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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第169話 意外と気の効く男、セス・モレル

 学園での授業の進行ペースは早い。一度師匠から基礎を教わっていた私でも、ついていくのに精一杯のレベルだ。新たに教わることも多いし、予習と復習はかかせそうにない。そういう事情もあって、新しい生活に馴染むことに必死になっていたのだが……


「あ、アリス。ちょっと今良い……」


「忙しいから」


 学園でアリスを見かけるたび、声をかけてみるのだがその全てが空振りに終わっていた。私も生活ペースを作るのに忙しいし、クレアと一緒にいる間はうかつに話しかけることも出来ないためそれほど機会には恵まれていないというのもあるのだが……どう見ても避けられているよね、これ。


「どうしたもんかなあ……」


「何がだ?」


「うおうっ!?」


 突然背後からかけられた声に思わず変な声が出た。


「おおう……ずいぶん男らしい声だな。驚かせたならすまん」


 そう言ってその人物……セス・モレルは申し訳なさそうに軽く手を合わせた。

 入学式の日から数日。クレアとカレンがよく一緒にいる関係で私たちも自然と友人のような関係に落ち着いていた。今では二人っきりの時はタメ口で話せるくらいには仲良くなったと思う。というのも……


「さっきのはアリス嬢か? またずいぶん熱心に話しかけているみたいだが何かあるのか?」


「えと、それは……ごめん。まだ秘密で」


「分かった。もう聞かん」


 あっさりとした口調で引き下がるセス。こういう踏み込みすぎない性格の相手は私としても付き合いやすい。心の距離感とも言うべき相性が私とセスは良いのだと思う。


「俺に何か手伝えることがあったら言ってくれ。力になる」


「ほんと? 助かるよ」


「貸し一でな」


「ははっ」


 どうやら最初の対応は作られた外向けの性格だったらしく、親しくなるとセスは遠慮しない本来の性格を見せ始めた。気の置けない男友達みたいで、案外この距離感を気に入ってたりする。


「そういえばセスは一人? カレンお嬢様は?」


「トイレ。流石に俺が着いて行くわけにもいかないからな」


「ああ、そういう時って異性だと困るよね」


「? まるで自分も体験しているみたいに言うんだな」


「え!? あっ、ああー。まあ、時々そんな風に思うこともあるからね」


 しまった。またやっちまった。最近、私の周りに人が増えたこともあってこういう凡ミスが増えてる気がする。もっと気をつけなければ。まあ、違和感をもたれたところでどうなるわけでもないんだけどさ。一応、念のため。


「そういうルナはどうしてここに?」


「うちのお嬢様が少し一人になりたいからって、暇を出された」


「相変わらず振り回されてるんだな」


「そっちも似たようなもんでしょ」


「確かに」


 主人がいる場所では絶対に言えない会話だな。

 本来なら主人をけなす教育不足のメイドとして、主人の顔に泥を塗る行為になるがセスなら別に良いだろう。他のお嬢様のメイドにはとても言えないけど。

 ここ数日の付き合いで分かったのだが、どうにもセスからは私と同じ匂いがするのだ。


(自分から進んで仕えているとは思うんだけど、他のメイドほど忠誠心の高さを感じないんだよね。他の従者は全員ロボットかよってくらい同じことしか言わないし)


 ご主人様の命令は絶対。お家の名前を守ることが最優先。

 そういう雰囲気を他の従者からは感じる。それが本来の職務なのだろうけどね。私は従者としての年季が足りないらしい。別に欲しくもないけど。


「色々、考えることは多いよね……ここだと特に気を使うことが多いし」


「他のお嬢様への対応とかか? お嬢ならもう少しフレンドリーに接してやっても大丈夫だと思うけどな。あれで結構友情に飢えてるとこあるし」


「カレンお嬢様が? でもクレアお嬢様もいるし、セスだってすごく頼りにされてるじゃん」


「クレアお嬢様はお忙しいだろ? それに俺だって仲良くなるには限界がある」


 あ、クレアの淡白な態度をボカしてくれた。こういうとこはちゃんとしているんだよね、セスは。


「それってやっぱり男だから?」


「だな。それに俺はお嬢のことを尊敬しているし、友達にはなれない。立場が違うんだ」


「それを言うなら私だって一緒だよ。むしろクレアお嬢様を挟んでいる分、距離は遠いよ」


「そのほうがいいこともある。まあ、無理にとは言わないけどな。出来ればうちのお嬢と仲良くなってもらえると嬉しい」


 んー……またこういう頼みか。最近、こんな依頼が多すぎないだろうか? 友達が増える分にはまったく構わないのだけど、色々平行作業するにも限界がある。


「お嬢は昔から友達が少なかったからな。クレアお嬢様がその数少ない友人なのさ。そのせいでちょっと行き過ぎたくらいにべたべたしてるけど」


「あれ、そうなの? カレンお嬢様は社交的な性格だしいっぱい友達がいるのかと思ってた」


 あのちょっとズレたところを見逃すことが出来れば、カレンはとても良い友人だと思う。本人もクレアとは違い友好的なので友人には事欠かないと思っていたのだが……


「うちはそっちと同じ新興貴族だからな。色々とパイプがねえのさ。周囲からは金で爵位を買った成金とか呼ばれてるし……まあ、そんな奴らは全員黙らせればいいだけだけどな」


「ぶ、物騒だな……」


 新興貴族、というと古くから続く世襲制の貴族ではないということだろうか? 私は貴族の世界に疎い。ずっと奴隷か平民だったからね。周囲に貴族の人なんていなかったし。


「まあでも、そっちも似たような事情なんだろ? 教室でも居心地が悪そうだ」


「え?」


「ん? 違うのか? 俺が見た限りそんな風に感じたんだが……」


「えと……いや、どうなんだろ。私はあんまりそういうのに詳しくないから」


「お家の事情だろ? 知らないってそれは従者としてどうなんだ?」


 私はクレアに仕えたばかりの新人だから、なんて言葉はここでは通用しない。そういうことは仕える前に調べておくべきことだからだ。確かに私はクレアを知る努力を怠っていたのかもしれない。


 しかし……教室では居心地が悪そう?

 私はそんな風に感じたことが一度もない。だけど、私より貴族の内情に詳しいセスからするとそのように見えたという。これは……色々調べてみる必要があるかもしれない。


 なぜか私を避けるアリスのこと。

 教室でも孤高を貫こうとするクレアのこと。


 そこに何か意味があるのなら……私はそれを知らなければならない。


 彼女の家族として。

 彼女の従者として。


 どうやら私の学園生活は開始早々、忙しくなりそうだ。

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