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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇

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第19話 魔法使いたいっ! ……え? 私使ってたの?

 静まり返った厨房で、温めたミルクを私に差し出しながらお父様は口を開いてこう言った。


「ルナ。お前には魔法の才能がある」


 才能……前世の私にはなかったものだ。

 才能があるといわれて嬉しくないはずもない。けど……どうしてお父様もティナもそんな悲しそうな顔をしているの?


「……もしかして悪いことだった?」


 不安になった私は思わず聞き返していた。

 この世界の常識を私はあまりにも知らなさ過ぎる。

 吸血鬼がバレたらまずいってことも後になって知ったことだし。もしかしたら魔法使いというのはそれだけで避けられるようなものなのかもしれない。


「そうじゃないんだが……いいかい? 魔法使い、魔術師というのは人族にとっては貴重な存在なんだ。魔法の扱いでは長耳族(エルフ)に劣り、身体能力では獣人族(ベスティア)に負ける人族はいつだって強力な人材……つまりは"兵器"を求めている」


「……つまり、私もそうなると?」


「可能性は高い。下手をしたら一生、王国軍に入れられたまま帰ってこれないかもしれない。俺はお前に赤子の頃から魔法の才能があると気付いていたが、これまでそれについて教えるようなことはしてこなかった。それは怖かったから。王国軍に入れられ、ろくに会うことすら許されなくなる。俺達は……それが嫌だったんだ」


 何度聞いてもお父様が魔術を私に教えてくれなかった理由。

 そっか……そういうことだったんだ。

 だからお父様は魔術が使えることも隠して……ん?


「でもお父様も魔術を使ってましたよね?」


「私の場合は単一の白魔術、それも簡単なものしか使えない。適性が光にしかなかったんだ。それに術式構築速度も遅いし、詠唱短縮のセンスも足りない。言ってしまえば三流以下の魔術師なんだよ。この程度なら冒険者にはいくらでもいる」


 お父様は珍しく自分を卑下するようなことを言い、「だが」と言葉を続ける。


「お前は違う。詠唱も術式もなく魔術を完成させていた。あれはもう魔術ではない。魔法と呼ばれる現象だ」


「あっ……」


 マリン先生に教えてもらった魔法についての記述を思い出す。

 長い詠唱を唱え、術式を脳内で構築し、必要となれば魔法陣を描く必要のある魔術に比べて魔法はそれら全てを必要としない最速の超常現象だ。

 いわば魔術の上位互換。完全な高等技術。

 だけど魔法を使うには魔力の運用に関する熟練度が必要だったはずだけど……ん?


【ルナ・レストン 吸血鬼

 女 5歳

 LV1

 体力:63/63

 魔力:5056/5056

 筋力:67

 敏捷:93

 物防:66

 魔耐:38

 犯罪値:124

 スキル:『鑑定(66)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性(72)』『色欲』『魅了』『魔力感知(1)』『魔力操作(1)』】


 何かスキル増えてるぅぅぅっ!?

 い、いつの間に!? まさか寝てる途中か? システムボイスが全然聞こえなかったから多分そうなんだろうけど……ま、マジか。これでもうスキル9個、ちょっとしたスキルお化けだよ。


【魔力感知:魔力を感知する】

【魔力操作:魔力を操作する】


 はい、そして毎度の不親切解説どうもでーす。


「俺はお前に普通の生き方をしてもらいたいと思っている……だが、お前の魔力が膨大すぎるせいだろう。お前の制御できない範囲で魔力が暴走し始めている」


「え? 暴走?」


 もしかしてあの色々浮いてた不思議現象って、私のせい?


