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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇

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第17話 月下の誓い

「というわけでアンタ達、何か良い案はない?」


「というわけってどういうわけだよ」


 とある日の昼下がり。

 孤児院の勉強中に私はイーサン、デヴィット、ニコラの三人を連れ出して作戦会議としゃれこんでいた。


「だからアンナを私から引き剥がすにはどうしたらいいのかってこと」


「白い子はアンナに引っ付かれて嫌なわけ?」


「嫌なわけないじゃない!」


「どっちなんだよ……」


 最近、ぐんぐん背が伸び始めたイーサンがため息混じりに呟く。

 確かに変な事を言っている自覚はある。

 けど、アンナの為を思うなら私一人じゃなくてこの孤児院でもちゃんとした友達を作るべきなのだ。

 私は孤児院の子じゃないから、いつも一緒にいられるわけじゃない。


「というかアンタ達、ちゃんと私の言った通りアンナの世話してあげてるんでしょうね?」


「ああ、そりゃな。入院直後が一番精神的に不安定なのは誰でも一緒だ。別にお前の言葉がなくても気をつけていたさ」


「ならよし」


 イーサン達の話を聞けば、アンナも私がいないときはそれなりに社交的に過ごしているらしい。

 でも友人と言える人物を見つけるにはまだ程遠いと。


「それならアンタ達が友達になってあげればいいじゃない」


「いや、俺達も努力はしているんだ。でもやっぱり女の子ってのは良く分かんないし、ちょっと話しかけにくいんだよ」


「今更何言ってんの? いつも私と話してるじゃない」


「いや白い子は女の子カテゴリーに入ってないから」


「あぁん?」


 ちょっとムカついたのでイーサンの頭をアイアンクロー。

 どうだ、吸血鬼の握力はなかなかのものだろう?


「る、ルナは僕らとも長い付き合いだからだよ。それに女の子扱いしていないのはイーサンだけで……僕は、その……」


「痛い、痛いって! そういうところが女の子らしくねーつってんだよ!」


「……ねえ、お腹空いたから帰っていい?」


 くそっ、なんてまとまりのない連中なんだ。

 これはもう私が手綱を握ってやるしかない。


「良い? 可愛い女の子に奉仕するのは男の義務なの。だからアンナのこと本気で考えて」


「俺らの立場は……」


「イーサンあなた、騎士を目指しているんでしょう? 騎士っていうのはか弱い市民を守ることが仕事。今からそんなこと言ってたら到底騎士なんて務まらないわよ」


「……っ!? た、確かに……分かった! 俺頑張るよ! 何をしたら良い?」


 はい一名確保ー。

 やっぱりイーサンはアホだな。

 すぐにころっと騙されてくれるからやりやすい。

 次は……


「ねえデヴ、今度実家のクッキーこっそり持ってきてあg……」


「よし来た、任せろ!」


 はい二人目確保ー。

 やっぱり男はアホだな。

 そして最後が……


「ねえニコラ?」


「な、何かなルナ……」


 ニコラの瞳を上目遣いに見つめ、告げる。


「ねえ、手伝って。お願い……ダメ?」


「ダ、ダダダ、ダメなわけあるかっ! 僕はいつだってルナの味方だ! 何でもするよ!」


 はい三人目も確保ー。

 どいつもこいつもちょろくて助かる。

 特にニコラにいたっては私の命令ならば銀行強盗でもやらかしそうな勢いだ。

 うーん。こいつら本当に大丈夫か?

 ちょっと心配になってきた。将来悪い女に捕まらなければいいけど。

 さて……兵は集った。

 これより作戦会議、開始だ!


