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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第5章 縁者血統篇

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第268話 覇者の素質

 それぞれの街で幅を利かせているギルドというものが存在する。これは地元の企業が強いのと同じ理屈で、地域密着型の組織の利点でもある。


 そしてそれとは逆にどの街にも必ず一つは存在するギルドも存在する。これは基本的に国営ギルドと呼ばれるものでその土地における重要な役職を担っている場合が多い。

 治安を維持する騎士ギルド、犯罪者を裁く司法局、そして職を斡旋することを主な目的とする冒険者ギルドなどがこれに当たるわけだ。


 そして今、私達が向かっているのはその内の一つ。

 私も何度か利用したことのある冒険者ギルドと呼ばれる建物だ。


「報酬は売却した魔鉱石の3割。期間がどれくらいになるかは分からないけど2週間くらいは目処に考えていて欲しい」


 そしてその建物の2階。個人用に用意されたブースで私は彼らとテーブルを挟んで向かい合い、商談を続けていた。個人に依頼を出すときは青印と呼ばれるラインの引かれた契約書を発行する必要がある。

 これまた手数料がかかったりと厄介なのだが、それでも私は彼らに迷宮攻略の共を頼みたかった。


「えー、ちょっと報酬少なすぎるよー。そっちとこっちは同じ人数なんだから半分にして欲しいかも」


「こらメイ、あたし達は依頼を受ける側だ。文句を言っちゃいけねえ。それにそういうのは大将が決めることだ。だろ? 大将?」


 メイとベラ。二人が視線を向ける先、そこには私達も良く知る男の姿があった。


「僕はこの契約内容で文句はないよ。迷宮に挑むんだし初期費用もそれなりにかかるだろうからね。その辺りを抜いていけば妥当な額さ」


 白色の外套を身に纏うのは以前に私達が行き倒れていたところを拾った青年、アポロだった。アポロは手を組んだまま私を見ると、


「それに彼女達には恩がある。それを返すためと思えば苦にもならないさ」


 にっこりと人当たりの良い笑顔を浮かべそう言った。


「ま、大将がそう言うんならアタシも文句はねえ」


「メイも~っ!」


 そしてそれに続く二人も相変わらずの様子。

 高いステータスを持つこの二人が仲間になれば相当の戦力となる。実はこっちが目当てだったりする。アポロに関しては……まあ、うん。場を明るくしてくれると思えば悪くない。迷宮の中にいると気が落ち込みやすいからね。うん。


「さて、契約も結んだところで……いつ行く?」


 契約が終われば次は具体的な内容へと移る。アポロは少し頼りにならないところもあるけど仕事となればきっちりとこなす性格らしい。


「出来るだけ早く頼みたい。道具や食料品は今他の仲間が揃えてくれてるから明日にでも出れる状態にはなると思う」


「分かった。それなら明日からにしよう」


「いいの? そっちにも準備とか色々あると思うんだけど……」


「大丈夫。実を言うともう少ししたらこの街を出ようと思っていてね。遠出の準備はしていたところなんだ」


「え……? もう出て行くの?」


 アポロは各地を旅する旅人だ。だからいつかは別の地に向けて旅立つのだろうと思ってはいたが、こんなに短いスパンだとは思わなかった。


「この街はどうにも肌に合わなくてね」


「あー、確かにちょっと暗い人が多いかもね」


 最初は活気のある街だと思ってきたのだが、慣れてくると見えてくるものもある。この街は確かに人の数こそ多いが、道行く人の多くが暗い表情をしているのだ。


「そうそう。そういうところなんだよ。良くない噂も聞くし……ってこんな話は今するべきじゃなかったね。早速明日からの準備に取り掛かろう」


 立ち上がるアポロに合わせて私達も立ち上がる。

 そのまま同じ方向へ歩き出すのだが……


「……ん?」


 大通りに出て少しした時のこと、私達は奇妙な光景を目にした。

 道行く人々が揃って立ち止まり同じ方向に頭を下げていたのだ。それは道路の中央、お揃いのローブを身に纏う集団へ向けられていた。


「……『太陽の園』だ。しかもあのローブ、幹部連中のものだな」


「幹部?」


 小声で呟くベラの声に思わず反応してしまう。それに対しアポロも神妙な声で答える。


「さっき言った嫌な噂って奴さ。適当に合わせてやりすごそう」


 そう言ったアポロは他の人と同じように立ち止まって『太陽の園』の幹部らしき人達へ頭を下げる。それに合わせてベラとメイも頭を下げるものだから、慌てて私もそれに倣った。