「ああ。物体が浮遊するってことは転移属性……つまりは風系統の魔力性質がお前には流れているということだ」


 風系統……ふむ悪くない。

 某忍者漫画の主人公も同じ特性だったし、実に強力そうだ。

 でも暴走って……『色欲』の問題といい、最近の私は暴走してばっかりだな。


「あの、でも……それなら私はどうすれば?」


「……そのことなんだがな。いずれこういう日が来るかもしれないと思ってとある人物にお前のことを頼んであるんだ。お前にはこれからその人物の元で魔力の扱いを学んでもらう」


 え? それって……


「それってルナちゃんをその人のところに預けるってこと? 嫌よ、私は。ルナちゃんと離れたくなんてないもの!」


「ティナ。分かってくれ。俺だって本当なら……くっ」


「……ダレン」


「……これは必要なことなんだ。このままだとルナは魔力を制御できないまま過ごすことになる。幸い今は、無意識下で発動しているようだが意識してしまった以上、これからどんどんルナは魔力の扱いを覚えていくだろう。そうなると最早手がつけられん。そうなる前に魔力の"制御"を覚えなくてはならないんだ」


 あれだけ使いたいと思っていた魔法だけど……まさかそのせいでこんな事態を招くことになるなんて……。


「あの……お父様、それは遠いところなんでしょうか」


「そいつがいるのは王都だからな。かなり遠い。馬車でも一週間はかかる距離だ」


「そんな……」


 それじゃあ気軽には帰ってこれないじゃないか。

 こっちにはお父様とティナ、それに孤児院の友達だっているのに。

 離れ離れになるなんて……嫌だ。


「うっ……うう……」


「ルナ……分かるな?」


 体が若いせいか、どうしても零れる涙を袖でごしごしと拭い、


「……うん。分かった」


 私は決意した。

 自らの運命と立ち向かう決意を。

 それからの動きは早かった。

 とにかく早いうちが良いと言うことで明日には王都に向け、出発することになった。それまでに出来ることはしておかないとね。とりあえず孤児院の皆にはお別れを告げた。


「そう……寂しくなるわね」


 マリン先生はそう言って私の体をぎゅっと抱きしめてくれた。

 他の子供達も皆泣きそうな顔で私との別れを惜しんでくれた。

 特に仲の良かったイーサン達は「お別れ会をしよう」と提案してきて、折角なのでうちの実家に招待することにした。


「ルナがお友達を連れてくるなんて初めてのことね。お父さん、今日は腕によりをかけてご馳走を作ってね」


「任せろ。俺の出せる最高の夕食を用意してみせる」


 二人は特に喜んで皆を迎えた。

 そして……


「白い子、これやるよ。道中は危ないっていうからな。護身用だ」


 イーサンからは以前彼がとても大切にしていた模擬剣を貰った。


「俺はこれだ。途中でお腹減ったら食べろよ」


 デヴィットからは飴玉。この世界での甘味は高価だから、思わず目を見張ってしまった。聞けば彼は溜めていたお小遣いをほとんど使って私のために用意してくれたという。


「なんだか凄いプレゼントの後、こんなのでごめんね?」


 ニコラは申し訳なさそうな顔をして、黒色の髪留め用のリボンを渡してくれた。

 最近髪が伸び始めていたから丁度良い。その場で髪を留めると嬉しそうに笑ってくれた。ちなみにへったくそだったので後でティナに結びなおしてもらった。

 だって仕方ないじゃん。女の子の髪なんて結んだことないし。


「……お姉様、私……」


 そして最後にアンナ。


「私……ずっと待ってるから! お姉様が帰ってくるまで、ずっと待ってるから!」


 そう言ったアンナは皆の前で私にキスをした。

 いつも私が衝動的にするのとは違う。アンナからのキスだ。

 親愛を込めた精一杯のプレゼント。

 今日貰ったものの中で一番嬉しいかも。

 それからお父様の作った料理を食べて、泣き出したティナに釣られてみんなでわんわん泣いた。泣いて、泣いて、泣き疲れて、泣いた。お父様までひっそり泣いていたのには驚いた。

 いきなり立ち上がってどこかへ行ったと思ったら目元を真っ赤にして帰ってきたのだ。泣いているところなんて見られたくなかったのだろう。流石お父様。こんな時でもクールで格好良い。


「皆……ありがとう」


 別れは悲しいけれど、永遠じゃない。


「私、すぐに戻ってくるから!」


 いつになるか分からないけど。

 また会えるその日まで。

 私は精一杯の笑顔を作り、友人達に別れを告げた。

 ちなみに……


「な、なあルナ。その……あの女の子とはどういう関係なんだ?」


 お別れ会の後、手伝いで食器を洗っていると滅茶苦茶気まずそうな顔でお父様にアンナとの関係を聞かれた。そりゃそうだ。

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