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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第5章 縁者血統篇

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第249話 太陽の名を持つ男

「いやあ貴方達のおかげで助かりました。本当にありがとうございます」


 荷台に空いていた一人分のスペースで私たち全員に向けて頭を下げる黒髪の青年。

 行き倒れていた彼は名前をアポロと言った。


 冒険者を生業としているアポロは旅の途中で仲間とはぐれてしまい、食料も十分に確保できない状態で一週間以上この近くをさ迷っていたらしい。

 その話を聞いた私達は全員が同じことを思っていたことだろう。


 ──こいつ……怪しすぎるっ! と。


 まず仲間とはぐれたというところからして嘘くさい。

 旅の道中では真っ先に警戒するのがそれだからだ。たとえ凶悪な魔物に襲われたとしても散り散りに逃げるなんてことはまずしない。


 次に食料の確保だ。今の季節は夏。冬場ならともかく、この時期に食べ物が全く見つからないというのもおかしな話だ。

 加えて道に迷ったと言う証言。これも地図がなくても太陽や星の位置である程度、目的地の方向は分かるはずなのだ。それなのに一週間もこの周囲をうろついていたと言うのはどうにも理解しがたい。


「あー……アポロ君、だったね。君が仲間とはぐれたというのはどういう状況だったんだい?」


「えーと……ああ。そう。山賊です。山賊が出たんです。僕達はよ……三人で旅をしていたんですが、向こうの方が圧倒的に多くて。逃げるのに精一杯でした」


「この辺りには食べられる山草も結構あったと思うが……」


「仲間に詳しい子がいたんですけど、僕一人だと間違って毒草を食べてしまいかねないと注意されていたので」


「マッピングとかはされなかったんです?」


「まっぴんぐ? えと……ごめんなさい。それはどういう意味ですか?」


「「「…………」」」


 疑問を解消しようと口々に質問を飛ばしたが、疑念は更に深まるばかりだった。というか本当に冒険者なのか? この人は。全く、そうは見えないのだが。


(山賊の中には行き倒れを装って近づく奴もいるって言うし……どうしたものかな、これ)


 あまりにも胡散臭いアポロに、私は久しぶりに『鑑定』を使ってみることにした。山賊は犯罪値が高い傾向にある。それで判断しようという試みだ。

 すると……


【アポロ 人族

 男 21歳

 LV1

 体力:212/246

 魔力:167/187

 筋力:210

 敏捷:212

 物防:168

 魔耐:136

 犯罪値:100

 スキル:『知能』『器用』】


 あまりにも普通すぎるステータスが現れてきた。

 体力や魔力は並。筋力とかにしても鍛えられてはいるが、それも常識の範囲内だ。スキルも種族スキルである『知能』と『器用』が二つだけ。そこら辺の村人の方がよほど頼りになるかもしれないステータスだ。


(名前も本名だし、犯罪値も高くない。これは……どっちだ?)


 私が『鑑定』を使った場合、名前はその人の本名が必ず映し出される。昔、冒険者でパーティを組んだときもウィルと名乗る偽名の奴がいたが、それも『鑑定』を使えば一発で分かった。

 だからこそウィスパーの時は本名がノイズのように判定できなかったわけだし。

 あ、ちなみにイーサンはきちんとイーサンと表示される。要は自分が本名として認識している名前が表示されるみたいなのだ。


(名前に関しては信じても良いみたいだね。これなら国を追われた犯罪者ってこともないだろう)


 だが、そうなるとこの男の扱いに関しては悩む余地が生まれてしまう。

 アポロが本人の言うように冒険者的スキルが全く備わっていないのならここで放り出せばまた行き倒れることになる。それは寝覚めが悪い。

 だが、逆に邪なことを考える輩なら同舟するわけにはいかない。

 アポロの処分に対し、私達が頭を悩ませていると……


「では……そろそろ僕は行かせてもらいます」


 アポロは急に立ち上がり、私達にそう言った。


「おい、一人で大丈夫かよ」


「大丈夫……とは言い切れませんが、これ以上迷惑をかけるわけにもいきませんので」


 アポロはそう言って困ったような笑みを浮かべていた。


「では、またどこかでお会いしましょう」


 私達が止める暇もなく、アポロは荷台から降りようとして……


「あっ……」


 がつんっ、と大きな音を立てて荷物に足をぶつけるのだった。

 そして……ごろごろどっしゃーんっ! と派手に転倒しながら荷台を転げ落ちて行く。その見事な転げっぷりに私達は再び思いを共有したことだろう。


「……きゅう」


 目を回しながら地面に激突し、気絶したアポロ。

 ああ……こいつはきっと単純にドジな奴なのだ、と。

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