「それで白い子には何か秘策でもあるのかよ」


「ないわ」


「はあ……だと思った。というわけで出番だぞ。我らが参謀」


 そういってイーサンがぽんと背中を叩いたのはニコラ。

 うん。的確な人選だ。


「一体いつから僕が参謀になったんだか……まあいい。とりあえず目標はアンナにこの孤児院の子ともっと仲良くなってもらうってことでいいんだよね?」


「ええ。そうよ」


「なら……やることは単純だ」


 そう言ったニコラは私達に「とある提案」をしてきた。


「ちょっとお金もかかるし、二番煎じの感は否めないけど……ルナが誘えばまず間違いなく釣れるはず」


「良い作戦だとは思うけど……ちょっとありきたりすぎない? それに効果があるのかも怪しいし……」


「人付き合いに遠回りはあっても近道は無い。まずは外堀を埋めることから始めよう。大丈夫、時間をかければ分かり合えない人間なんてこの世にはいないんだから」


 おおう。なんか深いこと言い始めたぞ。

 こいつ本当に9歳か? その歳で悟りすぎでしょう。

 いや、私が言えた話じゃないけどさ。


「よし、決まりだな! 早速準備しよう!」


 立ち上がったイーサンが音頭を取り、私達は準備を始めた。

 時間にして大体二時間くらいだろうか。

 子供四人での支度はかなり手間取ってしまったけど、日が暮れるまでには何とか準備することが出来た。

 よし……後はアンナを呼んでくるだけだ。

 孤児院の中を歩き回ってアンナの姿を探すと、丁度廊下の向こうから歩いてくるアンナを見つけた。


「あっ、アンナ!」


 手を振ってアピールすると、


「お姉様っ!」


 ぱぁぁっ、と向日葵のような笑顔を咲かせてアンナが走り寄ってきた。


「お姉様どこ行ってたの? アンナ、ずっと探してたのに」


「あはは、ごめんごめん。ちょっと準備に時間かかっちゃって」


「準備?」


「うん。とりあえずこっちにおいで。見せたいものがあるんだ」


 不思議がるアンナの手を取り、私達は作戦会議で使った空き部屋へと向かう。

 扉に手をかけ、開けた瞬間……


「「「ようこそっ、我らのアジトへっ!」」」


 パンパンパンッと大量のクラッカー……は準備できなかったので拍手でアンナを出迎える三人の姿が。


「えっ、えっ?」


 アンナはきょろきょろと周囲を見渡して、最終的に私へ縋るような視線を向けてきた。

 あはは……ちょっといきなりすぎてびっくりしてしまったみたいだ。

 仕方ない。ここは私がリードすることにしよう。


「おほん。アンナ君、この度君は選ばれたのだ。我々一同、君の入隊を歓迎するよ」


「え、にゅ、入隊? あのお姉様何を……」


「まあまあ、細かいことは置いておいてとりあえずこちらへ」


 今日の主役の手を取って、部屋の中央の円卓へと足を向けさせる。

 即興で作った円卓は少しだけ不恰好だったが、椅子はきちんと五脚用意されている。


「さて……アンナ。まずは"月夜同盟"について説明させてもらおう。月夜同盟とはお互いを認めた者だけが入ることを許される秘密結社だ。そして私はそこのボスを務めている」


「お、お姉様がボス!? ……か、かっこいい……っ」


「そうだろうそうだろう。ちなみにニコラが参謀、デヴィットが兵站、イーサンが実行部隊長をそれぞれ務めている。そして、そんな我らの目標はただ一つ、それは……夢を叶えること!」


 ぐっ、と拳を握る私に合わせ周囲の面々が拍手を始める。

 釣られてアンナも拍手している。よしよし、良い傾向だ。


「あの……それで何でアンナはここに呼ばれたんでしょう、お姉様」


「それは先ほども言った通り、アンナも選ばれたからだ。我々月夜同盟にアンナも入隊する権利を得たのだよ」


「わ、私が!? いいんですか!?」


「うむ。無論だとも」


 一際重厚に頷く私。

 というか何キャラだよ、私。


「でもアンナは……夢とかないよ?」


「それはおいおい見つければいい。まずはお互いを知り、認めること。これこそが我が月夜同盟の入隊資格であり、最低条件なのだからな」


 話が佳境に入ったのを感じた私はくいっ、と顎を使ってイーサンに指示を送る。


「俺の目標は騎士になること。騎士になっていっぱいいっぱい悪い奴をやっつけてやるんだ! そんでこの孤児院の皆が笑って暮らせるよう、この町を守る! それが俺の"夢"だ」


「俺は料理人になりたい。自分の作った料理で誰かに美味しかったって思って欲しい。今はまだ遠い目標だけど、絶対なるんだ。料理人に」


「僕は先生になるのが"夢"かな? いつかは王都の学園に通って色んな知識を身につけたい。そしてそれを僕達がマリン先生から教わったように、僕も誰かに教えていきたいんだ」

 

 イーサン、デヴィット、ニコラがそれぞれの夢を語る。

 この月夜同盟は勿論、さっき作ったばかりの張りぼての同盟だ。

 アンナと仲良くなるためだけに私達が作った設定に過ぎない。

 お互いに夢を語り合えば仲良くなれる。

 ニコラはそう言っていた。


 要は歓迎会をしようということ。

 私は孤児院の歓迎会には入れなかったからこれが始めてなんだけど、アンナにとっては二度目の歓迎会になる。

 ありきたりといえばありきたりな作戦だけど、色んな設定を追加したことで団結感みたいなのは演出できている気がする。


「どうかなアンナ、入隊してみない?」


 最後に私が聞いてみると、アンナは嬉しそうな顔で頷いた。


「するっ! お姉様の同盟に入りたいっ!」


「よし、良い返事だ! アンナならそう言ってくれると思ったよ。デヴ!」


「あいよー!」


 私の声にお菓子を山盛りにしたお盆を持ってくるデヴィット。

 私が家からこっそり持ってきた分に、それぞれがお金を出して買った分を合わせたものだ。それなりの量になる。


「わぁぁっ」


 顔を輝かせるアンナ。

 可愛い。


「今日はアンナの入隊祝いだ! 盛大に行くぞ!」


 パンッ、と手を打つとわっと歓声が上がり宴が始まった。

 子供が準備したものだからそれほど大掛かりなことは出来なかったけどそれぞれが楽しい時間を過ごせたと思う。

 イーサンが模擬剣を使った素振りを披露し、デヴィットは早食いで皆から怒られ、ニコラがためになる薀蓄を紹介した。

 ちなみに私も手持ちのマジックを幾つか披露して喝采を浴びた。

 うむ。実に気分が良い。


「ねえ、お姉様」


「なに?」


「月夜同盟に入っているってことはお姉様にも夢があるんだよね? それって何?」


「そーいえば白い子は結局言わなかったよな。俺達は喋ったんだし、教えてくれよ」


「……僕もちょっと興味あるかな」


 あれ……いつの間にか面倒な話の流れになってない?

 私の夢は勿論男に戻ることなんだけど、そんなこと言えないしなあ。どうしよ。


「わ、私の夢は……うん。恋愛してみたい、とかかな?」


 男に戻る=女の人と付き合える。ということでそれなりに近いことを言ってみたのだが……なんだかニコラとアンナの目がきらんと怪しく光ったような気がする。

 というかアンナまで、そこで反応するってどゆこと?

 ま、まさかそういう目で私を見てるってことはない、よね?


「うん、それなら……アンナも夢、見つけたよ!」


「おお、いいじゃんいいじゃん! 言ってみよーぜ」


 おい煽るなイーサン!

 このタイミングって滅茶苦茶嫌な予感がするんだよ!


「アンナの夢は……将来お姉様と結婚することっ!」

 

 そう言って私の腕に抱きついてくるアンナ。

 ……ほらね? やっぱりこうなった。

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