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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第5章 縁者血統篇

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第275話 心の隙間

「それじゃあ、行ってくるね」


 迷宮攻略も終わり、私はついに目的の大金を得た。

 これでお父様を救うことが出来る。


「最後に確認なんだけどさ、これ、本当に全部持って行っても良いの?」


 私が金貨の詰まった袋を掲げて見せると、皆は同様に頷いて見せた。


「元々その為にやったことだしな。父親を確実に救うためにも、多すぎて悪いってことはないだろう。残った分に関してはまた後で決めれば良い」


 ウィスパーの言葉に、他の皆も異論はないようだった。

 リンやイーサンも命を賭けて戦ってくれたというのに、その代償を求めようとしない。その献身ともいえる姿勢に心苦しくなるくらいだ。


「ありがとう。この恩は絶対に返すから」


 頭を下げて感謝を告げると、ぐいっ! と引っ張られる感触。


「感謝されるようなことじゃねーっての! ほら、それで父親が救えるんだろ? だったらもっと嬉しそうな顔して会いに行ってやれっての!」


 見ると満面の笑みでイーサンが私の肩を抱き寄せていた。

 というか近い。マジで近い。最近思うが、こいつには異性と接しているという感覚はないのだろうか? 完全に友達のそれだぞ、これは。まあ、異性として接されても気持ち悪いだけなんだけどさ。


「……ルナが幸せになれるなら、私はそれで良い」


「リンちゃん……」


 ああ、そしてこのリンちゃんの健気さよ。この子は一体どこまで私の心を奪っていけば気が済むのか。もしかして天使か? 天使なのか? うん、天使だ(自己完結)。


「道中は私が護衛しよう。迷宮攻略では力になれなかったからな」


 これから『太陽の園』のギルドへ向かおうとする私に、オリヴィアさんがそう言って隣に並ぶ。


「そ、それならアンナも行きますっ!」


「男も一人くらいはいた方が良いだろ。俺も行くぜ」


「ちょっとそこまで行くだけなのに……」


 オリヴィアさんに加え、心配性なアンナとイーサンに思わず苦笑が漏れる。


「何かあったらアンナがお姉さまをお守りします! 傘にでもなんでもなりますから!」


 迷宮攻略に置いていかれたのがやはり辛かったのか、意地でもついてくる様子のアンナ。この時間帯だから、太陽のことも心配しているのだと思う。けど流石に傘はね。


「それなら一緒に行こうか」


「はいっ!」


 アンナが必死に両手を広げている絵を想像して、思わず笑みが漏れる。

 街中ならそれほど危険もないだろうし、好きにさせようかな。


「良し、それじゃあ行こうか」


 結局ギルドへはオリヴィアさん、アンナ、イーサンの三人と共に行くことになった。外に出ると太陽光が容赦なく私に襲い掛かるが、そこは持っていた傘を広げることで予防する。


「俺も傘が欲しかったぜ」


 さんさんと照り返す日差しに、イーサンがぼやく。

 アンナは何も言わなかった。どうやらイーサンの傘になるつもりはないらしい。


 すれ違う人達をやり過ごし、十数分と歩けばすぐに目的地に着く。相変わらずの姿で佇む『太陽の園』のギルドを前に、私が思うのは以前に見た地下研究室の光景だった。


(この下に今もいるんだよね。あの子達が)


 ネネとノノ。二人の双子に良く似た少女達。

 何とかしてあげたいとは思う。だけど、それ以上に私にはやらなければならないことがある。なんとも恣意的な理屈だとは思うが、いつだって私はそうだった。


 自分のやりたいように、自分の求めるものを。

 全てを手に入れることなんて出来ないのだから、それも当然だ。

 けど……きっとオリヴィアさんのような人は違う道を選ぶのだろう。隣を歩く彼女を見て、ふとそう思った。


 オリヴィアさんは大義の為に、感情を殺せるタイプ。自己の利益よりも全体の利益を優先できる人種。そんな彼女の生き様をあの胡散臭いテゾーロという男は『王道』と例えていた。


 今となってはそれも理解できる。

 この街に来て、私は自分の本質をより正確に理解していた。


 リンを助けたときもそう。シアを助けたときもそう。アリスとクレアのときもそうだった。私は私の感情にのみ従って選択してきた。

 その結果救われた人は確かにいるだろう。だけどそれは私のエゴが生み出した結果に過ぎない。オリヴィアさんのような人とは根本からして違う。彼女達は他人の為に動いているのに対し、私は私の為だけに動いているのだ。

 それが今回の旅で良く分かった。


「あの、大丈夫ですか? お姉様」


「え?」


「顔色が優れないようだったので……」


 私の顔を心配性な表情で覗きこむアンナ。

 これはいけない。私は私の意志でこの道を選んだのだ。だったらせめて自信を持たなければ。自分の歩く道はこれで正しいのだと、誰に非難されようともそこだけは曲げるわけにはいかない。


「大丈夫だよ。アンナ」


「そうですか?」


「うん。心配はいらないから」


 アンナが安心できるよう、できるだけ優しい笑みを浮かべてみせる。

 アンナはひとまずはそれで安心したようで、それ以上追求してくることはなかった。彼女の姉貴分として、もっとちゃんとしないとね。


「さて……」


 持っていた傘をパチリ、と閉じ、私は覚悟を決める。


「交渉と行きますか」


 お父様と再び会う、その覚悟を。

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