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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第229話 ノアの願い

 ノアの追撃をかわしながら上へ上へと進路を取る。

 簡単な構造をした校舎内では横よりも縦に逃げた方が良いと判断したからだ。

 だが……


「捕まえたぞ、ルナ」


 それにも限界はある。

 屋上まで辿り着いた私は半身になってノアと対峙する。

 もう逃げ場はどこにもない。私とノアの決着は……恐らく、ここで決まるだろう。


「鬼ごっこはもう終わりダ」


「……そうだね。確かにこのまま逃げ続けるのも芸がない」


「それは諦めるということか?」


「いや……」


 ノアの問いに、私は軽く首を横に振る。


「一つだけ聞いておきたかったんだけどさ。ノアはどうして純血派の人達に協力しているの?」


「なんダ。お前はまだそんなことを言っているのか」


「言ったでしょ。私達はまだやり直せる。だからこそ教えてほしいんだ。他でもない、ノアのことを」


「…………」


 私の言葉に、ノアは僅かに視線を逸らす。

 そして……彼女はゆっくりと私を正面から見つめ返してきた。


「ノアがずっと研究していた魔術、その正体をルナはどこまで理解している?」


「……確か物体の移動に関する魔術、だったよね」


「そうダ。そして、その副産物として『ノアの箱舟(ノアズ・アーク)』が生まれた。いや……副産物というよりはプロトタイプと言うべきだろうナ。これがどういうことを意味しているか分かるか?」


 ノアの問いに、静かに思考を進ませる。


「……ノアが本当に作りたかった魔術は『ノアの箱舟(ノアズ・アーク)』の上位互換ってこと?」


「そんなところダ。そして、ノアはこの魔術名を本来ならそちらに名づけるつもりだった。言うならば『真・ノアの箱舟』と言ったところか」


 ノアの言葉に私はノアの求めていたものの片鱗が見えてきたような気がした。

 私がノアの研究室で魔力適正を測られたとき、ノアは本当に嬉しそうにはしゃいでいた。それほどに心血を注いでいた研究だったのだ。


 だからこそ、分からないこともある。

 これほど優秀な魔術師であるノアが未だ完成させられていないその真の『ノアの箱舟』とは一体何なのか? その答えが私は欲しかった。


「ルナが研究に協力してくれたことには感謝している。おかげで随分と問題が片付いたからな。一番ネックなのは魔力量となりそうだが……それはおいおい解決すれば良い」


「……そういえば、私はまだその魔術の能力を聞いてなかったよね。『ノアの箱舟』の上位互換ってことは……視界外の場所にも飛べる、とか?」


「そんなみみっちい改良じゃないさ。その程度ならここまで苦労もしていナイ。ノアが作ろうとしていたのは……」


 ノアの口が開き、言葉を紡ぐ。

 ノアがずっと研究していた魔術、その真の機能とは……


「『四次元転移式』。分かりやすい言葉で言うなら……『()()()()()()』だ」


「……タイム、マシン……?」


 ノアの言葉の意味を理解するのに、数秒の時間が必要だった。

 なぜならそれはそれほどに飛びぬけた発想だったから。


「ノアは……時間を操作するつもりなの? だけど、そんなこと出来るわけが……」


「なぜダ? なぜ出来ないと思う? すでに三次元上の転移式は完了しているのだぞ? 加えて言うなら、順進方向……未来への転移式はほぼ完了している」


「え……?」


「まあ、(もっと)もノアが求めるのは反進方向だからまったく無意味な式ではアルがナ。この時間軸に帰るつもりもナイし」


 待て……ちょっと待ってくれ。

 まさか……ノアがずっと研究していたことって……


「ノアは……過去に行くつもりなの?」


 ノアの口ぶりから推測した私の問いに、ノアは、


「ああ、そうダ」


 静かに、頷いて見せた。


「ノアにはどうしてもやり直したい『過去』がアル。もう一度……もう一度だけで良いんダ。会いたい人がいる。だから……」


 ぎゅっと胸元を握り締めるノア。

 その瞳に宿るのは怒りか悲しみか、ただ一つはっきりしているのは……


「その為ならどんなことでもしてやる。純血派の力だって借りる。そうすることでもう一度……ママに会えるなら……」


 ノアはすでに『覚悟』を決めているということ。

 その姿に見覚えがあった私はまるでフラッシュバックするかのようにあの人の姿をノアに重ねていた。


 そう……目的のため、全てを犠牲にする覚悟。進み続ける意思。

 それはまさしく……


「ノアは『未来』を捨ててやる。ノアの求める『過去』に行く為に!」


 怠惰の転生者、師匠の持つ決意と全く同種のものだった。

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