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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第154話 束の間の休息

 クレアお嬢様の試験に合格した私は学園に入学するまでの下準備として、お嬢様の屋敷に住み込みで働くことになった。だけどいきなり働くには向こうの段取りも整っていないらしく一週間ほどの準備期間が取られることになった。


 私としてはティナ達ともう少しゆっくりしていたかったから有り難い話なのだけれど、もしかして最初から合格するとは思っていなかったんじゃないかと疑問になってしまう。

 まあ、いいさ。今は与えられた時間を満喫しよう。

 ということで当面は師匠の家で生活を続行していたのだが……


「ルナちゃぁぁぁぁあああああんっ!」


 ちょうど私が師匠の為に朝食を作っていた時のことだ。向こうでも作らされる可能性を考えて、少しでも練習しておけという師匠の気遣いを装ったタカリに屈していたところになぜか突然ティナがやってきた。しかも、ルカとなぜか大量の荷物を抱えて。


「もうもうもう! 勝手に働きに出るなんて、お母さん聞いてないよっ! ぷんぷんっ!」


「あのお母様、黙って決めたことは謝るんで朝からそのテンションはやめてください。いや、もうマジで」


 抱きつき、私の頬にキスの雨を降らしてくるティナ。

 ここまでハッスルしているところを見るのも久しぶりだ。対処に困る。そうでなくても、朝はテンションが低いのだから勘弁して欲しい。


「あ、あの、姉上……おはようございます」


「あ、ルカ。おはよう。もう朝食は食べた? 今なら何か作ってあげれるよ」


「大丈夫、です」


 そして、ティナとは違って距離を感じるルカ。

 二人の中間ぐらいが丁度いいのに、なかなかうまくいかないものだ。


「ところでお母様、その大荷物はなに?」


「これ? これはね、引越しの荷物なの」


「引越し? どこに?」


「ここに」


「……マジですか」


 どうもティナは冗談を言っている様子でもない。本当にここに引越しに来たらしい。確かに、無駄に広いこの家のこと。二人ぐらい同居人が増えたところでどうってことはない。

 今日までずっと私とシアがお世話になっていたわけだしね。

 ちなみにシアは未だに夢の中だ。あの子は私以上に朝が弱い。もはや居候としての遠慮なんて露と消えているのだろう。家事はちゃんと手伝ってくれているし、良い子なんだけどね。


「というか、師匠。そういうことなら事前に私にも言っておいてくださいよ。びっくりするじゃないですか」


「ふぁっふぇ、おふぁえにふぃったらふぁんふぁいされるふぁもしれないふぁん」


「別に反対なんてしませんよ。そもそも私には反対する権利なんてないですからね。どうせ来週には出て行くわけですし」


「え!? 今ので通じたの!?」


 師匠との生活も長いからね。この人の言いたいことなら飯を食べている途中だろうが分かる。はしたないからやめて欲しいとは思うけど。


「……ごくん。こっちにも色々と事情があるんだよ。俺も仕事があるし、家事を出来る奴が欲しかったところなんだ。ま、言うなら住み込みの家政婦だな。お前と同じだよ」


「あ、そういうこと」


「お前もアリスも出て行っちまうからな。シアに家事を任せるにしても、ちょっと人手不足の感がある。その点、レストンさんなら安心して任せられるし、シアとそっちのルカだっけか? 二人なら歳も近いし良い遊び相手になってくれるだろ」


 アリスは学園に通うにあたり、近くの学生寮に移り住むことになっている。これまで師匠の世話をしていた人が一気に減ってしまうわけだ。それに残されるシアのことも心配してくれたのだろう。

 私が屋敷を離れると気の毒なくらいに泣いて悲しんでいたからね。私も一緒に働くと言って聞かなかった。最終的には週一で帰ってくることを条件に何とか宥めたが、恐らく今も不満に思っているに違いない。


 そこに私の代役としてルカを当てるとは師匠もなかなか気が回る。ついでにティナの働き口も出来るというのだから師匠様様だ。

 あ、それで私に黙っていたのかな。この人、根は親切なのに感謝されることにちょっと笑ってしまうくらい慣れてないからなー。ここで赤面させても面白いけど、後が絶対に怖いから家を出るときにしよう。そうしよう。


「つーわけでこれから一緒に暮らすことになる。ま、今更自己紹介するような間柄じゃねえし適当にやっててくれ。俺は仕事に戻る」


「分かりました。後で紅茶を持って行きますね」


「おう」


 最近は師匠も忙しそうにしている。自分の研究室に戻って行った師匠を見送り、改めて私の家族に向き直る。


「えーと、とりあえず部屋に案内するね。多分、空き部屋ならどこでも使っていいんだろうし、幾つか紹介するよ」


「うん。ありがとうね。助かるわ」


 妙な居心地の悪さを感じながらも部屋を案内していく。

 というか、ティナはともかくルカとは始めての共同生活だし緊張するなあ。


「ところでルナちゃんのお部屋はどこなの? 折角だし近い場所がいいわ」


「私の? でも、すぐにいなくなるんだし気に入った部屋のほうがいいんじゃない?」


「ううん。いいの。一番近い部屋でお願い」


 むう。そこまで言われたらそうするしかないか。


「家具は後で適当に他の部屋から持ってきておくよ。とりあえずの拠点に使って」


「わあ、素敵なお部屋ね!」


 案内した部屋をティナは気に入ってくれたようだった。別に私の持ち物というわけでもないのだけど、なんだか自慢にも似た感じに嬉しかった。

 気になったのはここにくるまで一言も喋らなかったルカだ。時折ちらちらとこちらを見ているようだし、何か言いたいことがあるみたいだけど……うーむ。ここは姉として水を向けてみるべきなのだろうか。


「あ、そうそう。ルカがお姉ちゃんにお願いしたことがあるんだって」


「私に?」


 と、思ったらティナが私より早くフォローに回ってしまった。さすがは母親。そういうところは機敏だ。


「ほら、お姉ちゃんも忙しいんだから今しかないわよ」


「う、うん……」


 そして、もじもじと恥ずかしそうにしているルカ。

 私にお願いって……なんだろう?

 可愛い妹の頼みだ。大抵のことは叶えてやる気がある。ちなみに私のえこ贔屓は凄いぞ。それで原因で戦争が起きたこともある(ネトゲ界で)。


「えと……あ、姉上!」


「は、はい。なんでしょう」


 ルカの緊張っぷりに引きずられ私まで緊張してしまう。

 一体どんなお願いが飛び出すのかと身構える私に……


「僕に……戦い方を教えてください!」


 ルカは精一杯の声で、そんなお願いを口にするのだった。

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