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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第200話 喧嘩するほど仲が良い

 私はずっと仮面を被って生きてきた。

 始まりは小さなコンプレックスが始まりだったように思う。私は小さい頃から自分の女っぽい見た目が嫌いだった。周囲はそんな私を見て、可愛いと言ってくれた。それはきっと善意からの褒め言葉に近いものだったのだろうけど、私はそれを寛容に受け入れることが出来なかった。


 そして……いつしか私は顔も名前も分からないネットの世界に入り浸るようになった。誰も彼もが仮面を被り、ロールプレイに浸る日々。私はその世界を心地良いと感じていた。


 誰も本当の私を知らない。

 だからこそ、私はそこでは心の底から自由に振舞えた。

 そこで女のフリをしていたってところが、なんとも私の傲慢で矮小な部分だと思う。男として扱われたいくせに、心のどこかで可愛いと言ってちやほやしてもらうことを楽しんでいたのだから。


 この世界に来てからも私は仮面を被り続けた。

 それは女性という仮面だったり、人族という仮面だったり……それが必要だったという側面はあるにしろ、私は素の自分を晒すことを止めていた。諦めていた。


 それは怖かったから。

 本当の自分を見せて、相手に失望されるのが怖かったから。

 仮面を被り続けた私はすっかり自分を晒すことに臆病になってしまっていた。


 それは私の前世から続く悪癖。誰も彼にも親切にするのは愛して欲しいから。全員全てを愛する自分を愛して欲しいから。結局は自己満足の八方美人。誰にでも色目を使い、接する私には『色欲』の罪も本来相応しいものだったのかもしれない。

 仮面を被り続けたとしても、結局その人の本性なんて変わりはしないのだから。その受け取られ方が多少違うだけで。


 仮面を被り、人と接するのは楽だ。

 本当の自分じゃないのだからプレッシャーも、失敗する恐怖も無縁のものだ。いつでもリセットできるゲームキャラクターと一緒。だけど……それでは何も感じる事は出来ない。


 マイナスを恐れる事で、プラスの感情すらも消してしまっているのだから。当然だ。私の身に起きる嬉しいことや楽しい事も全て本当の自分に与えられたものではない。

 幾らゲームの中のキャラクターがモテモテだろうと、ふと電源を落とした部屋に視線を向ければそこにはただの現実が広がっているだけ。残るのはきっと空しい虚無感だけだ。


 それが悪い事とは言わない。

 私だってずっとそのぬるま湯に浸かってきた人間だ。そんなことを言う資格はない。だけど……私は気付いてしまったんだ。本当の自分を受け入れてもらえる嬉しさを。他人と触れ合う喜びを。

 私はそれをノアに教えてもらった。

 そして、同時に思ったのだ。


 ──世界はそれほど残酷に出来てなどいない、と。


 そして、それを伝えたくもあった。

 今、たった一人で戦っている彼女へと。


「……ルナっ!?」


 私の声を呼ぶ声に振り返ると、そこには荒い息を繰り返しながら額に汗を滲ませるアリスの姿があった。手元には私が出した手紙もある。良かった。どうやら、ここに来てくれる程度にはアリスも私のことが嫌いではなかったらしい。

 ここ最近のアリスを見ていて、ちょっと自信が揺らいでいたからね。だけどこれでもう大丈夫。アリスの本心、その一部は覗くことが出来た。


「あ、れ? ……る、ルナ? 誘拐されたって書いてあったから来たのに……あ、あれっ? 私の勘違い?」


 慌てて手紙の内容を読み返すアリス。その仕草が妙に可愛かった。

 やっぱりアリスは慌ててる姿が良く似合う。冷静ぶって、クールキャラを気取ってるアリスには違和感しかなかったからね。滑り出しとしては上々だろう。


「あ、あれぇ? 来ないとお前の妹の命はないって……あれぇ?」


「アリス、ごめん。それ嘘。私が自分で書いて出しただけだから、誘拐なんてされてないし、心配もいらないよ」


「えっ? ……えええええっ!?」


 私の言葉に気が抜けたのか、すとんとその場にへたり込むアリス。


「なによ……ただの悪戯だったの。こんなところに呼び出すから本当に何かあったのかと思っちゃったじゃない」


「ごめんね。でも、どうしてもアリスと腹を割って話したかったんだ。誰の邪魔も入らない場所でね」


 私がアリスを呼んだこの場所は学園の訓練場の一角だ。すでに日の暮れたこの時間帯に残っている学生がいるはずもなく、周囲には人影の影すらなかった。つまり、この時間帯、この場所は誰かを呼び出してちょっと痛い目に遭わせるには絶好のスポットってわけだ。


「話がしたかったって……悪いけど、どんなに頼まれたってルナに話す事はなにもないわよ。それはルナの知る必要のないこと。知るべきじゃないことなんだから」


 軽く膝をはたきながら立ち上がるアリス。

 その様子を一言で表現するなら、やれやれって感じだ。

 どうやら本気で私には何も話すつもりがないらしい。まあ、それは分かってたことだけどね。それならこっちもそれなりに覚悟を固めないといけないな。


「それはグラハムさんと取引したことも?」


「……なんでルナがそれを知ってるのよ」


 軽い先制ジャブで話の根幹を攻めた私に、ぴたりとアリスの動きが止まった。


「あの人……まさかルナに喋ったわけじゃないでしょうね」


「大丈夫だよ。心配しなくても、グラハムさんはアリスとの契約を守って詳しい内容については何も言及しなかったから。ただ、今の貴族社会の現状についてちょっと講義を開いてくれただけでね」


