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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第5章 縁者血統篇

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第274話 冒険を終えて

「ありがとう、アポロ。貴方のおかげで助かったわ」


 私達が使っていた宿に併設されている酒場にて、私達は迷宮攻略の打ち上げを行っていた。隣に座るアポロは私の言葉に、嬉しそうに笑みを浮かべている。


「僕達もやりがいのある仕事をもらえて嬉しかったよ。報酬も申し分ないしね」


 ジュエルトータスが備えていた魔鉱石の結晶。アポロがそれを持ってきてくれてからは簡単だった。特に強力な魔物に出会うこともなく迷宮を後にした私達はまず、魔鉱石の結晶の売却から行ったのだが……


「これだけの額があれば一年は暮らしていける。本当にありがとう、ルナ」


 その結果は予想以上だった。

 三割の報酬を約束していたアポロ達もこの額で文句はないようだし、結果は上々と言ったところだろう。問題があるとすればベラの容態が心配だったことだけなのだが、


「おらおら、もっと酒持ってこーいッ!」


 大ジョッキでエールをあおるように飲むベラの姿を見るに、そこまでの重傷ではなかったようだ。もしかしたら巨人族というのは私やリンと同じように、自然治癒能力に長けているのかもしれない。


「それで? ルナはこれからどうするの?」


「私? 私はお父様の借金を返したらすぐに王都に戻るよ」


 正直言って、この街の雰囲気は苦手だ。

 あまり長居したい街でもないし、皆が待つ王都に早く戻りたいというのが私の本音だった。


「そっか、王都か。それなら僕達とはここでお別れだね。少し寂しいけど、君と父親の無事を祈ってるよ」


「これだけあれば返せないってこともないだろうけどね」


「確かにね」


 今回の報酬で得た額を思い出す。

 これで駄目なら、もう笑うしかない。


「それでも、もし何かあったらまた僕達を頼ってくれても良いから。ルナとはこれからも良い関係を続けていきたいし」


「また会うことがあるかは分からないけどね」


「きっとまた会えるよ。そんな気がするんだ」


 苦笑する私に、意味深な台詞を残すアポロ。

 これは……どう受け止めれば良いのだろう。悪い意味ではないのだろうけど、これを素直に受け取るのはどうにも嫌な予感がしてならない。ここは無難にかわしておこう。


「そうだね。また冒険者同士として、どこかで会うこともあるかもしれないからね」


 ティナが昔言っていた。男は単純だから気を持たせるような台詞を吐けば、付きまとわれることになるわよ、と。女としての処世術など覚えたくはなかったが、実際そうなってみると厄介だということはすでにウィスパーで経験済み。

 二度も同じ間違いは犯せない。

 いやまあ、ウィスパーのことは嫌いではないのだけどね。


「……そうだなぁ」


 呟くようにそう言って、くいっ、とエールを飲み干すアポロ。


「さて、僕は少し涼みに行ってくるよ」


「今から外に? 危なくない?」


「大丈夫だよ。暴漢程度になら、そうそうやられることはないから」


 柔らかい笑みを浮かべ、酒場を後にしようとするアポロ。


「あれ? 主様、出て行くの? だったらメイもいくぅ!」


「んー? おいおい、マジかよ。今からが良い所だってのに」


 それを見て、メイとベラの二人も立ち上がる。アポロは一人で大丈夫と言っていたが、二人はそれを受け入れなかった。


「主様はメイが守ってあげるねっ!」


「大丈夫って言ってるのに……」


 ぴょんと背中に抱きつくメイに、アポロは頭を掻きながらテーブルに幾つかの硬貨を置いた。


「ごめん、ルナ。先に支払いだけ済ましておくね」


「ううん。ありがとう。気をつけてね」


 軽く手を挙げ、酒場を後にするアポロ一行。

 これで彼等との契約も終わり。再び会うことはもうないかもしれない。


「よう、白い子ぉ。飲んでるかぁ?」


「え? イーサン? って酒くさっ! アンタどんだけ飲んでるのよ!」


 私がしんみりしていると、突然肩を抱かれ、アルコールを含んだ息が肌にかかる。正直、気持ち悪い。ぶん殴ってやりたかった。


「んー? 白い子、お前、それ水じゃね?」


「私が酒を飲むわけないでしょ。歳を考えなさいよ」


 別にこの国には飲酒に年齢制限があるわけではないが……何と言うか、気分的に悪いことをしているみたいで、飲酒は憚られた。


「ところでイーサン」


「ん? なになに?」


「アポロのことなんだけどさ、何があったの?」


「んー? それはあの亀と戦ってる時のことか?」


「そうそう。あの時、私はいなかったからさ。アポロがどうやってあの魔鉱石の結晶を持ってきたのか気になってさ」


 今回の迷宮攻略における一番の謎。それはアポロの実力についてのことだった。一度アポロにどうやって魔鉱石を持ってきたのか聞いたことがあったのだが、その時はうまくはぐらかされてしまった。

 だからこそ、私はアポロの実力に関して、未だ計りかねていたのだが……


「……正直、分からん」


「はあ?」


 イーサンから返ってきた答えはなんとも漠然としたものだった。


「分からんって……貴方は、実際にその場にいたんでしょうが」


「確かにそうだけどよ。俺だってただ遊んでたわけじゃねえんだ。気がついたらいつの間にかアポロが結晶を持ってた。俺の印象はそんな感じだな」


「…………」


 いつの間にか、か。

 確かに私達が避難してから、アポロ達がやってくるまでそんなに時間はかからなかった。ならば、実際にアポロが魔鉱石を奪取するのにかかった時間も微々たるものだったのだろう。それだけの時間なら見逃してしまってもおかしくはない、か。


「……最後の最後まで良く分からない男だったわね」


「だな」


 仲間と呼んでも良いほどに親しくなったアポロ達。

 だが、最終的な評価はそんな微妙なものだった。



---



「良い人達だったねー、メイ、あの人達のこと結構好きかも」


「ま、悪い奴らではなかったな。少しお人好し過ぎる気はするが」


 柔らかい涼風が流れる夜の街に、ゆっくりと歩き回る三人の人影。


「そうだね。僕もまた会いたいと思うよ」


 それは酒場を後にしたアポロ達だった。


「ルナは冒険者ではないんだろ? だったらもう会うことはないと思うけどな」


 希望を口にするアポロに、淡々とした口調で答えるベラ。その時のことだった。


「すまない、君達は冒険者なのか?」


 フードを目深に被った一人の男がアポロ達に話しかける。薄暗い通りでは相手の顔もはっきりとは見えない。声に立ち止まりはしたが、不審げにその男に視線を向けるアポロ達。


「頼む、依頼がしたいんだ」


「おい、アンタ。そういうのはマナー違反だぜ。依頼があるなら、冒険者ギルドを通してから……」


 アポロの前に立ち塞がるように出たベラに対し、男はゆっくりとフードを外し、前に出る。


「頼む」


 必死な表情を歪め、頼み込む男。

 そのただならぬ雰囲気に、思わず聞き入ってしまうアポロ達は……

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