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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第195話 部屋はその人の性格を現す

 ノアに連れて来られた場所は学園の外にある小さな一軒屋だった。普通の家とは少し違い、やや高めに作られているところを見るに、もしかしたら二階建てなのかもしれない。クレアの屋敷には及ばないけれど、それでもなかなかのお家だ。


「ここは?」


「ノアの研究室だ」


「研究室?」


「ノアの本業は魔巧技師だからナ。製作に使う製作室(ラボラトリー)が必要なんダ。まあ、立ち話もなんダ。中に入ってくれ」


 家主であるノアに連れられて、中に入ると……


「うわぁ……」


 隣のアンナが思わず声を漏らしていた。

 ちなみにこれは感嘆のうわぁ、ではない。呆れのうわぁ、だ。

 私も今、全く同じ感想を持っている。


「ちょっと……幾らなんでも散らかりすぎでしょ。整理くらいしたらどうなの?」


「どこに何があるかを覚えていれば問題ナイ。片付ける暇があれば、一つでも多くの魔導具を作るサ」


 ごちゃごちゃと紙束やら、良く分からない機械やらが散乱する部屋をずかずかと歩き回るノア。そして、適当な椅子を引っ張りだすと、私達に座るよう勧めた。


「ノアは魔巧技師を目指してるの?」


「ん? んー……その答えに対する答えはイエスでありノーでもアル」


「……どゆこと?」


「ノアちゃんはもう魔巧技師として活動してるれっきとしたプロなんだよ。だから"目指している"って表現はちょっとズレてるのかなって」


 ノアの代わりに答えたのは私の隣にぴったりと寄り添って座るアンナだ。

 興味深そうに周囲に視線を向けているところを見るに、このラボに来るのは彼女も初めてなのかもしれない。

 しかし……


「その歳でもう魔巧技師の資格を持ってるの? 凄いね」


「あんなものは知識さえあれば誰でも通る簡単な試験ダ。問題なのは他人が買ってくれる商品を生み出すこと。それが出来てようやく一人前の魔巧技師ダ」


 流石はプロフェッショナル。自分なりの職業観を持っているらしい。

 だけど……


「でも、それなら学園の魔巧科に入るべきだったんじゃないの?」


「学生レベルのおままごとに付き合っている暇はナイ。ノアが入学した理由は優秀な人材を見つけることダ」


 おおう……これはまた凄いな。

 つまり、ノアは魔導科のトップ成績を誇りながら同時に魔巧科の中でもダントツの実力を持っているということだ。まさしく天才というに相応しい。


「優秀な人材って……つまり研究職の人間ってこと?」


「そうとは限らナイ。ノアが欲しいと思った人材が優秀な人材ダ。ノアの目に間違いはナイ」


「へえ……」


「……人事のように言っているが、お前もその一人だからナ」


「うん、まあ……自分が優秀だなんて誇るつもりはないけど、必要としてくれるなら嬉しいよ。だけど……今はまだ他にやることがあるからさ。ノアの開発には付き合えないよ?」


「開発を手伝えとは言わナイ。元々求めている分野が違うからナ」


「求めている分野?」


「ノアが魔導科に入ったのはもう一つ理由がアル。それは魔法陣の製作に関する術式知識を蓄えたかったからダ。魔導具製作に魔法陣は欠かせないからナ。そして、その魔導具がどの程度一般に流通可能かを測る為のテスターも求めている」


「……えと、つまり?」


「ノアが作った魔導具が本当に使えるかどうか試すのを手伝って欲しい」


 何だ、分かりやすく説明出来るじゃないか。最初からそういえば良いのに。


「実はノアはずっと挑戦している魔術があってナ。その完成のためには幾つかの課題をクリアする必要がアル。そして、その一つが……」


 ノアはテーブルの中央に置かれていた紙を手に取ると、私に向け差し出してきた。


「この術式起動に必要な魔力性質を持つ者の存在ダ。ノアには適性がなくてナ。ノアの代わりに発動してくれる者を探している」


「それで私達を呼んだの?」


「ああ。達、というよりはルナだナ。この術式を起動するには、瞬間魔力値がアベレージ200の基準値を常に超えている必要がアル。魔力総量と瞬間魔力値は比例関係にアル。だから、優秀とされる魔術師ならば起動できる可能性が高い」


