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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇

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第23話 災難とは忘れた頃にやってくるらしいですよ?

 アリス・フィッシャーは可愛い。

 その見た目もさることながら、性格も可愛い。

 最初はとっつきにくい人なのかなーって思ってたけど蓋を開けてみれば全然そんなことはなかった。


「ルナ、また本読んでるの?」


「うん。師匠の書斎から借りてきた」


「マフィに黙って?」


「うん」


「……まあ、見つからないようにしなさいよね。それよりちょっと良いかしら」


「何?」


「そろそろ私たち知り合って一ヶ月くらいになるじゃない? だから、その……貴方さえ良ければなんだけど……と、と、と、友達になってあげてもいいわよっ!?」


 またこの子は……なんだか可愛いことを言い出したよ。


「えーと、アリス?」


「も、勿論私はどっちでも良いんだけどね! ただ貴方が一人ぼっちで寂しいんじゃないかと思って気を使ってあげたのよ、嫌なら嫌で別に構わないから」


 緊張ゆえか、頬を染めるアリスはちらちらと落ち着きなく視線をさまよわせていた。何だろう……私は今、とても可愛らしい生物を目の当たりにしている気がする。

 なんだか……苛めたくなってくるね!


「その必要はないよ、アリス」


「……え? そ、そう? 変に遠慮しなくていいのよ?」


 しょぼーん。

 見るからに声のトーンが下がっている。

 瑠璃色の瞳は今にも涙を溢れ出してしまいそうだ。


「今更友達になる必要なんてないよ。だって……私達、とっくの昔に友達じゃない」


「っ……る、ルナぁっ!」


 ぱぁぁぁっ、と向日葵が咲いたかのような満面の笑み。

 うんうん。その反応が見たかった。

 アリスは初対面の人にはどうしても反抗的な態度取っちゃう困ったさんだからね。私が少しでもアリスの性格矯正の助けになるよう、リードしてあげなくちゃ。


「ふ、ふん。ルナったら、そんなに私と友達になりたかったのね。仕方ないから友達になってあげるわよ」


 慌てて強がるアリス可愛い。

 ……ん?

 あ。やばい。来たわ、これ。

 久々の"アレ"が。


「はあ……はあ……あ、アリス……」


「え? どうしたのルナ……何だか顔が真っ赤よ?」


 んんっ……熱い……体が熱い。

 もう目の前のアリスしか視界に写らない。

 どんどんアリスへの愛しさが胸の奥から溢れてくる。

 これは……アレだ。久々すぎて忘れかけてた『色欲』の……


「もう、駄目っ! アリス!」


「えっ、ええ!? ちょ、ルナ!?」


 私は自らの欲望に負け、アリスを押し倒していた。

 はあ……はあ……あかん。これ、前より強くなってる気がする。もしかして溜まってたせい? でも、今はもう何でもいいや。この気持ちさえ発散できれば……


「はあ、はあ……アリス……」


「る、ルナ? 目が怖いわよ?」


「ごめん……でも、良いよね? 先っちょだけだから」


「先っちょって何が!?」


 慌てるアリスも可愛い。

 ああ……もう駄目。我慢できない。


「ルナ、ちょっと待っ……んむっ」


 アリスの小さな口を強引に塞ぐ。

 しっとりとしていて柔らかい。アンナとはまた違う感触。

 アリスは触れるだけのキスだというのに、真っ赤な顔で細い肩をぷるぷると震わせていた。必死に目を瞑っているのが初々しくて可愛い。

 ああ、それにしても温かい……アリスの体温を感じる。とても心地よい気持ちだ。


「……る、ルナ」


 唇を離すと、とろんとした表情でアリスは私を上目遣いで見つめてきた。

 完全に『魅了』されている目だ。


 というか……や、やっちまったぁぁぁぁっ!

 最近ご無沙汰だったから完全に油断していた。今までずっと変な気は起こさないよう気をつけてたってのに! ついにやっちまった!

 あー、うー。駄目だ。まずい。

 同居人を魅了した場合の面倒臭さはティナで嫌というほど味わったというのに……ど、どうしよう。


「……ルナ。あの、私……」


「と、友達!」


「……?」


 アリスが何か言いかけたけど、とりあえず誤魔化せ!


「そ、そうそう。今のは友達の証だよ! ほら、記念的なやつ? 今日から友達! みたいな?」


 あかん。咄嗟に出てきた言い訳がこんなアホみたいな理由だなんて。

 これじゃあ、流石に納得してくれるわけ……


「と、友達の証? ……そ、そう。なら仕方ないわね」


 納得したぁぁぁぁぁっ!?

 それでいいのかアリス・フィッシャー!

 君、今完全にチョロインになってるよ!?


「ちょっと驚いちゃったけど、私……ルナとなら嫌じゃなかったから」


 その上、更に追加攻撃だと!?

 やめろ! これ以上『色欲』が暴走したらどうする!


「私……こんな生い立ちだから今まで友達とかいなくて。だから、その……ルナと友達になれて、嬉しい」


「…………」


 またキスしたくなりそうだった気持ちが、一瞬で冷めた。

 微笑むアリスは本当に嬉しそうだったからだ。

 そっか……そうだよね。長耳族は人族の国だと異端だもの。普通に生活することすら困難だったんだと思う。アリスはハーフエルフだけど、見た目は長耳族に見えなくもないから。きっと、今まで苦労してきたんだろう。


「ごめんね。こんなこと人族(ノーマン)のルナに言っても分からないと思うけど種族の違いって凄く大きなことなの。今までずっとそうだったし、これからもそうだと思う。だから……私がハーフエルフだって知って、それでも私を避けたりしないルナに、本当に救われたの。そんな人、なかなかいないから……だから……これからもずっと友達でいてくれたら、その……う、嬉しい……」


 あの高飛車で捻くれた言い方しか出来ないアリスがついに……本音を私に語ってくれた。魅了の影響なのか、いつもより素直なアリスの気持ち。それが私には良く分かる。

 だって種族のことで苦労してきたのは私も同じだったから。


「……アリス、私は……」


 私は自分の種族が吸血鬼であることを目の前の少女に話してしまおうかと考え……やっぱりやめた。どうしても出来なかったのだ。

 もしかしたら拒絶されるかもしれない。そんな気持ちが残っていたことは否定できない。ハーフエルフという特殊な種族のアリスがそんなこと思うわけないだろうけど……それでも、もしかしたらという疑惑は拭えない。

 今、私に好意的なことを言っているのも『魅了』の影響だとしたら? 時間が経てば我に返って気持ち悪がるかもしれない。

 吸血鬼とは人心を惑わし、生き血を啜る怪物。

 それが一般的な吸血鬼のイメージだ。


 怖い……アリスにそんな風に思われるのがとてつもなく怖い。

 私を見る目が変わってしまうんじゃないかと想像すると、それだけで背筋が寒くなる。

 ずっと一人、ディスプレイの中で女の子の仮面を被り続けた"俺"は本性を隠すことに慣れ、すっかり自分を曝け出すことに臆病になってしまっていた。

 今更気づく、自らの悪癖。

 成り代わることに慣れ、慣れすぎていた私はとっくに自分というものに自信が持てなくなってしまっていたのだ。


「私は……私も、嬉しい。アリスと知り合えて、友達になれたこと。すっごく嬉しいよ」


 だから私は本当に言いたいことが言葉に出来ず、そんな曖昧なことしか伝えられなかった。だけどアリスはそれでも、


「ありがとう、ルナ」


 嬉しそうな顔で微笑んでくれた。

 その真っ直ぐな感情が私には少しだけ胸に痛かった。

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