「はあ……そんなのどっちでも一緒じゃない」


 まあ、確かにね。

 アリスのやろうとしていることを止めるだけなら、それでも十分すぎる情報だ。グラハムさんが契約を破ったというならそうなんだろう。だけど……それはアリスも一緒だ。


「それで? こんなところに私を呼び出してルナは一体、何をしようっていうの?」


「私はただ知りたいだけだよ。グラハムさんとの契約を破ってまで一体アリスが何をしようとしているのかをね」


「…………」


 私の問いに、アリスは答えなかった。

 ここで素直に話してくれるとは思ってなかったけどね。この程度ですんなり行くなら、私はここまで苦労していない。


「……どうしても話すつもりはない?」


「……ええ。悪いけどこれは私と……マフィの問題だから」


 今度は首肯が返ってくる。

 これも予想出来ていた事だ。

 だから私は……


「アリス」


 ゆっくりと息を吸い込み……



「──ちゃんと、防いでね?」



「…………え?」


 準備していた魔力を一気に放出し、アリスへと放った。


「────ッ!」


 咄嗟のことにアリスは面食らっていたようだったが、そこは流石の反射神経だった。目の前に迫る無数の影にも冷静に対処し、距離を取っていく。察知から魔力の操作までのタイムラグが短い。これもアリスの優秀なところだな。


「あれ。折角暗闇に隠して準備していたのに、あっさりかわされちゃった。さすがはアリスだね。一筋縄じゃ行かないか」


「な、何をするつもりよっ、ルナっ!」


 魔力の維持を諦め、影を霧散させる私にアリスは魔力を纏いながら困惑した目で私を見た。確かにアリスからすれば、呼び出されていきなり襲い掛かられたんだから意味が分からないだろう。

 だけど……


「ごめんね。アリス。だけど私はそんなに頭が良くないからさ。これぐらいしか解決策が思い浮かばなかったんだ」


 私にはそれしかなかった。

 日に日にアリスと貴族達の間に確執が深まっていっている事は明らか。早急に対処する必要があった。しかし、アリスが私に協力を求めていない以上、私は完全に蚊帳の外。アリスの助けになることは出来ない。

 故に……


「アリスがどうしても止まらないと言うのなら……強引にでも止めて見せる。アリスを病院送りにしてでも、やろうとしてることをやめさせる」


 ──私はアリスの"完全なる敵"になることを決めた。


 今度は以前の決闘のようなおままごとではない。私の意思で、私の決意で。命を賭けて私はアリスを止める。


「怪我するのが嫌なら降参して私に全ての事情を話すと良いよ。話くらいは聞いてあげるから」


 月明かりが照らし始める荒野にて、私はアリスに挑発めいた口調で告げる。

 すると……


「ははっ……まさか、貴方がこう出るとは思わなかったわ。案外、無茶をするのね、ルナ」


 私の決意を前に、アリスは笑っていた。

 いつか一緒に遊んだ頃の、あの笑顔のままに。


「でも、貴方に私は止められないわよ。この世に姉より優れた妹なんていないのだから」


「姉より妹が優れてるパターンなんてありふれてるよ。テンプレと言っても良い。だから妹にコテンパンにされても落ち込む必要はないよ」


「……言うじゃない」


「私も今回ばかりは本気だからね」


 会話しながら、ゆっくりと魔力を集める私達。

 思えばこんな風にやり取りするのも懐かしい。昔、一緒に暮らしていた頃はくだらないことでよく喧嘩したものだ。どっちが余ったお菓子を食べるかだの、闇と光の魔力性質はどっちが優秀かで口論になったりもした。


 舌戦になれば大抵私が勝っていたんだけど、その分、アリスは良く手を出していた。師匠との訓練中なんて、普段の鬱憤をぶつけるついでによく取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 だから……これは何も珍しいことじゃない。


「行くよ、アリス」


「来なさい、ルナ」


 私は右手に、アリスは全身に。それぞれに特徴的な色合いを持つ魔力を展開していく。私は影にも似た漆黒の魔力を、そしてアリスは清らかな森林をイメージ出来る薄いエメラルド色の魔力を。

 そう。これはただの……


「来い──『影法師』ッ!」


「纏魔──『風陣』ッ!」


 どこにでもある、普通の姉妹喧嘩だ。

 ただお互いにちょっと常識外れの魔法を使うだけの、ただの姉妹喧嘩なのだ。






【お知らせ】

どうも、こたつ大好き秋野錦です。

今回は今後の活動についてちょこっとお知らせさせてもらいます。

まずは……ハロウィンイベント企画!ということで、10月31日にルナともう一人のキャラを主人公とした短編を投稿しようと思っています。これは本編とはちょっと話が逸れるので、別枠として新しく投稿する形になります。興味がある人はぜひ覗いてみてください。あ、イラストも用意してありますよ。これはとある作者さんとのコラボ企画でもあるのでその点もお楽しみに!


そして、こっちはバッドなニュースになるのですがこの吸血少女シリーズを11月末までは不定期更新にさせてもらおうと思っています。理由としてはリアルの方が忙しくなってきたことと、新連載の方に少しの間集中したいってとこですね。三日に一度以上のペースは保ちたいのですが、その点も不明です。このシリーズを楽しみにしてくださっている読者の皆様には申し訳ありませんが、ご理解いただけると幸いです。


では、最後に謝辞を。

いつも読んでくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます!

感想、ブクマ、PVなどなど、これほどの評価を頂けて作者冥利に尽きますね。いや、もう本当に。

読者の皆様あっての作品だと思っていますので、これからも吸血少女を共に盛り上げてもらえると嬉しいです!

ではでは、体調を崩しやすい時期になってまいりましたので体調には十分お気をつけてお過ごしください!こたつの中より秋野錦でした!

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