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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第164話 吸血少女はどうせなら部活動とかしてみたい!

「遅かったわね、ルナ」


「すいません。途中であまり関わり合いになりたくないタイプの人に助けられまして、対処に困っていました」


「なにそれ?」


 クレアの元に戻った私は時間も迫っていたので、教室に向かうことにした。

 正直、あまりお友達になりたいノリでもなかったので顔を合わせる確率を少しでも下げるために間を空けてから行きたかったのだが、「貴族が遅刻なんて出来るわけないでしょう」というクレアお嬢様の鶴の一声によって行軍が決定した。

 まあ、私も屋根の下に入れるならそれが一番だから異存もないんだけどね。ただ、クレアお嬢様の交友関係に決定的な打撃を与えてしまわないかが心配なだけで。


「えっと……部屋はここ、ですね」


「うわっ……」


 私の前にいたクレアが部屋の扉を開けた途端に心底嫌そうな声を上げたので、何事かと身を乗り出すと中はすでに大半の生徒が集まっているのか、座る場所を見つけるのすら大変そうな有様だった。


「まさか席数足りてないとかないですよね」


「さあね。他クラスの生徒もいるみたいだし、実際そうなのかもよ」


 クレアの視線の先には、恐らく平民と思われる生徒が席に座っていた。

 魔導科は入学する生徒が多く、クラスも『エトワール』と呼ばれる貴族や金持ちの商人などの子が通う貴族クラスと主に平民の子が配属される『アーティスト』のクラスがある。


 平民クラスは制服を買う金もない場合が多く、私服での通学が許可されているので服装を見ればその人物の身分が分かる。もっとも、制服を着ている平民もいるにはいると思うけどね。


「困りましたね。お嬢様に立ち見などさせるわけにはいきませんし……」


「その場合はルナに椅子になってもらうから大丈夫よ」


 いや、何も大丈夫ではないと思うんですけど。


「ルナは空気椅子と四つん這い、どっちが良い?」


「……いよいよとなったら空気椅子になりますよ」


 メイドとしての職務はあるが、最低限の尊厳は保ちたかった。


「冗談よ、冗談。いざとなったらその辺の平民から買い取ればいいだけだもの」


「その発想もなんというか凄いですね」


 貴族は見栄の為に金を使うと聞いたことがあるが、ここまでしますか。

 とはいえ、屋敷でのクレアは意外と倹約家だったりもする。自分の食事も専門の料理人でなく、メイドにローテーションで作らせているくらいだしね。ただ単に自分の反応をびくびくしながら待っているメイドを見るのが楽しいだけの可能性も捨てきれないが。


「あ、こっちに空きがありましたよ、お嬢様」


「あんまり良い位置じゃないわね。まあ、仕方ないか」


 何とか見つけた空席は壇上が遠い後ろの席だった。

 一応、周囲を伺ってアリスとついでに先ほど出会ったカレンの姿を探してみるが見つけることができなかった。それほどに人数が多い。貴族と平民、両方の生徒を収容しているのだからそれも当然か。


「ルナ、今日の行事の予定はどうなっていたかしら?」


「昼まで学内の説明と、行事の日程、履修方法の解説などが予定されていたはずです。午後からはギルドの説明会ですね。こっちは自由参加になっています」


「ふーん。それなら早めに帰れそうね」


「あれ、お嬢様はギルドの見学には行かれないんですか?」


「私の一番嫌いなものを教えてあげましょう。それはね、時間の無駄遣いよ」


 うわー、ずっぱし言うなあ、この人。

 ギルドってのは元の世界で言うところの部活動に当たる意味の言葉なのだが、元々何かしらの専門的な業界に参入することが確定しているこの学園の生徒達に社会に出た後のシミュレーションを行う場という意味もある。

 要は普通の企業に限りなく近い活動を行っているということだ。

 それだけ自分の為になることが多いのだが、やはりそこは学生レベルのお話。色々と至らないところはあるだろう。お嬢様は学生レベルのおままごとには付き合いたくないらしい。

 ちなみに私はかなり興味があったりする。


「お嬢様お嬢様、先ほど貰ったパンフレットには同好会(サークル)も多数あると書いてありますし、何か面白い活動が見れるかもしれませんよ?」


「私は学園生活に面白さなんて求めてないのよ。やりたいなら一人で……は、そういえば無理だったわね」


「……はい」


 付き人であるメイドは原則としてこの学園の生徒ではない。だから、こういう部活動に参加する権利を持たないのだ。主である生徒が入部でもしない限りは。


「お嬢様、この『決闘倶楽部』なんてどうですか? きっと楽しいですよ」


 そういう事情もあって私は熱心にお嬢様の勧誘を続けたのだが反応はイマイチ。これは色々と諦めたほうがいいかもしんない。


「『黒魔法同好会』『魔法陣を作り隊』『剣士の会』『冒険者ギルド(仮)』……うう、私のバラ色学園生活が……」


「何だろう。貴方の興味あるサークルに偏りを感じるのだけれど」


 だってこんなの日本の学校だとまず見られない部活だよ?

 スポーツ系もあるにはあるみたいだけど、魔術の使用は禁止とかしょっぱいルールがついてるはずだしどうせならファンタジーしてる部活のほうがいいよね。私、気になります。


「『魔巧技師の集い』『平民の平民による平民のためのサークル』『特殊防衛軍』『白薔薇の園』『最強を目指す男達』……」


「どんな活動をしているのか検討もつかないのが混じり始めたわね……」


「ですね……ん?」


 なんだかんだ興味が沸き始めたのか、ちらちらとこちらを盗み見始めたクレアお嬢様に相槌を打っていると、私は気になるサークルをひとつ見つけてしまった。


「……ははっ」


「え、いきなり笑い始めてどうしたのよ」


「いえ、ちょっと……ふふ、面白い偶然だなって思いまして」


「何よそれ?」


「すいません。こればっかりは説明しても分からないと思います。完全に自分のツボに入ったといいますか。なんだか可笑しくて」


 一人で思い出し笑いを始めた私にクレアお嬢様は退屈だったのか、足を軽くぶつけてきた。少しは感慨に浸らせてくれてもいいのに。


「ほら、そろそろ入学式が始まるわよ。それしまっておきなさい」


「分かりました。分かりましたから蹴るのはやめてください。誰かに見られたら品性を疑われますよ」


「むぅ……」


 ああ、しまった。ちょっとした仕返しのつもりがまた不機嫌にしてしまった。これは不機嫌レベル4の顔だ。式が始まってくれて助かった。

 拡声用の魔方陣を使って話し始めた教師の言葉に従い(つつが)なく進んでいく式。その間にお嬢様の機嫌が直ることを祈っておこう。

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