫌なんだよ。友達が俺の知らないどこかで一人戦ってるなんてのは」


「イーサン、アンタ……」


 イーサンの言葉に私が思い出したのは、いつか王都でイーサンが語っていた思いの丈だった。そんなことは気にしなくて良い。そんな考えが頭を過ぎったが……


「頼む。俺も一緒に戦わせてくれ、ルナ」


 どこまでも純粋なイーサンの思いを断ることが、私にはどうしても出来なかった。


「……分かった。それなら一緒に行こう」


「ルナっ!」


「言っておくけど、怪我しても知らないからね?」


「ああ! 上等だ! 今までの特訓の成果を見せてやるぜ!」


 私が同行の許可を出すと、にこにこと嬉しげに表情を綻ばせるイーサン。

 一体何がそんなに嬉しいのやら。だけど、イーサンの参戦は正直ありがたい。これで私のパーティはリンとイーサンを加えた三人になったわけだけど……


「……足だけは引っ張らないで」


「あ! てめぇ、わんこ! 俺達置いてさっさと一人で行きやがって! おかげでちょっと迷子になっちまっただろうが!」


「……知らない。足の遅い奴が悪い」


「なんだとぉっ!?」


「ちょっと、いきなり何喧嘩してんのよ。貴方達」


 ……先が思いやられる編成だなあ。この面子で本当にやっていけるのか? 良く見れば子供ばっかりだし。


(ま、なんとかなるか。戦闘能力だけは折り紙つきの三人だし)


 頭を抱えつつ、そんな楽観的なことを考えていると……


「楽しそうなことをしているね、ルナ」


「…………っ!?」


 また、別方向から私の名を呼ぶ声が。

 新手の追手かと、身構えるのだが……


「あ、アポロ!?」


「やあ。久しぶり……ってほどでもないか」


 にこやかな笑みと共に私を見るアポロ。

 すでにこの街は後にしているものだとばかり思っていたけど……どうやら、まだ滞在していたらしい。


「にゃははっ! 相変わらず面白いことしてるねぇっ!」


 その両隣にはアポロを挟むように、彼の従者達、メイとベラの姿もある。メイは両手に細いナイフを、ベラはごつい大剣を肩に担ぐようにして持っていた。明らかにどこかで戦ってきた様子。


「何があったの?」


「どうも街の様子が騒がしかったからね。少し静かにしてもらったんだよ」


「それって……」


 もしかしたらアポロ達も手伝いに来てくれたのかもしれない。

 そんな私の淡い期待は……


「っ! ……ルナッ、かわせッ!」


 イーサンの叫び声と共に掻き消えた。

 直後、ギィィィンッ! と鋼のぶつかる音が路地裏に響く。


「……へえ、良い反応するじゃねえの」


「アンタの殺気、駄々漏れすぎんだよっ」


 見れば大剣を振り下ろしたベラと、それを鞘に入ったままの剣で受け止めるイーサンが互いに睨み合っていた。


「ベラ、気が早すぎるよ」


「なに生ぬるいこと言ってんだよ大将。戦いってのは先手必勝さ。どの道、この嬢ちゃんに退くつもりなんてねえだろうしな」


 アポロの言葉に一度剣を引き、後退するベラ。


「あ、アポロ? 何を……」


「ん? ああ、ごめんね、ルナ。僕達も冒険者だから、受けた依頼は何としてでも遂行する義務があるんだ。だけど安心して。命までは取らないから」


 いつものにこにこ笑顔で、意味の分からないことをのたまうアポロ。

 冒険者の義務だって? まさか、こいつら……


「ちっ、金の為なら友情すら売るかよ。この下衆どもが」


「冒険者ってのはそういうものさ。それに友情があるからこそ、止めに来たんだよ。馬鹿なことはやめて、おうちに帰りなさいってね。これは人生の先輩からの有難いアドバイスさ」


 アポロのあの言い方、どうやら何があったのか、大体の事情は把握しているらしい。迷宮攻略の時にすでに色々と話してしまっているし、私の目的も知られているのだろう。

 だが……


「……うちに帰れ、だって?」


 今さら引くつもりなど、私にはなかった。


「私は決めたんだ。お父様は連れて帰る。誰にも邪魔なんてさせない。それがどんなに難しくても、不可能に思えても、私は妥協したりなんかしない。だから……」


 誰にも譲れない、不退転の意思。


「そこをどけ、アポロ」


 そんな私の覚悟を見て、アポロは小さく笑みを浮かべ、


「そっか……」


 ──その表情からすぐに笑みを消し去った。


「メイ、ベラ……()()


「あいあいさ~っ!」


「どうせこうなるって思ってたぜ!」


 アポロの号令に合わせ、駆け出してくる二人の従者。

 そんな二人に合わせ、私も影法師を展開するが……


「邪魔は……っ!」


「……させない」


 それより先に、リンとイーサンが駆け出していた。

 メイの振るうナイフをリンの小太刀が受け止め、突き出したイーサンの剣をベラの大剣が受け止める。それぞれが牽制することで、奇妙な空白地帯が間に生じ……


「さて、僕らも始めようか、ルナ」


 その先で待つアポロが無手のまま誘う。

 譲ることの出来ない、大将戦へと。

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