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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第228話 逃走経路

 ノアが秘術を起動した。

 それはつまり、私が彼女から逃げ切る可能性が0になったということ。

 ノアは視界内でさえあれば、どんな場所にでも転移することができるからだ。


(となると私に残された手段はノアを制圧することだけど……)


「次だぞ、ルナ」


 ノアの右手に魔力が収束し、拡散する。

 まるで散弾のように飛び交う光の弾丸を遮蔽物を利用しながら回避していく。


(近づくことさえできないってんだから無理ゲーだね、これは)


 不幸中の幸いなのはノアが私の魔術を警戒して近づいてこないこと。私の身体能力も加味してなのだろうが、絶対に10メートル圏内に入ろうとしないのだ。

 この状況を打破するには私がノアが保つこの距離から攻撃するしかない。

 そして……私はたった一つだけ、その手段を持っていた。


(風系統魔法、『舞風』。私が持つ唯一の遠距離攻撃手段。だけど……)


 この魔法に関しては欠点が一つある。

 それは威力の調整がほとんど不可能だということ。『舞風』がノアに直撃すれば大怪我は避けられない。下手をしたら絶命することだって考えられる。


(そもそも『ノアの箱舟』を持ってるノアに当たるかって話もある。魔力残量を気にしてか乱発はしてこないみたいだけど、私が攻撃するモーションを見せればまた姿をくらませる可能性が高い)


 物理的に、そして精神的に私は『舞風』の使用を封じられていた。

 ならば……


「ん? どこへ行くつもりだ、ルナ」


 唐突に一点へ駆け出した私をノアが追う。背後から迫る光弾に冷や汗を流しながら私が目指したのは……


「……なるほど校舎に逃げ込むつもりか」


 そう。私が目指したのは普段勉強で使っている校舎の中だ。

 室外なら射線が通り放題だが、室内となれば勝手が変わる。優秀な狙撃手であるノアに対しては狭い場所に逃げ込むのが上策だろうという判断だ。


「だが、そう簡単に行かせると思うか? 向かう場所が分かっているなら……簡単に打ちぬけるゾ」


 私が向かう場所を予想したノアが両手を構え、唱える。


「道往く先に・光あれ──『ヴェル・ソーラ』!」


 それは即興の術式改変。詠唱と魔術名を僅かに変えることで効果を意図的に変更したノアの両手から光の束が縦横無尽に駆け巡る。

 流石は筆頭魔術師。魔術の扱いに関しては天才的だ。だが……


「影法師──」


 かーらーのーっ……


「変成──『ツバキ』!」


 動きが読まれるなら、読まれないような行動をすればいい。

 ノアの魔術を見た私は向かう先を変え、何もない校舎の壁に突撃するように駆け抜ける。そして……


 ──ズパッッッ!


 壁をまるで豆腐か何かのように切り刻み、強引に室内に侵入する。


「……無茶苦茶だナ」


「誰も正面から入るなんて言ってないからね!」


 窓から差し込む月明かりを頼りに廊下を駆け抜ける。

 さて、ノアはどうする?


 私を追って室内に来れば私にも勝ちの目が出てくる。うまく姿を隠せれば奇襲も不可能ではないだろう。

 かと言って外で待機したところで私を追い詰めることはできない。隙を見て逃げ出される可能性も出てくる。となると……


「仕方ナイ、か」


 そうだよね。有利を捨ててでも踏み込んでくるしかないよね。

 ノアはいつだって合理的な判断をする。だからこそ、その動きも読みやすい。

 まずはノア圧倒的有利な状況からやや有利くらいまで戻せたかな?


「魔力量の関係もアル……そろそろ勝負を急がせてもらうぞ」


 そう言って『ソーラ』の魔術を無詠唱で放つノア。

 ノアは魔力量に自信がないのか? だとしたら私に有利な条件がまた一つ増えたな。

 小さく笑みを浮かべる私。そして……そこでようやく気づく。


(ここ、外から隠れるには最高だけど……逆に言えば中に入られたら逃げ場がほとんどないじゃん!)


 廊下を走る私を追ってくる光の弾丸。直線的なこの場所では左右に回避することも出来ない。


「うわあああああああっ!?」


 咄嗟に窓を割って近くの教室内に飛び込む私。扉を開ける手間すら惜しかったのだ。まるでハリウッド映画のようなアクション。一度はやってみたいムーブと言えるだろう。情けない悲鳴を上げてしまった点を除けばとてもカッコいい流れだ。だけど……もう二度とやらない。ガラスが腕に刺さっちゃった……痛い……。


「何をやっているんダ、お前は。こんな逃げ場のない場所に逃げ込んで」


「……あ」


 私を見るノアに呆れの表情が戻る。

 まずい……これは非常にまずいぞ。


「まあ、とりあえず……『ソーラ』」


 そして、無常にも放たれるノアの攻撃。

 咄嗟に影法師を盾のように展開するが……


「ぐっ……はっ……」


 もともと魔力耐性の低い闇系統の魔術。あっさりとノアの『ソーラ』に貫通されてしまった。

 体の中奥、腹部に直撃した弾丸は強烈な痛みを私に伝えてくる。

 痛みに慣れた体とはいえ、痛いものは痛い。


「終わりか?」


「まだ、だ……っ」


 ふらつく体を支えながら、私は黒板の隅にあったチョークを手に取る。

 一体何をするつもりなのかと不審げな視線を向けるノアに対し……


「操魔法──『舞風』ッ!」


 私は魔力を纏わせたチョークを全力で投げつける。

 そして……バツンッ! と破裂するような音と共にノアの展開した魔法陣、『ノアの箱舟』に防がれる。どうやらあの魔法陣にはそういう使い方もあるらしい。

 だけど……


「ちっ……」


 飛び散った粉はちょっとした目くらましの効果を持っていた。

 逃げるなら今の内だな。


「逃が……すかっ!」


「うおっ!」


 がむしゃらに放たれた『ソーラ』が私の頬を掠める。

 冷や汗が流れるのを感じながら教室を出た私はそのまま上階目指して駆け出して行く。


「……絶対に逃がさナイ」


 背後から聞こえる呪いにも似た声を聞きながら。

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