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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第219話 主人の友情と従者の誓い

 仲間を増やす。

 言葉で言うのは簡単だが、それを実行するのはとてつもなく難しい。


 何よりその内容が問題だからだ。日本の学校で言うならいじめられっ子が周囲に助けを求めるようなもの。何より体裁を気にしなければならない新興貴族にとっては自分の弱さを自ら晒すような行為だ。


 加えて、恥を忍んで頼みこんだところで助力が得られる確証もない。

 誰だって自分がターゲットになるのは嫌だからだ。


 だから……きっとこの交渉は上手くいかない。

 私はカレンと話すクレアお嬢様を眺めながらそんな結末を予想していた。

 だが……


「いいですわよ」


 私の予想を裏切り、カレンお嬢様は二つ返事でそう答えた。


「えっと……カレン? 私の話をちゃんと聞いていた?」


 クレアも私と同じようことを思ったのだろう。

 ちょっと困った顔でカレンにそう確認していた。


「ええ。聞いていましたわよ。つまり、困っているから助けてくれと。そういうことなのでしょう?」


 確かにそういうことだけど……カレンお嬢様、もう少し葛藤というか悩むところがあるのではないでしょうか?


「……クレアは覚えていますか? 私達が始めて会った舞踏会の日のことを」


「? それはもちろん。貴方がはしゃぎ過ぎて盛大にすっ転んだあの日のことでしょう? たくさん料理を抱えていたものだから周囲は酷いものだったわね」


 カレンお嬢様……昔からそそっかしい性格だったのですね。


「周囲の人達は私を見て笑っていましたわ。やはり平民上がりの貴族には礼節なんてないのだと、そう思っていたことでしょうね。誰も私に近づこうともしない中、貴方だけは違いましたわ」


 遠い昔を思い偲ぶかのように瞳を閉じるカレン。

 ここまで聞くとちょっとした黒歴史だが、カレンの表情からそういう類の話ではないと分かった。昔を語るカレンの表情がとても嬉しそうだったからだ。


「貴方は自分の服が汚れるのもいとわず、私に手を差し伸べてくれた。あれだけ多くの貴族がいた中で、貴方だけが私を助けてくれた。今でも覚えていますわ。私はあの日、あの時から貴方のことを本当の貴族だと、そう思っていますの」


 そこで瞳を開き、真っ直ぐにクレアを見つめるカレン。

 そこには確かな『覚悟』があった。


「『人道に背けど、仁義に背かず』。我が家の家訓ですわ。私はあの日から貴方にこの恩を返す機会を伺っていましたの。貴方は優秀だったから、ついぞその機会は訪れませんでしたけど……ようやくその時が来たようですわね」


 そう言って微笑み、手を差し伸べるカレン。


「あの時手を差し伸べてくれてありがとう、クレア。そして……私を頼ってくれて、ありがとう。私、とっても嬉しいですわ」


「カレン……」


 クレアの助力を二つ返事で了解したカレン。

 だけど、その決断は決して簡単なものなんかじゃなかった。

 何年も積み重ねた思いがそこにはあったのだ。


「ありがとう……カレン。改めてお願いするわ。私に力を貸して頂戴」


「はい。承りましたわ」


 お互いの本心を打ち明け、固く握手を交わす二人。

 これもきっとクレアの人徳なのだろう。流石は私のご主人様だ。


「それで私は具体的に何をすれば良いんですの?」


「それに関しては一度集まって話したいから、明日の夕刻、この場所に来てもらえる?」


 そう言って懐から一枚のメモ紙を取り出したクレアはそれをカレンへと手渡した。


「分かりましたわ。明日の夕刻ですわね。セス、予定帳にしっかりと書いておきなさい」


「お嬢、こういうのは出来る限り証拠として残さないのが良策かと。そのメモも内容を覚えたら燃やしておきましょう」


「あら、そうなの? ならそうしておいて頂戴」


 そして、あっさりとメモはカレンからセスへと。

 さっきの感動の後でなんだけど……カレンお嬢様よりセスの方がよほど頼りになるような気がする。


「ねえ、セス。ずっと黙ってたけど貴方は良いの?」


 カレンとクレアが話しているのを尻目に、私はこっそりとセスに近づき彼にしか聞こえない声量で話しかける。今のうちにどうしても確認しておきたいことがあったからだ。


「良いのって、何がだ?」


「貴方はカレンお嬢様のお付なんでしょう? 自分の主人にこんな危険なことをさせて、後で家の人に怒られないのかってこと」


「あー、それか。それはたぶん大丈夫だと思う。お嬢も言ってた我が家の家訓ってのがあるだろ? ここで友人を見捨てましたなんて言ったらあの両親はむしろ怒るだろうな」


「そうなの?」


 我が子には危険なことをして欲しくないと思うけど……そこはお家柄なのかな。でも、その考え方はとても素敵だと思う。なんだがヒューズ家の人達が好きになりそうだ。


「ということは貴方も助っ人として数えて良いってこと?」


「ああ。俺は基本的に好きに動いていいことになっているからな。お嬢を守るのが俺の最優先事項ではあるが、ああなったお嬢を止めるなんて出来そうにないし」


「はは、それは確かに」


 こうと決めたら真っ直ぐ進む。

 カレンは確かに天然というか、ちょっとズレたところがあるけれどその本質は真っ直ぐだ。それだけに、周囲の人間は軌道修正に気を使わないといけないと思うけど……うん。今回はその必要もないだろう。


 早速手に入れた強力な仲間に、思わず頬が緩む私。

 しかし、そんな様子を隣で見ていたセスはしっかり従者としての役目も弁えているようで……


「だが、これだけは先に言っておくぞ。もしもお嬢に何かあったら……俺はお前たちを絶対に許さない」


 鋭い眼光で私を睨み付けると、そう釘をさしてきた。

 確かに彼の立場からしたらそれは当然の懸念だろう。さっき自分でカレンの安全が最優先事項だと言っていたし。


「分かってる。もしもの時は私も命を懸けてカレンお嬢様を守るよ」


「ああ、頼む」


 私たち従者の存在価値は主を守ることにある。

 彼女たちが茨の道を進むと言うのならその盾となり守らなければならない。


 セスは私の命を軽んじてそんなことを言っているわけではない。これは助力を頼む側の私達、とくに従者である私が背負わなければならない責務だ。

 だから……


「絶対に守ろうね、セス」


 私はカレンを全力で助ける。

 だから、セスにもクレアを全力で助けて欲しい。

 そんな願いを込めた言葉に、セスは確かに頷いて答えてくれた。


「もちろんだ」


 嬉しそうに会話を続ける主人二人を前に、従者二人はひっそりと覚悟を固めるのだった。

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