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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇
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第16話 アンナちゃんマジ天使

 とりあえず新スキルの能力は把握できたわけだけど、色々問題は残っている。


「お姉様ーっ!」


 いつものように孤児院を訪れた私にどこからともなく声がかけられる。

 にこにことこちらに手を振るこの可愛らしい女の子は先日から私のことをお姉さまと呼び始めた妹分のアンナだ。

 いや……何があったと言いたいのは分かる。

 私も何があったのか良く分からん。

 とりあえず他の子供達と仲良くなれないアンナに男共のあしらい方を教えたらこうなった。

 どうやらアンナの中ので私>>>その他で越えられない壁が出来上がってるらしい。

 ……本当にどうしてこうなった?


「今日も来てくれたんだね、嬉しいっ」


 私の腕に絡みつきながら頬ずりしてくるアンナ。この数日で孤児院でも見慣れた光景だ。

 最近アンナが私にべったりのせいで、イーサンやデヴィット、ニコラとはあまり遊べてない。彼らは遠巻きにこっちを見ているだけだ。

 正直、アンナとおままごとしてるより男共とちゃんばらしてるほうが楽しいんだけど……まあ、そんなこと言い出すとアンナが泣き出すから言いはしないけどさ。

 はあ……あ、それと魔術についての勉強も途中だった。

 最近の私、忙しいな。


「ねえ、お姉様。今日はちゅーしないの?」


 アンナと共に砂場でおままごとをしていると、唐突にそんなことを聞かれた。


「……あのね、アンナ。キスってのはそんなほいほいするようなものじゃないのよ? 特に女の子のキスはとても大切なものなんだから大事にしないと」


 それを強引に奪った私が言うのもあれだけどね?


「むぅ……残念です」


 しゅんと俯くアンナちゃん……可愛いっ!

 あ……あかん。来た。


「うっ……く、ん……っ……」


 胸の奥から狂おしいほどの情熱が溢れ出る。

 自分で自分が制御できなくなる。

 はあ……はあ……

 今すぐにアンナを押し倒してキスして、○○(ピー)して、○○○(ピー)したい。


「あ、アンナ……こっち……」


「っ! いつものだね! お姉様!」


 私の様子がおかしいのを悟ったアンナはにこにこと満面の笑顔で私を人目につかないところまで連れて行き、


「どうぞ、お姉様……」


 瞳を閉じ、くいっ、と顎を傾け私がヤリやすい体勢を作る。

 ああっ! もう駄目だ!

 据え膳食わぬは男の恥! ルナ、行きます!

 今は女だけど!


「あっ、ん……んんっ……」


 アンナのどこか色っぽい声が漏れる。

 私は今、アンナにキスしてる。

 もう自分を止められなかった。

 定期的に、というかアンナといるとほとんど毎日『色欲』のスキルが暴走している。一度暴走すると、キスするまで落ち着かない。そしてキスをしたら『魅了』の効果が発動する。

