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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第5章 縁者血統篇

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第269話 迷宮攻略、再び

 あれからのこと。

 結局『太陽の園』の幹部達は私に何をするでもなく立ち去っていった。テゾーロだけは申し訳なさそうにしていたが。


「冷や冷やしたね。彼らはこの街を仕切ってるギルドの幹部だ。司法局や騎士団も買収してるなんて噂もあるくらいだし、何をされてもおかしくなかったよ」


 後でアポロから話を聞いて今更ながらにとんでもない人達に絡まれてしまったと思い知った。全てはあのテゾーロのせいだ。なんで私を目にかけたのかは分からないが本当に依怙贔屓なのだとしたら勘弁して欲しい。


 まあ、それはそれとして……


「さてと、準備は出来たかな?」


 私の号令にその場の全員が頷く。

 リン、ウィスパー、イーサン、アポロ、ベラ、メイ。

 それが私と共に迷宮に挑む仲間達だった。


「迷宮を見るのは初めてだけど意外と普通の見た目をしているんだね。もっとおどろおどろしいのを想像していたよ」


 私の隣でアポロは眼前の迷宮への入り口を見て呟く。

 確かに知らない人がみたらただの洞窟か何かに見えるだろう。

 フェリアル大迷宮も入り口はそんな感じだった。


「中に入ればすぐに分かるよ」


 ここがどんなに恐ろしい場所なのか。


「今回は速度も重視したいからね。出来るだけ多くの魔鉱石が採れる深部まで一気に行こうと思う」


「分かった。ベラ、メイ。頼むよ」


「了解だ。大将」


「おっけ~!」


 アポロ達は長く冒険者をしているようだし、戦闘力という面では問題ないだろう。迷宮自体は初めてのようだからその当たりは私達がフォローしよう。


「それじゃあ……行こうか」


 私の号令に皆が続く。

 今回の作戦の立案者ということもあり私がチームリーダーというか全体のまとめ役を自然とするようになっていた。オリヴィアさんのような生まれながらの将というかリーダー気質の人がいればまた違ったんだろうけどね。


「…………」


「ん? どうかしたか白い子?」


 私を先頭に歩く面々。迷宮の入り口で立ち止まってしまった私をイーサンが心配そうな声で呼びかける。


「……大丈夫」


 分かってる。迷宮の序盤から危険な魔物なんて出ないし、ここはあそことは規模も違う。滅多なことはおきるはずが無い。揃ったメンバーだって優秀な人ばかりだ。迷宮攻略においてこれ以上のメンバーは集めようがないだろう。

 だけど……


(……くそっ、慌てるな。落ち着け!)


 私の体はなかなかその一歩を踏み出してくれなかった。

 私の脳裏にこびりついた記憶が、恐怖が、私の体を凍らせていた。

 動悸が少しずつ激しくなる。心臓がドクドクと脈打っているのが分かる。


(大丈夫だ、落ち着け……落ち着け……)


 深呼吸して何とか気分を落ち着かせようと試みる。

 だが私の体は私の意志とは関係なく、どんどん言うことを聞かなくなっていた。それほど私にとって迷宮というのは恐怖の象徴だった。お父様を取り戻す為に必要なことだとわかっていても私の心が、体がもう一度あの地獄に立ち入ることを許容しなかったのだ。


(……くそっ)


 駄目だ。怖い。嫌だ。行きたくない。

 今更ながらそんな感情が私を支配する。

 頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されたかのように思考がまとまらない。周囲の音さえも遠ざかり、孤独の闇に囚われる。そんな中……


「……大丈夫」


 そっと温かい感触が私の手を包んだ。

 見るとそこには私の手を両手で包むリンの姿があった。


「ルナは私が守る。何度でも」


「…………」


 その声が届いた瞬間、私の周囲に音が戻ってきた。

 そうだ、私はもう一人じゃない。あの時とは違う。

 私には……仲間がいる。


「……ありがとう、リン。もう大丈夫」


 気付けば呼吸も落ち着いていた。

 私が感謝の意味も込めて空いた手でリンの頭を撫でると、「んっ」とリンは気持ち良さそうに目を細めた。その可愛らしい仕草を見てるだけで気持ちが和むようだった。


「ごめん。待たせた」


 心の準備も出来た。

 ならば……後は進むだけ。


「行こう」


 私は新たな誓いを胸に再び挑むことを決意した。

 あの地獄のような場所へ。

 お父様を取り戻す為に。

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