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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第197話 ノアの秘術

「いやあ、悪かったナ。まさか本当にあそこまで太陽に弱いとは思ってなかったんダ」


「勘弁してよ、本当にもう……」


 今日も今日とて魔導研究だ。ノアは優秀な魔術師だから、単純に勉強会としてもためになる。とはいえ、天才型のノアの説明は要領を得ないことが多いけれども。


「だが、あれほど肌が弱いと大変じゃナイか? 外もろくに歩けないだろう」


「まあね。でも慣れたよ。それに意識してみれば分かるんだけど、街中でも案外影ってのは多いからね。移動が多いのも朝方と夕方だし、言うほど生活に支障はないよ」


「ふむ……なるほどナ。その外見の代償ならば我慢も出来るか」


「いや、だからそれはアンナの冗談だから」


 軽い談笑を続けながら、研究を続ける。

 今日はその件のアンナは来ていない。どうせなら来てくれれば良かったんだけどね。ノアと二人っきりってのもなんだか妙に緊張するし。


「おい、そこの術式理論間違ってるゾ」


「え? 嘘? どこ?」


「ここダ」


「え? でもこれ、教科書に書いてあったとこだよ?」


「教科書に書いてあるからなんダ? 誰にだって間違いはアル。ここの魔法陣は直接ここと線を繋げた方がスムーズに魔力回路が通う。実際にやって見ればすぐに分かることだがナ。どうせ研究ばかりでろくに検証実験もやらない自称研究派(笑)魔術師が書いたんだろう」


 そう言って教科書の内容を鼻で笑うノア。

 まさか、教科書すら彼女の教えにはならないとは……本当に頭が良いんだな、この子。


「まあ、それは良い。それより、魔法陣の基礎理論についてはそろそろ理解できたカ?」


「んー……どうだろ。まだ一度目を通しただけだから、完璧に理解してるとは言い難いかも」


「? 一度目を通したのになぜ理解できない?」


 普通の人は理解できないと思いますよ、これ。まだ数学Ⅲの方が簡単な気がする。図形やら古代文字やらやたら専門的な用語も出てくるし。完全記憶能力でも持ってなければ、覚えきるなんて出来ないだろう。


「まあ、それもおいおい覚えるよ。それで今日は何をするつもりなの?」


「今日はノアの術式を一つ見せてやろうと思ってナ。ノアの研究の最先端技術だから誰にも言うなよ?」


「大丈夫。秘匿義務は守るよ」


「なら良シ。では……」


 ノアは手に取った羊皮紙に魔力を加えると……


「──『ノアの箱舟(ノアズ・アーク)』」


 小さくその呪文を口にした。

 そして……


「おわっ!?」


 私は目の前で起きた現象に思わず声を上げていた。淡い翡翠色の光を放つ魔法陣を手に、ノアはにっと悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。


「どうダ? 凄かったろ?」


「うん……でもこれ、どうやったの?」


「それは秘密ダ。この情報だけで一生遊んで暮らせるのは間違いないからナ。いくらルナでもこればっかりは教えられん」


 そう言って満足げに頬を緩めるノア。

 もしかしたら完成した自分の魔術を誰かに自慢したかったのかもしれない。なかなか可愛いところがあるじゃないか。


「こういうのって確か固有魔術(オリジン)って言うんだっけ?」


「今はノアが独占してるからそうだナ。だが、この術式はそれほど適性条件がきつくナイ。誰でも使えるってわけじゃナイが……そうだな。多分、ルナでも使うことはできるだろう」


「え? ほんとに?」


「ああ、教えないけどナ」


「えー、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃん」


「駄目ダ。これはノアの生涯をかけた研究ダ。おいそれと他人には渡せナイ」


 くそう、やっぱり自慢したかっただけか。


「ふん、まあ良いけどね。そんなに実用性がある魔術には見えなかったし」


「……なんダと?」


「だってそうでしょ? 日常生活で使うような機会ってまずないと思うけど?」


「そんなことはナイ」


「ならいつ使うのよ、それ」


「……自室の鍵をなくした時、とか?」


 いつも自身満々のノアだが、この時ばかりは語尾が疑問系になっていた。


「でも、それ根本的な解決になってないじゃん」


「う、うるさいっ! そもそも魔術の開発に有用性など必要ナイのダ! 常に新しい技術を模索し、人類の発展に帰属することこそが魔術師の本質的な存在価値であり、学術の本来の目的でもアルのダ!」