 この悪循環のせいでアンナは未だ私に魅了された状態のままだ。

 ティナは3日で元に戻ったのに。

 ……元に戻るまでの3日間がいかに過酷だったかについては割愛させてもらおう。私もあれは早く記憶の底に沈めたいのだ。


 しかし今のアンナと私の関係はいくらなんでも不純に過ぎるよね。

 早いところ解決策を見つけないと。

 色欲の暴走を抑えるのでも、魅了の効果を抑えるのでもどっちでもいいから。

 出来れば前者がいいけどね。今のところアンナにしか発情していないから助かってるけど、誰彼構わずなってたら私、今頃とんだ痴女になってたところだよ。


「んー、どうしたものかな」


「お姉様ぁ……」


 人目につかない日陰ですりすりと猫みたいに近寄ってくるアンナの頭を撫でながら考えたが、いまいち良い解決策は思い浮かばなかった。




---




 孤児院の子供は通例として苗字を持たない。

 それは生まれたときから両親がおらず、自らの苗字を知りもしない子がほとんどだからだ。

 要は孤児同士で少しでも差異をなくそうということ。

 なのでアンナのように途中から孤児院にやってきた子も基本的には苗字を捨てなくてはならない。


 イーサン、デヴィット、ニコラも苗字は持っていないしね。

 でもアンナにしてみればずっと持っていた苗字を捨てるというのは辛いことだと思う。

 私だってレストンの名前は出来ることなら捨てたくないもん。

 お父様と、そして……まあティナとの繋がりだからね。

 苗字を捨てるということは家を捨てるということ。

 孤児院に入ったばかりのアンナはそういう環境の変化に戸惑い、気落ちしている様子だった。


「……アンナ、最近ちゃんとご飯食べれてる? 顔色あんまり良くないよ?」


「え……? う、うん。最近少し疲れてたからそのせいかな? ごめんね、お姉様にまで心配かけちゃって」


「私はいいんだけど……」


 いつもの日陰で私の腕を放そうとしないアンナ。

 私が日なたに出られないもんだから、こうしてアンナまで私に付き合って日陰にいるのだ。

 他の皆が太陽の下で賑やかに走り回っている中、ただ一人だけ。

 ……うん。やっぱりこういうのはあまりよくないよね。


「ねえアンナも皆と遊んできたら? 私はここで見ているから」


「嫌。アンナはお姉様と一緒がいいの」


「でもそれだといつまでたっても皆と仲良くなれないよ?」


「アンナはお姉様とさえ仲が良ければそれでいいの!」


 あかん。

 この子、どんどん私に魅了されてきてる。

 正直女の子に慕われるのはとても気分が良い。

 男共を従えるのとはまた別の快感。

 だけど、このままだとアンナはどんどん駄目な子になっていく気がする。

 依存とでも言えばいいのかな? そういう関係はあまり健やかではない。できることならこの魅了状態は早いうちに解消するべきだろう。


「お姉様ぁ……大好きです♪」


 でもなあ、アンナちゃん滅茶苦茶可愛いんだよなあ。

 にこにこと擦り寄ってくるその姿は小型犬を思わせる愛らしさ。

 もう少しくらいこのままでもいいかも?


 ……いやいや! 流されるな私!

 自分の欲求とアンナの将来、どっちが大切かなんて分かりきっていることじゃないか!

 男連中ならいざ知らず、こんな可愛い子を不幸にさせるなんて紳士の風上にもおけない愚行だぞ!

 自分を男の中の男だと誇りたいのなら、誠意を見せろ! 欲求を振り切れ!


「アンナ」


「お姉様?」


 ゆっくりとアンナの腕を取り、私から引き剥がす。

 私がはじめて見せた拒絶の態度に、アンナは驚いた表情を浮かべていた。

 まるで主人に裏切られた飼い犬のように……いや、さっきから例えが犬ばっかりだな私。でも、そう見えてしまったのは事実。少しだけ胸が痛む。

 でもこれはアンナの為だと自分に言い聞かし、私は精一杯優しい笑顔を浮かべてアンナに告げる。


「アンナ……やっぱりこういうのは良くないよ。私を慕ってくれるのは嬉しい。だけどアンナにはもっと広い世界を見て欲しい。だから……皆と遊んでおいで?」


「…………」


「アンナ?」


「…………」


「あ、アンナちゃん?」


 まるで石像にでもなったかのように微動だにしないアンナ。

 なにこれ怖い。

 なんかアンナの目から精彩が消えたような気が……


「お姉様」


 ポツリと漏れた声は奈落から這い出たような声音だった。

 思わず背筋を伸ばす私にアンナは、


「何でそんなこと言うの? アンナはこんなにお姉さまのことを大好きなのに。嫌い? もしかしてお姉さまはアンナのこと嫌いになったの? ううん、そんなはずないよね。あの優しいお姉様がアンナのことを見捨てるはずがないもん。だとしたらこれは夢? もしくは幻? それかお姉様に扮した偽者? だったらお姉様の妹分として本物のお姉様を見つけなくちゃね。たとえ"どんなことをしてででも"」


 ぎろり、とアンナの目が私を射抜く。

 ヤバイ。私の本能が全力で誤魔化せと警鐘を鳴らしているッ!


「や、やだなー、アンナったら。私がアンナのこと見捨てるわけないじゃない。これは、え、ええと……い、一緒! 一緒に遊びに行こうってことだよ!」


「でもお姉様は太陽が……」


「数分くらいなら大丈夫だって! 辛くなったらすぐ日陰で休むからさ。ほら、行こう?」


「う、うん……」


 アンナの手を取って強引に外へと連れ出す。

 暑い……溶けそうだ。

 でもアンナの為にも頑張らないと。

 というかこれ、何の解決にもなってないよね?

 早く何とかしないと……。

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