表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

205/424

第202話 妹として

 静かな沈黙が訓練場を包み込む。

 私の放った一撃はアリスの頭部を直撃し、その軽い体を地面に叩きつけた。

 そこまでやって……私は思った。


 やべえ……流石にやりすぎた、と。

 ムキになっていたとはいえ、女の子の頭を蹴り飛ばすのって……男の子的にどうなの? セーフ? アウト? いや、普通にアウトだろ。バリバリ完全完璧に完膚なきまでにアウトだろ。


「……アリス?」


 ちょっと心配になった私は地面に倒れるアリスに声をかけるのだが……反応がない。まるで屍のようだ。


「あ、アリス? 冗談はやめよ? 私、そんなに強く蹴った? いや蹴った気はするけど……え? そんなに?」


 思えばアリスの防御方法は基本的に対抗魔術(レジスト)を頼りとした対魔術専門の防御だ。物理的な防御、即ち今回のように思いっきり蹴り飛ばされた場合には……うん。普通に食らうだろうね。ダメージ。

 そして、私は吸血鬼。普段は抑えているけど、本気になれば頭蓋骨くらいは握りつぶせるんじゃなかろうかってほどに力は強い。つまり……


「アリスぅぅぅっ! 死ぬなぁぁぁっ!!」


 今更ながらに自分のやらかしてしまったことに冷や汗を流しながらアリスの華奢な体を抱き起こす。すると、正面を向いたアリスは><って感じに目を回していた。なかなかタフだ。流石、師匠に毎日虐められていただけのことはある。


「……っ、る、ルナ……?」


「ああ、良かった。目が覚めたんだね、アリス」


「ええ、でも……ああ、そうか。私……負けちゃったのね」


 意識を取り戻したアリスはそう言うと、瞳を手で覆った。


「……強くなったわね、ルナ」


 アリスはそう言って儚げに笑みを漏らした。それは成長した妹を喜ぶ姉のようでもあり、負けたことそのものを一連の流れとして美化しようとする演技のようでもあった。

 というかその……ごめん。ちょっとシリアス調にやるには、さっきの気絶してるアリスの顔が頭から離れないや。ちょっとリセットさせて欲しい。


「いつかこんな日が来ると思っていたわ。でも……まさか、こんなに早くこの日が来るとはね」


 駄目か。どうやらアリスはもうその路線で行くつもりらしい。

 仕方がない。付き合おう。


「……私が勝ったんだからアリスのしようとしたこと、教えてよ」


「それは……」


 アリスはそこで口ごもると、何か葛藤するような表情を見せ、


「ごめん。やっぱり、それだけは出来ないわ」


 沈痛な面持ちでそう答えた。


「どうして? どうしてアリスは……何も言ってくれないのよ」


「……ルナ?」


 言葉の端が震えていたことに気付いたらしい。

 私を見えるアリスの瞳に、戸惑いが浮かんでいた。


「アリスは私に日なたにいるべきだって言った! だけど、そんなの私は望んでない! 私は……私はたとえ、どんな場所だってアリスと一緒にいたい! ただそれだけなのに!」


 一度言ってしまえば後は簡単だった。

 どこか演技がかったこの空気だからこそ言えることもある。

 私はこれまでの鬱憤全てをぶつけるかのようにアリスに続く言葉を叩きつけた。


「アリスは勝手だよ! 私の気持ちなんて何一つ考えてない! 後の事は任せろ? 私には関係ない? そんな言葉で私が納得すると本気で思ってたのっ!?」


 アリスの襟元を掴み、強引にこちらを向かせる。


「他の誰でもないアリスのことなら、私に関係ないわけない! だって私は……」


 以前に感じた怒りの源。

 その正体に私はとっくの昔に気付いていた。


「私はアリスの『妹』なんでしょうがっ!」


 私は今までずっと否定してきた。アリスの言う冗談を流し続けてきた。だけど……アリスが私のことを妹と呼んでくれて嬉しかった。兄弟のいなかった私に、初めて家族が出来た瞬間だったから。


「姉が無茶してんのに、助けない妹なんかいないっ! いるわけないっ! 少なくとも私はアリスが一人で戦ってる姿なんてもう見たくない!」


 だからこそ、私を関係ないと言って遠ざけるアリスがどうしても許せなかった。一発殴ってやらなければ気が済まないほどに、私は怒っていたのだ。


「助けが欲しいならちゃんと言ってよ。私達は……家族なんだから」


 最後は最早懇願のようになってしまった私の言葉。だけど、言いたい事は全て言えた。学園に通い始めてからようやく私の本心をアリスに伝えることが出来た。


「……私は……」


 私の言葉に、アリスは何かを言いかけて、そして……


「──ルナっ!」


 アリスは私の体を強く押し倒すのだった。

 何事かと驚く私の頭上を銀色の閃光が通り過ぎる。

 それは高速で飛来する弓矢だった。頭上を駆け抜けた矢はそのまま近くの木に突き刺さり、僅かに揺れた。


「一体何のつもりよ……貴方達ッ!」


 矢の飛んできた方向を見るアリスが吼える。

 見ればそこには……


「お前がアリス・フィッシャーだな。お前に恨みはないが……」


 全身黒尽くめ、更には顔に覆面を付けた奇妙な一団が立っていた。

 そして、その全てが何かしらの武器を手に……


「ここで──死んでもらう」


 アリスへと、隠しもしない殺気を放っていた。



【お知らせ】

先日お伝えしましたハロウィン特別企画、

「吸血少女は男に戻りたい! ~ハロウィン特別篇~」を新たに短編として投稿させて頂きました。

こっちは本編とはちょっと逸れる話なので、短編という形になっています。

作者HPより掲載ページに飛べますので、興味がある人は覗いてみてください(イラストもあるよ!)。

作者HPへの行き方はこのページ左上にあります「秋野錦」の文字に張られているリンクから行けますので、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