 両手を上げ、頬を膨らませながら怒りの意を表するノア。ちっこい彼女が威嚇して来ても可愛いだけだったので、私は微笑ましいその姿を優しく見守ることにした。


「そもそも魔力性質による魔術の一般への非浸透性はすでに学会にも何度も論述が提出されている大前提となる恒久的な命題ダ! つまり、魔術を一般生活において利用しようとする考え方そのものがナンセンス! ルナも魔術師なら悔い改めるべき価値観ダ!」


「うん。そうだね(にっこり)」


「ぐっ……その顔は何も分かってナイ! 良いカ! ノアはいずれこの国を背負って立つ魔術師ダぞ! ノアの言うこと、することは絶対ダ! 間違いはナイ!」


 確かにノアの言う通りなんだろうけど、顔が真っ赤になってるせいで虚勢にしか聞こえない。何だろう……何と言うか凄く苛めたくなってくる。

 というか……いや、ちょっと待て。


(……っ!? ま、まずい! まさかこの感覚は……っ!?)


 私は背筋を走るゾクゾクとした感覚に、身震いした。

 可愛い女の子、二人っきり、密室。

 これだけの条件が揃っていて、なぜ私は気付かなかった!?


「ぐっ……く、そっ……!」


「どうした? ルナ? ……おい、ルナっ!? 大丈夫か!?」


 本当に久々となる『色欲』の発動。

 マジで久しぶりだからその存在を忘れかけていた。

 これだけお膳立てされた状況でヤツがやってこないはずがないというのに。ノアが外見に無頓着ということもあって油断していた。私にとってノアは性的な対象にはならないと、そう思っていたのに……


(というか私、ちっちゃい子にしか発情してなくね? ロリコンなのか?)


 ここに来てようやく自覚した己の性癖に戦慄する。

 巷では不治の病とも呼ばれるその性癖の業は深い。

 そんなことはないと、首を振って否定しようとする私だったが……


「るっ、ルナななッ! い、痛いのか!? そうなのか!? の、ノアはどうしたら良いっ!?」


 胸を押さえて蹲る私に酷く狼狽した様子のノアがあまりにも可愛らしくて可愛らしくて……


「えっ……きゃっ!?」


 気付けば私はノアを地面に押し倒していた。女の子らしい、可愛い悲鳴を上げるノア。今日はいつもと違う君が見れてばかりだね。どうせならもっと深い部分のノアも見せて欲しい。


「ノア……可愛いよ」


「まっ、待て待て! 何をするつもりダっ!」


「大丈夫……すぐに気持ちよくなるから」


「~~~~っ!」


 すでに林檎のように顔を真っ赤にしたノア。そして、さっ、と手から小さなタロットカードのようなものを取り出すと……


「のっ、『ノアの箱舟(ノアズ・アーク)っ!』」


 ぱっと視界に閃光が広がり、私は思わず手で目を覆っていた。

 そして……


「に、日常生活でも役に立ったゾ! 痴漢からの防衛方法ダっ!」


 体を隠すようにコートを抱くノアの姿があった。

 なるほど……これが因果応報ってヤツか。オチとしては悪くない。

 だけど……


「ふふ。私が逃がすとでも?」


「ぐっ……く、来るナっ!」


 接近する私に身構えるノア。私としては強引なことはしたくないし、受け入れてくれるのが一番なんだけど……さて、どう調理したものかな。

 手をわきわきと動かしながら迫る私に、ノアは恐らく目潰し程度のつもりだったのだろう。唐突にその呪文を口にした。


「《光あれっ──【ソーラ】》!」


 それは単純な発光魔術。光系統の基礎の基礎となる単一系の初級魔術だ。

 警戒していれば、その直線状から逃げることも出来たかもしれない。だけど、あまりにも突然のことに私は回避するという考えすら抜けていた。


 そして……

 ──淡く輝く光の奔流が、私を包み込んだ。

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