第27話 悲報は突然に
突然押しかけてきたティナは思う存分私を撫で回すと、師匠を呼ぶよう私に言いつけた。
順序がおかしいような気がするけどまあいい。
どうも雰囲気からしてただ遊びに来たって感じじゃないし、何かしらの用事があるのだろう。
「始めましてマフィ・アンデルさん。ルナの母、ティナ・レストンです。まずは娘を2年以上もの間お世話してくださったことに感謝致します」
「おう」
師匠と母親の会話。
何だか学校の三者面談を思い出す構図だな。
というか師匠もせめて名乗れよ。相変わらずマイペースだなあ。
「それで本日伺った用件なんですが……実はルナをアインズへ連れて帰らなくてはならなくなったんです」
「それは……また急なことだな。何かあったのか?」
「ええ。実は……ルナがよく遊びに行っていた孤児院の先生がこの前亡くなったんです」
「…………え?」
今、ティナはなんて言った?
孤児院の先生が亡くなった?
それってもしかして……マリン先生のこと!?
「お、お母様、それってどういうことですか!? マリン先生が亡くなったって、いつ!? どうして!?」
意味が分からない。
マリン先生が死ぬような理由なんて何もないはずだ。
先生は健康そのものだったし、いつも元気で……死ぬなんて。絶対にありえないはずだったのに。
「う、嘘じゃないの?」
「……うん。ルナは修行中だから黙っておこうってお父さんは言ったんだけどね。それじゃあまりにも可哀想だと思って」
「そ、そんな……」
マリン先生が……死んだ?
本当に?
……まずい。泣きそうだ。どうしようもないくらい……悲しい。
「……そういうことなら早く戻ったほうが良いだろうな。急な話になっちまったが仕方ない。アリスもいいな」
「う、うん……」
それから師匠とアリスに荷造りを手伝ってもらい、私は王都を離れる準備を終えた。
馬車乗り場まで見送りに来てくれた師匠とアリス。
最後の最後まで優しい人たちだった。
「師匠、アリス……あの。今までありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げるとアリスは「いつでも会いに来ていいからね?」と私をぎゅっと抱きしめた。
「俺の言ったこと、忘れるんじゃねえぞ」
「はい。師匠もお元気で」
「……ああ」
去り際に師匠は顔を背けて呟いた。
尊大で横柄な彼女には見られたくない顔がある。
最後まで格好つける師匠に思わず苦笑し、私は王都を出発した。
「ルナっ! また会いましょう! いつかきっと!」
手を振るアリスの姿がだんだん小さくなっていく。
その頃になって私はようやく、"別れ"というものを痛切に理解した。
アインズを出るときも感じたけど、今度のはまた少し違う感覚だった。
「ルナ、大丈夫?」
「……うん」
隣に座るティナの手を握り、痛みに耐える。
頬を流れる一筋の涙に、私は自分がどれだけこの生活に愛着を感じていたのか、改めて思い知った。
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ルナを見送ったマフィはアリスを連れ、自宅へと歩いていた。
「う、ううっ……ルナぁ……ぐすっ……」
「いつまで泣いてんだよアリス」
「だ、だってぇ。ルナがいなくなったのよ? マフィは寂しくないの?」
「ふん。俺はもう大人だからな。この程度のことでびーびー泣いたりしねーんだよ」
「……さっきちょっと泣いてたくせに」
「なっ!? て、てめえ見てたのかよ!」
「泣きたい時に泣けないなんて、大人って大変ね」
「べ、別に泣きたくなんてねーし。つかお前こそずいぶん素直になったもんじゃねえか。昔は何をするにもツンケンしてたくせによ。そんなにルナと一緒にいるのが楽しかったのかよ」
「ふん。少しくらい舞い上がってもいいじゃない。初めてのお友達だったのだから」
「まあ、お前基本ボッチだしな」
「う、うるさいわね。仕方ないでしょう、こんな体してるんだから」
ぎゅっ、とフードを強く握るアリスはきょきょろと落ち着かなさげに周囲を見渡す。誰かに長耳を見られてはいないか気が気でないのだ。
「まあ、何の抵抗もなくお前を受け入れられるのはアイツぐらいのもんだろうな」
「? どういうこと?」
「アイツもアイツで特殊な生い立ちしてるっつーことだよ。ま、お前には教えてやらねーけど」
「何でよー! 教えなさいよ!」
「やだねー。それより今日からお前が料理当番なんだから気合入れとけよ」
「えっ……また私がやるの?」
「ああ。ルナのより不味かったら作り直してもらうかんな」
「え、ええー……」




