第26話 さらば、王都!
師匠とアリスの元へ内弟子として預かられて早2年半。
8歳になった私はついに魔力の制御を覚えていた。
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 8歳
LV1
体力:138/138
魔力:5066/5066
筋力:110
敏捷:120
物防:88
魔耐:46
犯罪値:124
スキル:『鑑定(77)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性(75)』『色欲』『魅了』『魔力感知(12)』『魔力操作(58)』『魔力制御(22)』『料理の心得(12)』『風適性(8)』『闇適性(15)』】
この2年半で新しく覚えたスキルは『魔力制御』『料理の心得』『風適性』『闇適性』の四つ。
魔法系のスキルは訓練していたから分かるけど、料理の心得まで覚えたのは誤算だった。
これって職業スキルのはずなんですけど……まあ、この2年間私はまさしく料理人だったからね。取得できてもおかしくはない。
師匠って自分では作らないくせに、やけに凝ったものばかり所望するんだもん。同じ料理を連続で出しても怒るし、訓練と同じくらい料理には気を使ってた。
後、最近の悩みなのはステータスの伸びが止まらないこと。
人族の平均ステータスが大体100なのに比べて、私はまだ8歳だってのにすでに超え始めている。大の大人と短距離走しても勝てる自信があるね。
だからそういう身体能力的な面でも、人族との差が出ないように気をつけている。これが結構気を使うんだけどね。
色々と面倒は増えたけど……うん。当初の目標は達成した!
私はついに魔法使いになったんだ!
やっほい!
「ルナ。お前これから魔法使うの禁止な」
え、ええー……
「師匠、何でですか? 私、もう魔力を暴走させたりしませんよ?」
「そういう問題じゃなくてな。ダレンも言っていただろう。お前が魔法を使えるってことが誰かに知られたら面倒なことになる。お前だって行きたくもない学園なんかにぶち込まれたくはないだろう?」
うーん。本音を言うと興味がないわけじゃないんだけどなあ……でも確かに選択肢すらないってのは嫌かも。行くなら自分の意思で通いたいよね。
「だから魔法禁止なんですか? でももし、通り魔に襲われたら? 魔法を使わないと師匠が死ぬって局面に陥ったら?」
「そん時は……使ってよし」
どっちやねん。
「つまり極力使うなってことだ。後、魔法が使えるからって調子にも乗るな。魔物とかで腕試しなんて絶対に考えるんじゃねえぞ」
どきっ!
そ、そんなこと全く考えたこともないなぁ~。
「ひ、ひゅぅ、ひゅー……」
「口笛へったくそだな、お前。それで誤魔化してるつもりなら驚愕すんぞ」
う、うるさいな! 口笛は前世から苦手だったんだよ!
「あとは、そうだな……俺から言えるのは魔法うんぬん以前に殺生には関わるなってことか。お前の場合、治療魔法には糞みたいに適性ないから大丈夫だとは思うが、誰かの人生に干渉するのはやめろ」
殺生には関わるな、か。
つまり生かすも殺すも他人の命に関わるようなことはするなってことかな?
治癒魔法は水と光に魔力適性がないと使えない。
混合魔法とかって呼ばれてるのがそれだ。
どっちにも適性がない私には端から使えるような魔法じゃないんだけど……師匠の言い方はなんかむかつく。自分だって使えないくせに!
「師匠、むかつきました。お菓子ください」
「やれやれ。これが反抗期ってやつか。戸棚にあるから取ってきな」
わーい。
あ、今日はクッキーだ。やったね。
「それで話の続き、つーかまとめなんだけどよ。お前、これからどうすんだ?」
「んむ?」
「いや、んむ? じゃなくてよ。もう魔力が暴走することもないんだしいつ頃アインズに戻るのかってことだ」
あ……そっか。そういえばそうだった。
私が魔力制御を覚えた以上、もうここにいる理由もないんだ。
なんか、2年以上も一緒にしたせいかここにいるのが当然みたいな感覚になっちゃってたよ。アインズのみんな元気かな。久しぶりに会いたいな。
「そうですね……それじゃあ近い内にアインズに戻ります」
「分かった。馬車については俺が手配しておいてやるよ」
「ありがとうございます」
私が師匠と帰郷の日取りを相談していると……
──パリンッ──
物音に振り返ると、そこには紅茶のカップを床に落としたアリスの姿があった。
見ればぶるぶると手が震えている。
一体どうしたんだろう?
「る、ルナが……いなくなる、ですって?」
呆然と私を見つめるアリスはやがてうるうるとその瑠璃色の瞳に涙を溜め、
「そんなのいやぁぁぁっ! ルナ、どうしていなくなっちゃうのよぉっ、ずっと一緒にいればいいじゃない? ね? そうしましょう? そうするのがいいわよ!」
私の肩を掴み、がくがくと揺すってくるアリス。
どうやら私がいるのを当たり前に感じていたのは私だけではなかったらしい。
「おいアリス。無理を言ってやるな。魔力の制御を覚えたら帰る。もともとそういう話だっただろうが」
「いやああっ! ルナと一緒がいいのっ! 妹と離れ離れの生活なんて耐えられないわっ!」
いつの間にか私はアリスの妹になっていたらしい。
役所に続柄変更の提出をした記憶はないのだが……なぜだ。
「ルナはそれでいいの? 私と離れ離れになってもいいの?」
「うーん……別にいいかな?」
「ルナぁぁぁぁぁっ!」
別に死に別れるわけでもないのにそこまで大げさに考えることかな?
会いたくなったら会いに行けばいいし。
あ……でも確か、ここからアインズまでって馬車で一週間もかかるんだっけ。
そう考えるとなかなか簡単には会えなくなるわけか……それはちょっと嫌かも。
「師匠、師匠」
「ん? 何だよ」
「師匠の魔術でアインズと王都の間にワープホール作ってください」
「無理言うなや」
駄目か……まあ、分かってたことなんだけどね。
空間魔法なんて伝説の中にしかない魔法だし。
「ルナ……私の可愛い妹……いなくなる……うっ、うう……」
「アリス? その……さっきはごめんね? 別にアリスと会えなくなるのが寂しくないわけじゃないから元気だして?」
「う、うう……ほんと?」
「うん。またアリスに会いに来るよ。いつになるかはちょっと分からないけど……」
「…………分かった。それなら我慢する」
ぐずっていたアリスもようやく妥協点を見つけてくれた。
こうして私の帰郷がいくつかの問題を抱えながらも決定したのだが……
──チリン、リーン──
「ん? 来客か? ルナ、見てこい」
「ここは師匠の家なんですから師匠が行って下さいよ」
「馬鹿、ここはお前の家でもあるんだ。遠慮なんかするなよな」
し、師匠……凄く良い感じの台詞なのにタイミングのせいで最悪……。
はあ、まあいいや。いつものことだし私が行こう。
泣きはらしたアリスには接客させられないしね。
「はいはい、どちらさまですかー?」
呼び鈴に応え、玄関の扉を開けた私は……
「ルナちゃんっ! 久しぶりっ!」
「え? ……う、うわぁっ!?」
がばっ! と勢いよく抱きついてきたその来訪者にぎゅうううっ、ときつく抱きしめられる。一体どこの変質者かと、顔を見れば……
「お、お母様っ!?」
「てへっ、来ちゃった♪」
──私の母親、ティナ・レストンの姿がそこにはあった。




