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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第209話 将を射んと欲すれば、将を射ろ

 全てを知ったクレアの動きは早かった。

 まずは事情の更なる追求の為、その足で学長室に向かったクレア。私も同行しようとしたのだが、断られてしまった。多分、二人っきりで話したいと言うことなのだろう。


 学内では直接クレアの身に被害が及ぶようなことはないだろうが、それでも注意しすぎということはない。

 すでに授業が始まっているため、人通りのない廊下を歩きながら私は再び生徒たちのロッカーが集められた場所まで戻っていた。クレアの傍を離れた今だからこそできる事もあると思ったからだ。


「……しかし、こんなこと一体誰が……」


 切り刻まれ、破壊しつくされた授業道具を前に独り言が漏れる。この光景をもう一度クレアに見せるのが忍びなかった私は先に片づけをしておくことにしたのだ。

 エレノアの件もあって、学内に純血派の人間が潜んでいるだろうことは予想していたがまさかここまで露骨に攻撃してくるとは……


(いや……アリスのところにだって刺客が送られたくらいなんだ。甘い考えは捨てよう。クレアを守るため、あらゆる事態を想定しておくんだ)


 誰にも見られないよう焼却炉に授業道具を運んだ私はひとつひとつを念入りにチェックしては焼却処分していく。

 だが、予想通りというかなんというか犯人に繋がりそうな証拠は何も見つからなかった。まあ、そんなに期待もしていなかったけどさ。


「ひとまずはこれでよし、と」


 全ての片づけを終えた私は手をはたいて、周囲を見渡す。

 学内の隅に用意された焼却炉からは学園を囲むように張り巡らされた鉄柵が見えた。これは貴重な研究結果なども置かれている学内に侵入者が入らないようにとの配慮の結果だ。

 正門と裏門には警備員も配置されているし、部外者が学内に忍び込むのは困難を極めるだろう。つまり……


("これ"をやったのは学内の生徒。もしくは教師ってことになる)


 燃えていく焼却炉の中身に視線を向けながら思案に暮れる。

 私の予想では純血派の生徒はそれほど多くないと見ている。グラハムさんの話を聞いた限りでも純血派は貴族のほんの一部にしかいないようだし、十何人もの生徒が純血派に所属しているということはないはずだ。

 いるとしても3、4人。その一人がエレノアだったとして、他の純血派は誰だ? 貴族クラスの生徒であることは間違いないだろうが、それを絞り込むには……


「……まずはエレノアと仲の良かった生徒から当たってみるか」


 短絡的に過ぎると思ったが、他に当てがないのもまた事実。

 それから私はクレアとの合流を待って、今後の方針について相談することにしたのだが……


「それならそっちの探りは私がすることにするわ」


「え? クレアお嬢様が、ですか?」


「ええ。メイドの貴方では動きにくいでしょう。だから私がやっておくわ……って、何よその顔」


「いや、だって。その、お嬢様は分かってるんですか? 情報を集めるには他の生徒に話しかけないといけないんですよ?」


「それくらい私でもできるに決まってるでしょうが。貴方は私を何だと思ってるのよ」


 気難しいボッチお嬢様です。

 とは言えなかった私はクレアの健闘を祈り、自分の仕事に向かうことにした。

 従者として誓いを立てた後に、いきなりクレアと別行動なのもどうかと思ったが今の私たちには時間がない。なんでも平行作業したほうが良いというクレアの案に従い、私は早速行動に移ることにした。


 師匠の悲願達成のため純血派に喧嘩を売ったアリス。

 講和を目指すグラハムさんに協調したらしいクレア。


 二人を同時に守るのは不可能だ。だが、どうしても守らなければ気が済まない私はそもそもの前提条件を崩すことにした。

 足並みが揃わないのなら、無理やりにでも揃えるまで。


 そして、そのための鍵となるのは間違いなくあの人だ。

 だから……


「少しお話良いですか……師匠」


 私は直接、本丸に突撃することにした。

 予想通り学務科の一角で、ダルそうに書類仕事に向き合っていた師匠は……


「あん? 何だ、ルナじゃねえか。どうした? 今は授業の時間のはずだろ。なんでここにいる?」


「メイドの私は授業に参加する義務はありませんからね。ちょっと用事があったので抜け出してきちゃいました」


「へえ。なかなかお前も悪になったな。それで? 用事って何だよ」


「ちょっとここでは話せないですかね。場所を変えさせてもらってもいいですか?」


「ん? んー……俺も仕事があるからな。今じゃないと駄目なのか、それ?」


「早いほうが良いです。何しろ……アリスの今後にも関わることですから」


「…………」


 私の言葉にそれまでどこか上の空だった師匠の顔色が変わる。

 ずるい言い方だとは思ったが、今すぐにでも私は師匠から話を聞きたかった。


「……いいぜ。どこで話す?」


「他の人に聞かれない場所ならどこでも」


「なら第三訓練場にすっか。今の時間はどこのクラスも使ってなかったはずだしな」


 首をコキコキと鳴らしながら立ち上がる師匠。

 どうやら話し合いには付き合ってくれるらしい。

 問題は……


「ほら、さっさと行くぞ。ルナ。俺は忙しいんだ」


 この師匠から本心を引き出すことができるかどうか、だな。


「今行きますよ、師匠」


 少なくない緊張感を胸に抱えながら、私は師匠の後を追うのだった。

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