 ……なるほど。分かった。私には詳しい説明をされてもさっぱり分からないということが分かった。


「それで具体的には何をすれば?」


「まずは適性を測りたい。ルナの得意な性質はなんダ?」


「闇、それに次いで風系統だね」


「お? 本当カ。それは悪くナイ。魔力総量にもよるが、可能性はアル」


 魔力総量による、か……なら多分……やっちゃいそうだな。これ。


「……えと、先に聞いときたいんだけどもしも私に適性があったらどうするの?」


「ん? 基本的には何もしナイぞ。ただ、週に一度程度このラボに来て稼動実験を手伝ってくれるだけで良い」


 週に一度か……なら出来なくもない範囲だな。

 だけど、今はアリスのこともあるし、あんまり時間を取られるわけには……


「その時には勿論、報酬も出そう。そうだナ……一日二十万くらいでどう……」


「──テストしよう! そうしよう! 今すぐに!」


「…………」


 はっ!? し、しまった! 冒険者時代に磨き上げた貧乏根性が勝手に反応しちまった! だ、だが二十万ってのは破格な報酬だ。もしも、アリスを助けるのにお金が必要だったなら……う、うん。何事も備えあれば憂いなしってね。


「……まあ、やる気になってくれたなら良いカ」


 ああっ、ノアの私を見る目がちょっと白くなってるぅ!

 金にがめつい奴だと思われてるよ! 絶対!


「流石はお姉さまですっ。でも、お姉さまの時間を使うにはちょっと金額が少なすぎるような……」


 そして、アンナはアンナで良く分からない尊敬の仕方をしているし。


「時間は有限ダ。早速テストしよう。まずはこの魔法陣に魔力を流して見てくれ」


「? この上に乗ってる玩具は?」


「成功したかどうかを測る為のギミックだ。気にせずやってクレ」


「分かった」


 ノアに言われるまま、私は魔法陣に手を載せる。

 魔法陣と言えば、よくない思い出があるせいであんまり良いイメージを持ってないんだけど……魔法陣の刻まれた魔導具は人々の生活を豊かにしてくれている。私の協力で誰かが助かるのなら、躊躇う必要なんてない。


「……ふっ!」


 短い呼吸と共に、体内の魔力を活性化させる。普段、影法師を使っている要領で私は右腕に魔力を流した。そして……


「お?」


「えっ!?」


「あっ……!」


 三者三様の声を上げる。

 それもそうだろう。

 私が魔力を通した瞬間、魔法陣の上にあった木彫りの馬を模した玩具が……跡形もなく消え去っていたのだから。一体どんな魔術的な仕掛けをしていたのやら。ちょっと初見ではその仕掛けが分からないな。

 そうやって目の前で起こった現象を解析する私に……


「──素晴らしい(ウァンダーヴァール)!」


 音もなく、光もなく消えた玩具に、ノアは嬉しそうな声を上げ、私に飛びついてきた。突然のことに驚きながらも私は何とかその小さな体をキャッチする。


「っと、ととっ!」


「凄い! 凄いぞルナ! お前の魔力量は想定以上だ! これなら出来る! ノアの夢が……ようやく叶うっ!」


 今までの理知的な態度から一転、歳相応にはしゃぐノアはどこにでもいる子供のように私に喜びの表現をぶつけてきた。というか、態度が変わりすぎだろ……もしかして、私にはあまり期待してなかったとか? まあ、本命の代わりだったわけだし、それも仕方ないけどさ。


「良くやってくれたっ、ルナっ!」


 ぎゅっ、と私の腰に抱き付いてくるノア。

 その子供っぽい行動と、可愛らしい笑顔に思わずこちらまで笑みが浮かんでくる。


 うん……やっぱり、こうじゃないとね。

 可愛い女の子には笑顔が良く似合う。


 はしゃぐノアを可愛いな、なんて思いながらそんな当たり前のことを再認識する私だった。

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