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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第192話 嵐は突然やってくる

 教室に戻り、改めて黒板の文字を見る。


『──亜人は森へ帰れ!』


 これは明らかにアリスに向けて放たれた言葉だ。

 昨日の決闘の結末がすでに一部の生徒に知られているせいだろう。これだけ明確かつ、強烈な敵意を当てられ、しかもそれをクラス中に公開されれば今後のアリスの立場はますます怪しくなる。

 それこそ、本気で退学を考えなければならないレベルで。


 私としてはそれでも良いのだが、アリスが何か目的を持って学園に留まっているのなら出来るだけそれを助けてやりたい。

 でも、ひとまず今は……


「……まったく、作法のなっていない人間もいたものですわね」


 とにかくこの文字を消してしまおうと黒板に近づいたとき、私の横を通り過ぎて前に出たキーラお嬢様が止める暇もなくその文字を乱雑に消し去ってしまった。


「……貴方には立場があります。ここは控えた方がよろしいですわ」


 そして、私にだけ聞こえる小さな声でそう告げると席に戻って行った。

 立場……つまり、クレアの従者である私に勝手な行動を取るべきではないと忠告してくれたのだろう。親切な人だ。誰もが周囲を気にして、身動きが取れなかったときに彼女は動いてくれた。


(全員が彼女みたいな生徒だったら良かったんだけどな……)


 姿の見えない敵と戦うには、どうしたって協力者が必要だ。出来ればキーラお嬢様にも力になってもらいたいけど……流石にそれを望むのは気が引けるか。

 相手の勢力すらまだ見えないのだ。迂闊なことは出来ない。まずは情報を集めよう。自由に動ける今が絶好の機会なんだから。


 まずは……そうだね。私に友好的な人と仲良くなることから始めよう。幸い、何人かには心当たりがあるし、彼女達から情報が引き出せるかもしれない。正直、男連中と話すのは色んな意味で遠慮しておきたいところだけど……今はそんなことも言ってられない。


 クラスメイトと仲良くなることはグラハムさんの言っていた講和にも結びつくことだしね。この殺伐とし始めた教室を私が変えてやるぜ。

 争いが起きるのは派閥があるから。

 だったら、その派閥を一つにまとめてしまえば問題は解決だ。

 そう、つまり……このクラスの全員をルナ派にしてしまえば良いのだ。そうすれば貴族も平民も、純血も混血も関係ない。誰もが私を愛し、私が愛す理想の王国の完成だ。


(……まあ、流石にそれは無理だろうけど。クラス内に味方を増やしておくことはきっと後で役に立つはずだ)


 なんともまあ打算的な考えだとは思ったが人付き合いなんて基本的にそんなものだ。私はクレアほど純粋な物の考え方をしていない。いつだって、自分にとって得があるかないか、自分がやりたいかそうでないかを考えて生きている。


 加えて崇められるのが大好きという困った性癖も備えてしまっているものだからタチが悪い。誰からも愛される姫のような存在は私にとってまさしく望むところでもある。死んだらまた色欲の罪でも押し付けられそうだ。


 でもまあ……それが私なのだから仕方ない。 

 私は私らしく、いつものように好き勝手にやらせてもらおう。


 今後の方針を固めた私は、早速クラスメイトとの交流に勤しむことにした。幸い私には師匠から教わった知識があったから勉強で困っている生徒の助けにもなれる。

 もしも私がメイドということで不快感を示すような人間がいたなら、それはそれで良い。純血派の人間を絞り込める良い判断材料になるからね。とはいえ、基本的に貴族はプライドの高い人間が多い。素直に私と仲良くしてくれようとする人は半分程度しかいなかった。


 でも今の私に出来ることはそれぐらいしかない。

 アリスの動向に注意しつつ交流を続け、数日が過ぎ……その日は訪れた。

 授業が終わった放課後、何人かの生徒がすでに帰宅を始めたその時間帯に……彼女は現れた。


「邪魔するぞー」


 面倒そうな口調でそう言いながら教室に入ってきた少女は、眠たげに開かれた瞳で周囲を見渡すと……


「……ああ。いたいた」


 真っ直ぐに"アリス"の元へと、歩いていき、


「お前、アリス・フィッシャーだろ」


「……だったら何?」


 アリスの伸びた耳を見て、にっと笑うと……彼女、


「お前に興味がアル。ちょっとノアに付き合え」


 ──ノア・グレイは新しい玩具を見つけた子供のような笑顔で、そう言い放つのだった。

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