第157話 今世紀最大の発見
「お疲れ、ルカ」
「お、おつ、かれ……さま、です……あ、ねうえ」
息も絶え絶えにぐったりと体を横たえるルカ。
今回はルカの限界を知るためにかなり無茶なトレーニングをした。人間、限界を知らなければそれを越えることも出来ないからね。まずは己を知るところから。全ての基本はそこから始まると私は思っている。
「でも、思ったより動けるみたいで驚いたよ。私が子供の頃より筋はいいと思う。これなら案外あっさり私も追い抜けるかもね」
「ほ、本当ですか?」
「うん」
さすがに吸血鬼である私と比べるとステータスは劣るが、それを抜きにするなら良い線いっていると思う。
(そういえばルカって人族なのかな? 吸血鬼は突然変異みたいなものらしいし、確率的には低いはずだけど)
今の動きを見るに、恐らく人族のはずだ。
だけど気になるは気になるので後で鑑定しておこうかな……いやでも、それだと自分のルールを破ることになるし。うーん……種族だけちらっと見る? そんな器用なことできるかなあ。
「んー……あ、ルカ、動けそう?」
「ちょっとすぐには……無理です」
「なら肩を貸してあげる、ほらつかまって」
私がルカに向けて近づくと、ルカはびくぅっ! と、天敵に睨まれた小動物のように体を竦ませて驚いた。
いや、その反応に私が驚くんですけど。というかちょっとショック。
「遠慮しなくて良いって、ほら」
「あ、姉上……恥ずかしい、です」
私が強引に腕を掴み、引っ張り上げるとルカは頬を染めてそう言った。一体何を照れているのやら。私が美しすぎて気後れするなら分かるけど、自分も似たような顔しているんだからそれもないでしょうに。
「先に湯浴みだね。バスルーム分かる? ああ、でもどの道その体だと満足に動けないか。仕方ない、私が背中を流してあげよう」
この家の風呂場はちょっと凄い。師匠がお風呂好きというのもあって、なかなか豪華なバスルームがこしらえてあるのだ。日本人として、シャワーだけでは物足りない私には非常にありがたい。
なので、積極的に利用させてもらっているのだがルカはそうでもないようだった。
「だ、だだ大丈夫ですっ! 一人で入れますからっ!」
というか私と入るのが嫌なのかな?
でも折角仲良くなるチャンスなのだから逃したくは無い。これがアンナとかなら少し考えるところだけど相手は妹だ。見ることにも見られることにも特に抵抗は無い。
あ……でも背中の奴隷紋だけは見られたくないかも。事情を知っている人ならともかくルカだと混乱させてしまうかもしれない。まあ、そこまで大きいものじゃないしタオルで十分隠せるか。
「折角だから一緒に入ろう。ちゃんと髪も洗ってあげるから」
「ちょ、ちょっと姉上……待っ……」
ぐったりしたルカを抱えてバスルームへレッツゴー!
きっと裸の付き合いを済ませば、変な遠慮もなくなるでしょ。
「はい、服を脱いでねー」
「うわぁぁぁぁ!」
私が強引に服を脱がせると、ルカはまるで男の子みたいな声を上げた。見るとまるですでにのぼせてしまったかのように顔が真っ赤になっていた。
一応生物的には姉妹なのだから、そこまで恥ずかしがらなくてもいいのに……ん?
「う、ううー、あ、姉上ぇ……」
局部を隠して恥ずかしがるルカ。
とても可愛いのだけど……なんだか体格に違和感がある。
ぺったんこな胸はまあ、年齢を考えると当たり前なのだけど腰周りや手足の肉つきにちょっとした違和感。ん? んんー?
首を傾げる私に、ルカは言った。
「姉上、いくら姉弟でもこれは恥ずかしいですよぉ……」
…………ん?
「……ルカ、今何て言った?」
「え? だからさすがに恥ずかしいと……」
「いや、その前」
「? いくら姉弟でも?」
「……してい?」
私はルカのいった言葉の意味が分からなかった。
だって普通、姉と妹なら姉妹と呼ぶのが相応しい。なのにルカは姉弟と言った。即ちそれが意味するところは……
「……あれ?」
も、もしかして……私、ずっと勘違いしていた?
ルカが私に似ていたから、元々私が中性的な顔立ちをしていたから気付きにくかったのだけれど……
「もしかして……ルカって、男?」
「えッ!? 気付いてなかったの!?」
ここ一番の驚きの表情で顔を硬直させるルカ。敬語を忘れてしまっているあたり、相当ショックだったみたいだ。だけど、その反応で確信できた。
……どうやら私の妹は妹でなく、弟だったらしい。




