表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/424

第181話 決意の時

 その事件は突然起きた。

 いや、もしかしたら少しずつ小さな原因が積み重なった結果そうなっただけだったのかもしれない。だけど、私には何も見えていなかった。見えていなかった私には止めることが出来なかった。

 そして……


 ──私がその亀裂に気付いた瞬間にはもう、事態は取り返しがつかないところまで進行してしまっていた。



---



「あれ?」


 その日、私とクレアが教室に向かっていると扉の前に人だかりが出来ていた。そのほとんどがクラスメイトだったから、どうして中に入らないのかと疑問に思った私は教室の中に視線を向け……


「……え?」


 その光景を目撃した。

 普段師匠が教鞭を取っているその場所で、アリスを中心に何人もの生徒が周囲を取り囲んでいたのだ。傍から見てもぴりぴりした雰囲気を放っており、それがただ事でないのはすぐに分かった。


「あ……クレア」


 私達の到着に気付いたカレンがこちらに駆け寄ってくる。

 私はすっ、と移動してカレンの後ろにいたセスに近寄り耳打ちする。


「一体、何があったの?」


「分からない。ただ前から雰囲気は悪かったからな。いつかこうなる日が来ると思ってた」


「…………」


 教室内のアリスを改めて見る。

 彼女は腕を組んだまま、無表情でその女子生徒達を見ていた。

 その後ろに従者らしき男達がいるところを見るに、全員位の高い貴族の令嬢なのだろう。もしやと思って見るが、キーラの姿はそこにはなかった。


 そのことにほっとしたのも束の間、アリスを取り囲んでいた生徒が胸の校章付きのバッジをアリスに向けて投げつけるのが見えた。私にはその意味が分からなかったが、それを見た生徒が一斉に息を呑むのが分かった。


「貴方とはもう話し合う余地なんてない。ここまでこじれたなら最早、これしか方法は残っていないと思うのだけど。違うかしら?」


「別に私は構わないわ。でも……本当に私に勝てると思ってるの」


「ええ。ここに貴方の居場所なんてないってことを証明してあげる」


 そう言って、教室を出ていく女子生徒にまるでモーゼのように人波が割れる。どうやらひとまず事態は収まったらしい。他の生徒が恐る恐る教室に入っていく中、私は真っ直ぐにアリスの元に向かっていた。


「アリスっ」


「……はあ、また来たの」


「そりゃ来るよ。一体何があったの? それにそのバッジの意味って……」


「貴方には関係ない」


 私の質問をぶった切り、教室を出て行くアリス。

 その様子は完全に私を拒絶していた。今までよりも更に強い拒絶の姿勢に、私は彼女を追いかけることが出来なかった。どうしてそこまで私を遠ざけるのか、それが分からなかったからだ。

 もしもアリスが貴族の生徒に目をつけられているのなら私は彼女を守るために行動する。たとえそれでクレアの傍にいられなくなったとしても、私はアリスの味方をするだろう。それだけの恩が彼女にはある。


 だけど……それもアリスが助けを求めればの話だ。

 ここまで拒絶の姿勢を見せられれば手を差し出したところで無意味だ。


「…………」


「ルナ、そろそろ先生が来るわよ……ルナ?」


 クレアが私の手を取り、軽く引っ張る。


「……そうですね。席に着きましょう、お嬢様」


 結局、私はアリスを追うことはしなかった。

 追ったところで今までの二の舞になることは分かりきっていたからね。

 だけど……私は諦めたつもりはないぞ、アリス。


(アリスが私に何も語ってくれないならそれでも良い。私の手を取ってくれないならそれでも良い)


 アリスが私に助けを求めていないのなら、強引にでも助けてやる。

 アリスが私の手を取らないのなら、私がアリスの手を取って強引に引っ張りあげてやる。アリスが教室で弱い立場にあることは疑いようがない。だったら私は……どこまでもアリスの味方になってやる。


 表面的には冷静を装いながら、私は内心で覚悟を決めていた。

 ぐつぐつと煮えるようなこの感覚の正体は分かっている。


 これは『怒り』だ。

 それも貴族の生徒に対してのではない。アリスに対しての怒りだ。


(私が間違っていたって絶対言わせてやるからな、アリス。覚悟しとけよ)


 もしかしたらメイドになんかなったせいで本当の私を見失っていたのかもしれない。ぬるま湯のような生活に本来の自分を忘れていたのかもしれない。

 だけど……思い出したぞ。


 そうだ。私はそういう奴だった。

 リンの時だって、シアの時だって私はいつだってそうだった。私はいつだって私がしたいことをしてきた。私が助けたいから助けてきたのだ。だったらアリスの救助要請なんて待っている必要はない。

 私は私の勝手でアリスを助けてやればいい。

 それが例えリスクしかない、馬鹿な行為だとしても。


 瞳を閉じ、今までの出来事全てを整理する。

 そして……私は私の中の最優先事項にアリスを置くことにした。


 リンを助けるため、土蜘蛛に立ち向かったように。

 私はアリスを助けるために、見えもしない強大な敵に立ち向かうことを決意するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