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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第198話 隠し事のない人間はいない

 まるで熱した鉄を貼り付けられているかのような傷みが体中を走る。

 油断していたところに突然走った激痛に、私は立っていることすら出来なかった。


「ルナ? ……ルナっ!?」


「ぐっ……う、ああっ……」


 薄目を開けて確認すると、肌が真っ赤に焼けており見た目にも痛々しいことになっていた。ただ光を浴びただけでは普通、こうはならない。私の体に起きた異常事態にノアは混乱しているようだった。


「す、すまナイっ、今すぐ治癒魔術を……」


 私の傍に駆け寄って、容態を確認すると呪文を唱え始めるノア。

 流石は当代の主席魔術師。治癒魔術まで使えるとは大した万能っぷりだ。だけど……


「くぅっ……」


「なっ、なんでダっ!?」


 ノアが治癒を行ってくれた箇所は治るどころかむしろ痛みが増し、症状は悪化しているようだった。

 今まで回復は全て『再生』スキルに頼ってきたから気付かなかったのだが……どうやら私には治癒魔術すら癒しにはならないらしい。私の持つ『柔肌』のスキルは火、水、光系統の魔術によるダメージを増加させる。治癒系統の魔術は水と光の魔力特性を持つから、恐らくその部分が該当してしまっているのだろう。


「だ、駄目……魔術は、使わないで……」


「な、ならどうすれば良いっ!?」


「はあ……はあ……くっ……」


 ノーマルモードの私でも一応『再生』スキルの恩恵を受けているのか、多少の傷なら一日も経たずに跡形もなく消えてしまう。つまり、一般人よりはよほど回復力に優れているわけだがこのダメージの回復には数日はかかりそうだ。元々、魔術による傷は回復しにくいという特性を『再生』スキルは持っている。


 となると……取れる手段はそれほど多くないな。

 まずはこれを我慢して自然治癒に任せる方法だが……ノーマルモードの状態でこれほどの傷を負ったことは過去に例がない。治癒にどれだけ時間がかかるか分からない以上、出来れば『再生』スキルを活性化させておきたいところだ。


 そうなると問題は誰の血を吸うかだが……ここは師匠に頭を下げるより他にあるまい。この時間はまだ学園だろうか。動き回るのも辛いが、探すしかない。


「ご、ごめん。今日の研究は中止で良いかな。ちょっと行くところが出来た」


「ば、馬鹿っ、そんな状態のお前を一人で行かせられるカ! 診療所に行くならノアが付き添う。大丈夫、ノアは腕の良い医者を知っているんダ」


 立ち上がろうとした私の腕を、まるで宝石に触るかのような手つきで支えるノア。彼女がこういうことを言い出すだろうとは思ったけど……参ったな。診療所に連れて行かれたところで治らないことははっきりしている。血を吸っているところを見られるわけにもいかないから、ノアの同行は何とか拒むしかない。


「だ、大丈夫。一人で行けるから。それに治療院でも私の傷は治せないんだ。これは私の持病みたいなものだから、ノアも気にしなくて良いよ」


 何とか笑顔を浮かべようとするが……駄目だな。きっと引きつった笑みになってる。それぐらいに強い痛みが体中を走っていた。


「持病……? そ、それは治癒魔術では治せないのか?」


「うん……そうみたい」


 自分で何とかしたかったのだろう。ノアは自分に出来る事がないと分かると、申し訳なさそうな顔をした。そんな顔しなくてもいいのに。今回のは完全に事故。というより私の自業自得だ。あまりの痛みに吹っ飛んじゃったけど、あのまま色欲の暴走に任せてたら何してたか分からなかったからね。むしろ結果オーライだったかもしれない。


「だが……いや、ちょっと待て」


「え? なに?」


「その症状は見た事がアル……光系統の魔術に体を侵され、治癒魔術も効かない。ああ、あれは……なんだったか。何の本だったか……」


 ノアは必死に自分に出来ることを探していたのだろう。

 自分の中の知識を全て引き出そうとするかのように、固く瞳を閉じ、思考するノア。だが……それは駄目だ。この状況を分析すれば彼女はきっと届いてしまう。そうでなくても私は彼女の前で幾つか情報を晒してしまっているのだ。


「ちょっ、ノア! 待っ……!」


「太陽の光……それに闇と風の魔力性質……そうダ。知ってる。ノアは知ってる」


 咄嗟にノアに待ったをかけるが……遅かった。

 もしかしたらいつかは気付かれていたことなのかもしれない。

 それほどに彼女は洞察力に優れている。だが……


「──吸血鬼(ヴァンピール)


 このタイミングで知られたくはなかった。

 "彼女に襲い掛かってしまった"その直後には。


「ルナ、お前、まさか……」


 疑惑と驚愕を混ぜたノアの瞳が、私を見る。


「──吸血鬼、なのカ?」


 そして、ノアは到達した。

 決して触れて欲しくはなかった、その真実の先へと。

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