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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第159話 完璧な人間などいない

 ルカの性別が判明してから一週間。

 多少のぎこちなさを残しながらも私達はうまく付き合えるようになっていた。これからも一緒に暮らすことが出来ればその距離は更に近づいたことだろう。だけど、私にはその時間がなかった。


「クロエさん、玄関先の清掃終わりました」


「お疲れ様です。ルナさんは仕事が早くて助かります。では次に私と一緒にお客様がいらした際の対応を勉強しましょう」


「はい!」


 私は今、クレアお嬢様の屋敷でメイドとして働いている。全てはお給料を貰って家計を助けるためなのだけど、思ったよりこれがしんどい。

 別に仕事内容がきついというわけではないのだが……


「あの……クロエさん、一つ質問良いですか?」


「なんでしょう?」


「この服なんですけど……こんなにひらひらしてたら動きにくくないですか?」


 恥ずかしくないですか、とは言えなかったので業務に差し支えるのではないかと暗に伝えておく。というのも、このメイド服、私が想像していた以上に可愛らしい装飾がされているのだ。

 そもそもスカート自体が人生初体験の私にとっては、ここまで女の子女の子した服装が恥ずかしくて仕方ない。股間がすーすーしてとてもじゃないけどまともに歩けそうにないし。


「ああ、それはお嬢様の趣味です」


「えっ……!?」


 マジか……いや、薄々思っていたんだけどクレアお嬢様は非常に私に近い嗜好の持ち主な気がする。主に性癖的な意味で。


「先に言っておきますが、お嬢様は可愛らしい女の子しか愛せないという深い業を背負っておいでです。ルナさんはとても可愛らしい容姿をしていますのでとても良い玩具にされることでしょう」


「それはあんまり聞きたくない情報でしたね」


 愛を与えてくれるというのなら勿論、甘んじて受ける。私は誰かに愛されるのがとてもとても大好きな人種だからね。だけど、性的な意味での接触はまずい。私には色欲があるのだ。


「そういえばそのお嬢様ですけど今はどちらに?」


「今は訓練場にいらっしゃるはずです。ですがお嬢様のことよりルナさんはまず、必要最低限の仕事内容を覚えてください。時間はいくらあっても足りませんからね」


「す、すいません」


 真面目なクロエさんに思わず頭が下がる。

 このクロエさんはメイド長を務めていることもあって、非常に責任感が強い。加えて今日一日、私の教育係として付いて来てくれた中でもその優秀さがすでに溢れ出ている。さっきは、私の仕事が早いとか言っていたがこの人のほうがその10倍は早い。私が一部屋掃除する間にこの人はワンフロアの掃除を終えてしまう程の有能さ。正直言って化け物だ。

 完璧超人という人種が存在するならそれはきっとクロエさんのような人のことを言うのだと思う。そんな彼女を見習って私も今後の仕事を覚えよう。まずはお客様の対応だったな。よし、気合を入れて……


「まあ、ぼっちのお嬢様を尋ねてくる客人なんていないんですけどね」


「…………」


 ちょっと感心するとすぐコレなんだよなあ。

 この毒舌さえなければメイドとして完璧な気がするのに。というより、軽く主人をディスってるよね? それでいいのか、メイド長。


「ですが万に一つの可能性とはいえ、訪れてきてくださった慈悲深きお客様に失礼があってはなりません。お嬢様の面目を保つためにもしっかりと覚えておいてください」


「……分かりました」


 天然でやってるならなかなかのやる気クラッシャーだよ。

 でも、私はお嬢様のお付きだ。学園での対振る舞いを学ぶ意味でも、ここはしっかりと話を聞いておいたほうが良さそうだ。


 それからさらに数時間、私はクロエさんに仕事を教えてもらいつつ業務をこなしていった。基本的には屋敷の掃除が主な私の任務だ。広い屋敷だから人手がいるらしい。

 だけど、それも師匠の家で鍛えられた私なら何とか付いていくことができた。

 私のために与えられた部屋に戻った私は、ベッドに横たわり深い溜息をついた。この調子ならやっていけると思う。一番の仕事である学園での護衛に関してはまだまだ未知数なところがあるけどね。

 それ以外で気になることと言えば……


「……結局、一度も話せなかったなあ」


 クレアお嬢様は今日一日、屋敷にいたのだが私は結局一言も会話することが出来なかった。クロエさんから色々と脅しのような言葉も聞いていたので、ちょっと拍子抜けな気分だ。

 

 クレアお嬢様は夜になると自室に引きこもる性質があり、食事の際も私たちが一緒に食べられるわけではないので遠くから眺めていることしかできなかった。ちなみに、まかないに関しては下っ端の私が作った。なかなかの好評だった。

 でも、別にメイド仲間の人と仲良くなることが私の仕事ではない。肝心のお嬢様との距離をどうやって詰めるのか。それが一番の問題だ。


(そもそも仲良くなる必要があるのかも微妙だけど……グラハムさんの言ってたことが少し気になるよな)


 グラハムさんは私こそがお嬢様のお付きに相応しいという意味の言葉を言っていた。その言葉の意味はまだ分からないけど、よろしく頼むと言われたのだからよろしくするしかない。

 そうでなくてもグラハムさんには多くの恩を受けている。

 その恩に報いるためにも私はクレアに真摯な気持ちで仕えようと思う。

 私に何が出来るか、それはまだ分からないけれど。

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