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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇
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第1話 廃人ゲーマーの末路

 カーテンの締め切られた室内をPC画面の明りだけが照らしている。

 画面の向こうでちょこまかと動き回るキャラクター達を眺めながら"私"は薄く笑みを浮かべていた。

 時間にして一時間近く。

 ようやくダンジョンのボスを倒したと思ったら、予想通りボイスチャットを通じて男達の勝ち誇る声が聞こえてきた。


「姫! 見てましたか! 今日のダンジョン攻略、ボスのLA(ラストアタック)は俺が貰いましたよ!」


「バカ、それはお前の弓が運良くラスト決まっただけだろうが。一番多くダメージ与えてたのは俺の魔法攻撃だよ」


「いや、お前らあのボスの猛攻を一番受けてたのはタンクの俺だぞ? 俺がいなけりゃ今回の攻略はなかったね」


 目の前で口々に今日の戦果報告をしてくる男共を見渡しながら、私はほくそ笑んでいた。


「まあまあ、今回のダンジョン攻略が成功したのは皆が力を合わせて戦ったおかげだからさっ、誰が凄いとかあんまり気にしないで今はとにかく喜ぼうよ♪」


「ひ、姫……」


「なんという箴言(しんげん)……美しい」


「やっぱり姫は俺ら全員のことを考えて……くうっ」


 私の言葉で涙を浮かべながら感激する男共。

 ははっ、ちょれえ。


「あっ、ご飯できたみたいだから私そろそろ落ちるねー。今日もお疲れっ♪」


「「「お疲れっしたー!」」」


 別にご飯なんぞ呼ばれてはいないが、そろそろ眠い。今の時刻は……ふむ。朝の7時か。道理で外が明るいと思った。よし、寝よう。


「ふふふ……今日も楽しかったなあ……」


 ベッドの中で思い返すのは今ハマっているネトゲのこと。

 今日も私を姫と呼んで敬う男共の醜態を楽しませてもらった。

 実に結構。

 何もしなくても経験値やアイテムが入ってくるって素晴らしいよね。

 ビバ! ヒモ生活!

 私はこのまま寄生した生活を続けていこう。

 本当に世の中馬鹿な男が多くて助かるよ。


 私、というか"俺"……ネカマなのに。


 ネカマ。

 男なのにネット上で女のように振舞う奴のことを指す。


 え? なんでそんな気持ち悪いことしてるかって?

 そんなの男共が女の子ってだけで貢物してくれるからに決まってるじゃないですか。

 男のキャラとか多すぎて希少価値ないからね。女の子ってだけで結構寄って来る奴も多いもんよ。ボイスチャットでも元々の地声が高く、女の声に聞こえなくもないっていうのもあって女の子の真似するだけで簡単に釣れる。

 それはもう大漁に。

 今やってるゲームでも大体100人くらいは下僕がいるかな?

 それくらい馬鹿な男が多いのがこの世の中よ。


「明日はギルドの会合あるし、楽しみだなー」


 俺が所属というかギルドマスターをやっているギルドがある。今やってるネトゲでも大手のギルドだ。団員数は全部で87人。そのほとんどが下僕だ。

 貢物の力でゲーム内最強の力を手に入れた今、ゲームが楽しくて仕方がない。

 毎日毎日、ゲーム三昧の日々だ。

 ちなみにリアルの方は……うん。色々と察しておくれ。

 ゲーム内の強さとリアルの屑さは比例するっていう典型的な例だとだけ言っておこう。


「リアルもゲームくらいちょろかったら楽しいんだけどなー」


 最後に高校に行ったのはいつだったか。

 確か一週間前のテストでちょろっと出席したのが最後だったかな?

 一応俺が引きこもりになったのには原因がある。

 うちは男子校なんだけど、入学してから段々クラスメイトの視線に妙な熱が入るようになってきたのだ。

 俺の見た目はかなり童顔で、身長が低い。

 一言で言うなら女っぽい。

 街を歩いていてもよく女に間違われるレベルで。


 つまりはまあ……そういうこと。

 以前、クラスメイトに告白されたこともある。勿論そいつも男。

 あの日は流石にご飯が喉を通らなくなったね。

 俺、そっちの趣味全然ないんだもん。

 そりゃあ不登校くらいにはなる。

 別に虐めって訳ではないんだけどね。そういう目で見られたら正直気持ち悪いわけで……


「ああーもう! ネガティブ禁止っ! 寝るっ!」


 布団を被り、瞳を瞑る。

 次に起きたら男っぽい顔つきになってたりしないかなー……しないよね。はあ。

 おやすみ、太陽。


 そしておはよう、お月様。

 最早完全に昼夜逆転してますな。

 俺、それでいいのか。

 楽しければそれでいいのだー!

 と言う訳でPC起動。

 ソフト起動。

 わくわく。わくわく。

 今日はどんな冒険が待ってるのかなー。


 ピーッ


 ん? 何、システムメッセージ?


『エラー。このアカウントは運営により削除されました』


 ……

 …………

 ………………

 ……………………ふぁっ!?

 ちょちょちょ、ちょまっ! ふぇ!? どどどどゆこと? アカウント削除? へ? 何で? ホワイッ!?


「お、落ち着け私。いや、俺……ひとまず落ち着け」


 何度も何度も画面の前の表示を確認するがそこにある文字は変わらない。


『エラー。このアカウントは運営により削除されました』


 とりあえずデータがどっかに残ってないか……残ってないねー。

 カチカチと何度もクリックしながら確かめるけど……どうやら完全に俺のアカウントは削除されてるっぽい。


「……オワタwwwwww」


 いや、笑ってる場合じゃねえだろ俺……ああ駄目だ。目の前がくらくらしてる。

 なんだか胸が痛いし……ああ、これが喪失感って奴か。

 意識もなんだか薄れてくるし……ぐっ、もう、だ……め……。

 バタンッ! ゴッ! と派手な音と共に俺は地面に倒れ、そのまま意識を失った。

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