 彼らはこちらに向けて歩いてきているようで、少しずつその声が鮮明になっていく。


「そしたらその女、もうやめてなんて言いやがりましてね。自分から擦り寄ってきといてそりゃねえだろって話っすよ。もう俺ぁ笑いが止まりませんでしたわ」


 やたら甲高い声で笑い声を上げる声が一つ。


「おい。あまりそういう話は往来でするな。我々の品位が疑われる」


 その内容に注意を飛ばす重い口調の声が一つ。


「まー、いいんじゃねえの? 今更気にする奴もいねえっしょ」


 それに続いて軽い口調の若い声が一つ。

 そして……


「おや? そこにいるのはルナさんではありませんか?」


「え?」


 どこか聞き覚えのある軽快な声。呼ばれた声に思わず視線を上げると、その集団と私はばっちりと目が合ってしまった。


「おお、やはりルナさんでしたか。その美しい髪を見てすぐに分かりましたぞ。こんな場所で会えるとはなんとも奇遇ですな」


 この暑さの中全身黒のスーツ姿のその男はその集団の中でも一際異彩を放っていた。なんとも奇妙な格好のその男……テゾーロは私を見ると嬉しそうにその相貌を崩した。


「おお、すげえ綺麗。テゾーロさんこの女知ってるんすか? だったら紹介してくださいよ。俺興味あります」


「駄目ですよアステロ様。この人はワタクシのお気に入りですので。手は出さないでもらいたい」


 ちっちっ、と指を振るテゾーロにアステロと呼ばれた若い男は残念そうに肩を落とした。だがその視線だけは無遠慮にこちらに向けられたままで、一言で言うと気持ちが悪かった。


「おっと、こんな美人をそっちのけにしている場合ではありませんでしたな。ルナさんはあれからどうでした? 無事に父君にはお会いできましたかな? 伝言はきちんと伝えたつもりでしたが、その後のことは把握しておりませんでしたので少し心配しておりましたのですが……」


「あ、っと……その説はどうもありがとうございました。はい。父には無事に会えました。本当にありがとうございます」


 私がぺこりと頭を下げるとテゾーロはまた嬉しそうな声を上げる。


「おお! それは良かった! ルナさんの力になれたのならそれ以上のことはありません! 他にも何か困ったことがあればいつでもお声かけくださいね」


「ど、どうも」


 というかこの人こんなにテンション高い人だったかな。かなりぐいぐい来てるけど。妙に私のことを評価しているみたいだし。私、何かしたかな?


「まーた出たよ、テゾーロの依怙贔屓が。あんたも面倒な奴に絡まれたねえ」


 いつの間にやらその集団の会話の中心は私になっていた。

 『太陽の園』のギルド。その幹部らしき人達。

 その軽い口調の男は私に向け同情めいた視線を向けていた。


「ハーマン、その台詞は聞き逃せませんぞ。ワタクシのこれは依怙贔屓などという低俗な感性ではありませぬ。ワタクシはただ覇者を尊敬しているだけであります。誰にも往けぬ地平を望むもの。その高潔なる魂に敬意を払っているだけでありますよ」


「ははっ、何言ってんのか分っかんねえ」


 ハーマンと呼ばれた男は軽い口調で笑い声を飛ばす。私が置いてけぼりにされていると、


「……ルナ、と言ったか?」


 最後の一人。妙に威圧感のあるその大男が私に鋭い視線を向けた。


「おっと団長。先ほども言いましたが彼女はワタクシのお気に入りです。いくら貴方様とは言え手を出されては困りますぞ」


「ふん。馬鹿を言え。こんなガキに手を出すのはそこの物好きくらいだ。俺が気にしているのはそんなことではない」


 テゾーロを一蹴したその男は私と正面から向かい合い、魔物にも似た威圧感を飛ばしてくる。なんというかこれまで出会ったことのないタイプの男だった。対面するだけで気圧される。そんなオーラをこの男は持っていた。


「お前がルナか。話には聞いている。なるほど、確かに美しい容姿を持っているな。あの男の戯言もあながち虚言ばかりでもなかったらしい」


「えと……」


「ああ。すまない。こちらの話ばかりしていたな。俺の名前はキース。『太陽の園』のリーダーをしている者だ。お前の父……ダレンとは昔馴染みでな。良くお前の話を聞いている」


「え?」


 お父様の……お友達?


「テゾーロにも好かれているようだし、お前には素質があるのだろうな。他者を導き目的を遂げる覇者の素質が。だがこれだけは言っておく」


 キースの視線が私に注がれる。その瞬間、私は火竜に睨まれたかのようなプレッシャーを感じていた。まるで『威圧』スキルを使われたかのように。


「この街の覇王は俺だ。誰の好きにもさせはしない」

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