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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第5章 縁者血統篇

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第247話 なんとも言えない不思議な関係、それが師弟

「ははっ、そりゃそうだ。今のルナが師匠に勝てるわけがねえ」


 四人で夕食を取っている最中、先ほどの手合わせを話題に上げるとイーサンは笑顔を浮かべて笑い飛ばした。


「王国騎士団分隊長ってのはこの国に15人しかいないんだぜ? その一人である師匠に勝つってのはつまりこの国の防衛力の一角を崩すってことだ。そう間単にできることじゃねえよ」


「じっ、15っ!? オリヴィアさん、そんなに凄い人だったんですかっ!」


「運が良かっただけさ」


 驚くアンナに謙遜するオリヴィアさん。

 だけど、具体的な指標を出されれば嫌でも理解させられる。この人がどれだけの実力者なのかということを。


「実際、冒険者から騎士になる人間は少なくない。その中で私が今の地位にいられたのは本当に運が良かっただけなんだ」


「それを掴み取れたのはオリヴィアさんの実力だと思いますけどね。運だけで勝ち取れる地位ではないのでしょうし」


「もちろん努力はしたさ。だけど……そうだな。私はきっと私以上にその地位に相応しい人間がいると思っているのだ」


「それって……」


 自嘲気味に語るオリヴィアさんにどうしてもその人物が気になったのだが……


「いや、私の話は良いんだ。それよりお前たちの話を聞かせてくれないか? 不肖の弟子とは言え、その交友関係には興味がある」


 オリヴィアさんはそれ以上、その話題に触れたくなかったのかやや強引に話題を変えてきた。彼女が話したくないと言うのなら、これ以上聞くのも野暮だろう。


「イーサンは昔から剣を振り回してばかりでしたよ。一度模擬剣で戦ったことがありますけど、その時は私が勝ちましたね」


「あっ! それはお前が不意打ちしたからだろうが!」


「馬鹿弟子。お前は実戦でも同じことを言うつもりか?」


 軽くイーサンの頭を小突くオリヴィアさんに、私とアンナが笑い声を上げる。

 最初は不安もあった旅だけれど、この調子なら問題なくいけそうだ。


「それで師匠、結局白い子は師匠の目から見てどうだったんだ?」


 私が和やかなムードでいると、突然イーサンがどきっとするような話題を挙げた。

 先ほどの手合わせは客観的に見ても私が情けなさ過ぎた。近くにいた魔獣の気配にも気付けず、攻撃も単調。防御や回避もろくに出来なかった体たらくっぷりだ。

 私だったら背中を預けようとは思えないね。


「悪くはない。この旅に私の同伴が必要だったのか首を捻る程度には戦えるだろう。魔獣や山賊とも渡り合えるだけの実力はある」


 と、思っていたらオリヴィアさんは予想より遥かに良い評価をしてくれていた。勿論、気を使ってくれている可能性はあるけど。


「だが、あくまで悪くない程度だ。私の受けた印象ではルナ。お前の戦い方はバランスが悪い」


「バランスが悪い……ですか?」


「ああ」


 今まで受けたことのない感想に思わず聞き入ってしまう。


「お前の影法師は射程が5メートル程度という話だったが、それならなぜ剣の形を取っている? 槍や薙刀の方がその有利を生かせるはずだろう」


「……つまり、剣以外の形の方が良いってことですか?」


「簡単に言うとそうだな。剣を使うならもっと腕を磨くべきだ。武器の性能に頼るだけではいかん。それを使いこなす修練をお前は積むべきだ」


 確かにオリヴィアさんの言う通り、私はよく『ツバキ』の型を使っているが、剣術そのものは誰に指南を受けたわけでもない。だけど……


「私の影法師は他にも色々型がありますからね。剣だけを使うってわけでもないんです。それに……私自身、情けない話ではありますがそれほど向上心があるわけでもないので」


 吸血鬼の能力がある私には別に剣術を学ぶ必要があるとは思えなかった。

 吸血モードでは『ツバキ』より『月影』の型を良く使っているしね。ノーマルモードだと単純に魔力操作が(つたな)いから体積の小さい『ツバキ』を使っているだけで。


 加えて私は別に戦うことが好きというわけではないのだ。

 戦わずに済むならそれが一番。私は私の大切な人さえ無事ならそれで良いと思っている。国を背負って戦うオリヴィアさんと比べたらあまりにも軟弱な思想だとは思うけどね。

 でもそれが私なのだ。


「そうか……そうだな。それが普通の考え方なのだろうな」


 私の答えにオリヴィアさんは納得したようだった。

 僅かに場に沈黙が下りる。妙な空気の中、次に話題を提供したのはイーサンだった。


「あ、そういえば白い子。お前が王都に行くとき渡した模擬剣だけどあれはどうしたんだ?」


「ああ、あれか。あれは……ごめん。実は壊しちゃったんだ。折角のプレゼントだったのにごめんね」


「いや、ああいう道具は壊れて当然だからな。だけど使ったってことは役には立ったってことか?」


「んー……」


 当時のことを思い出してみるが、役に立ったってのとはちょっと違うような気がする。


「大分前の話になるんだけど、一度私の師匠の寝込みを襲おうとしたことがあってね。その時に返り討ちにされると同時に叩き折られちゃったんだ」


「そうか。それなら仕方ないな」


「え!? 今の納得するところ!?」


 私とイーサンの会話に突然驚いた様子でアンナが割って入る。

 今の話にどこか変なところあったかな?


「ああ、安心して良いよ。別に命まで取るつもりはなかったから」


「そこじゃないですっ。まず寝込みを襲うところから変だと思うのですっ」


「え? ああ、そこなのね」


 ようやくアンナの言いたいことが分かった。

 だけど、私にも言い分はある。


「師匠が『俺を倒せたら遊びに行っても良い』なんて言うからさ。そりゃ寝込みのひとつやふたつは襲っちゃうと思わない?」


「そんな同意を求められても……アンナはそういうの、良くないと思います。闇討ちとか騙まし討ちとかお姉様には似合いません」


 どっちかというと私はむしろ卑怯な手段を生業としてるところあるんだけどなあ……アンナはどこか私を神聖視してるフシがないか? 早めに矯正した方が良いのかもしれない。


「でも魔術師たるもの常在戦場の気概も大事だって教わったからね」


「それは襲う側の台詞ではないと思うのです」


 ……確かに。

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