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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第194話 平民トリオ

 なんだか分からない内に、ほとんど拉致みたいな形で連れて来られた私。

 学園の敷地内を歩きながら、せめて誘拐先だけは聞いておこうと隣を歩くノアに会話の糸口がてら尋ねてみる事にした。


「あの、これどこに向かってるんですか?」


「それは着いてからのお楽しみダ。それより、ノアに対して敬語は要らない。敬語は会話の文字数を増やす。それは無駄なことダ。そんなことに時間を使うくらいならもっと有意義な話をしよう」


 お、おお……こんな理由で敬語を断られたのは初めてだぞ。

 ノア・グレイ。なかなかエキセントリックな子だな。


 それと近づいて分かったのだが……この子、すっごくちっこいぞ。私も身長がそれほど高い方ではないのだが、この子はそれ以上だ。いや、それ以下って言うべきか? 目測でも130センチに届いてないように見える。

 この世界の人たちは基本的に背が高い。だからこそ、小柄なノアはちょっと周囲より一回り小さく見える。大人用のコートが大きく見えるのも、それが一因なのかもしれない。


「……そのコート、大切なものなの?」


「ん?」


「いや、すごく大事そうにしてたから」


 教室でのやりとりを見ていた私はそう尋ねるのだが、


「……これはノアがこの世で一番嫌いな人間からもらったものダ」


「あれ? そうなの?」


 なら、なんでそんなものを常に着ているのやら。


「……ああ。これは戒めなんダ。自分自身へのな。初心を忘れないように」


 そう言ってノアはコートの裾を軽く払い、手に取った。大切なものでないとしても、それなりに思い入れのある品物なのは確かだな。


「ノアちゃんはクラスでもその格好なんですよ。折角可愛いんだから、もっとお洒落すれば良いのに」


「そんなものは時間と金の無駄ダ。その役目はアンナに譲る」


「えー、全然無駄じゃないよ。お姉さまもそう思いますよね?」


「えっ、わ、私?」


 正直なところ、お洒落には私も興味なんてないのだが……あ、アンナの期待に満ちた眼差しが痛い!


「そ、そうね……最低限の身だしなみには気を使うべきじゃないかしら?」


 女の子としての答えを模索し、男の私が出した回答はそんな玉虫色の答えだった。


「ほらね、やっぱりもっと可愛い服を着るべきだよ」


「……だが、そう言うルナもお洒落に気を使っているとは思えないぞ」


「え?」


「制服と傘は主人から借りたものだろう。それ以外の部分……特にその綺麗な髪は特に何かしらのセットを行っているようには見えない。つまり、素のルナはそれほど身なりに頓着するタイプではないということダ」


 う、うわー、良く見てるなあ。流石は成績トップ通過の魔術師。観察力が鋭い。


「……というカ、さっきからルナはなぜ雨も降っていないのに傘を差している? 新しいファッションスタイルか?」


「お姉さまは太陽の光が苦手なの! 肌が弱いから!」


 私の体質的なところを突っ込まれたからか、ややアンナが怒り気味に説明していた。確かに、ノアの言い方はちょっと失礼だったからね。私は別に気にしてないけど。


「肌が弱い? 太陽から身を隠さねばならないほどに?」


 興味深そうに私の肌に視線を向けるノア。


「……確かにこれだけ真っ白だと、肌へのダメージは大きそうだナ」


「そうよ。お姉さまはその美貌に嫉妬した天上の女神から、太陽の呪いを受けたの。だから、ノアちゃんも少しは気を使ってあげてね」


 おいちょっと待てなんだその設定は。

 確かにこの天使のような外見に嫉妬する奴はいそうだけど、幾らなんでも話のスケールが大きすぎる。いい加減、アンナの中で私がどんな立ち位置なのかはっきりさせた方が良いのかもしれない。


「分かってる。ノアも他人のデリケートな部分には気を払うサ。だが……それにしても興味深い体質だナ。この王国ではなかなか見ないはずダ。ルナは北方の出身なのか?」


「いや、私はアンナと同じアインズの出身だよ」


 ……まずいな。私の肌が弱いのは吸血鬼としての特性だからだ。だから、あんまりこの部分に興味をもたれるのはよろしくない。早々に話題を変えた方が良いだろう。


「だからアンナとは幼馴染なんだ」


「……幼馴染?」


「うん」


「ならなぜアンナはルナをお姉さまと呼ぶのダ? 幼馴染の関係では不適切な呼び名だろう?」


「…………」


 話題逸らし……失敗!

 逸らした先の話題も地雷だった!


「……そういえば聞いた事がアル。同姓のカップル、特に女性同士の間では恋慕する相手を『お姉様』と呼んで慕うことがアルと」


「ナイ! そんなことナイから!」


 慌てすぎて、妙なイントネーションになってしまったがここだけは否定せねば。私はまだ男に戻っていない。百合カップルだなんて思われたら、周囲の目がどうなるか分かったもんじゃない。それにアンナだって百合疑惑を向けられれば困るだろうし……


「そ、そんな、れ、れれ、恋慕なんて……アンナはお姉さまのこと……ことを……ああ、だめっ、アンナの口からはとても言えないよぉっ」


 あれぇ? 全然困ってなさそうだぞぉ? むしろ嬉しそうだ。


「……お忍びカップル?」


「違う!」


「お、お姉さま……そこまで力強く否定するのですね……」


 よよよ、と見るからに気落ちしているアンナ。

 そして、その様子を見て更に疑惑を深めるノア。

 私は一体、どっちの相手をすれば良いんだよっ!


「まあ、なんダ……ノアはそういうのに寛容ダ。誰にも言わないと誓おう」


「だから違うって言ってるでしょぉぉぉぉっ!」


 そうして一連の流れを勘違いしたまま、まとめようとするノアに私は魂の絶叫をぶつけるのだった。

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