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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第153話 日本人は空気を読むのが得意

「ま、魔法……だと!?」


 私が生み出した影を見て、リチャードは明らかに狼狽していた。

 それもそうだろう。詠唱や魔法陣を必要としない魔法は戦闘において絶大な効力を発揮する。その割にはセンスが必要となるため、使い手の少ない技術。

 まさしく私にとって奥の手と言って良い技の一つだ。


「まだ操作に慣れてないからあんまり使いたくはなかったんだけど……仕方ないよね。悪いけど……実験台になってもらうよ、リチャード」


「────ッ!」


 私の言葉に硬直し、あらゆる攻撃に備えるリチャード。

 だけど……駄目だよ。それは駄目だ。

 この魔法を相手に時間を与えるのはとんでもない悪手だ。


「変成──『ツバキ』」


 私の言霊に答えるように、影が蠢き形を成す。

 実は魔法とは言ったが、この新魔法。半分は魔術のようなものだ。

 私が作った魔力に形を与えるため、分かりやすいイメージを口にする必要がある。要は、一部だけ詠唱が必要ということ。


 今回私がイメージしたのは、全てを断ち切る刃。

 つまり……


 ──衝刃鬼。


 名前の中に忍ばせた刃の煌きにこそ、その真価がある。


「影魔法、物質の創造かっ、しかもその形状……ッ!」


 リチャードの見る先には曲線を描く刃があった。

 私がイメージの元にしたのは日本刀。

 折れず、曲がらず、全てを断ち切る必殺の刃。

 単純な武器の性能で言うなら、これ以上のものはないだろう。


「悪いことは言わない。ギブアップしたほうがいい」


「……っ! こんな小娘相手に、引けるかァッ!」


 嫌な予感はあっただろうに、懐から二本のナイフを取り出し駆け出すリチャード。どうやら無手の私に合わせて武器は温存していてくらたらしい。なかなか律儀な奴だな。でも……


「勝てない相手に引くのも、実力の内だよ」


 相手が悪かった。

 交差する私とリチャード。


 私は右手に刀。

 リチャードは両手にナイフ。

 両者共に、一撃で相手を殺傷しうる能力を持ちながらの交錯だったが……その結果は実にあっさりとしたものだった。


「……くっ!」


 見ればリチャードの両手のナイフが中央から真っ二つに叩き折られていた。少し心配だったけど、どうやら操作も上々。ようやく私のモノになった実感を掴めたぞ。


「ふう……武器はなくなったみたいだけど、どうする? まだやる? 何なら武器を準備する時間くらいならあげるけど?」


「……いや、そんな情けない真似はできんさ。俺の……負けだ」


 何か言い訳でもとんでくるかもと思っていたが、リチャードは思いのほかあっさりと敗北を認めてくれた。近衛という職業柄、勝負の結果を認めないわけにもいかなかったのだろう。

 相手が強かったから、相手が武器を出してきたから。

 そんなことは敗北の言い訳にはならないことを、彼はよく理解しているらしい。とはいえ、相手を女の子と思って油断したことだけはプロにあるまじき失態だとは思うけどね。


「……え? 勝った、の? ……あの、リチャードに?」


 そして、その一連の攻防を見てクレアお嬢様はまるで夢でも見ていたかのような表情で呆然としていた。

 あの、というのが私には良く分からないけど恐らくリチャードはかなり信頼されている護衛の一人なのだろう。ステータスを見ても只者じゃないことが分かったからね。

 確かに単純な体術比べなら間違いなく負けていただろうし、特殊な環境を想定しない護衛なら文句なく優秀だろう。ただ、一般人と魔術師の差があまりにも離れすぎていただけで。


「ふう……」


 だけど私の方も無傷というわけにはいかなかった。

 実際に戦っていた時間は2、3分程度だと思うけど腹部に一撃もらったのと、防御に使った腕は痺れている。最後に使った『影法師』の反動もあるし。


 反動……そう、反動だ。

 構想段階でも分かっていたことなのだが、この魔法は一度に大量の魔力を収束させる必要があるため、その媒体となる右腕に予想以上の負荷がかかっている。

 具体的にはまるで四方からプレス機にかけられているかのような痛みを感じるのだ。元々、影魔法を体に纏う発想は『月影』から得たものだったのだが、吸血モードでない私はその操作が完全とは言えず、自らの肉体にも損傷を受けてしまう。


 本当は『影槍』や『殺陣』のように、体に触れない範囲で展開できればよかったのだが、吸血モードにない私はそれより更に効果半径が狭まっているらしく、右腕全体を基点としたごく限られた範囲にしか『影法師』を伸ばすことが出来ない。

 だけど、その鋭利さ、つまり攻撃力はほとんど変わっていないようだしひとまずはこれで十分だろう。改良の余地はまだまだあるけどね。


「さて、お嬢様。最終試験はこれで無事合格ということでよろしいでしょうか?」


「え……? あ、ええ、そうね! これで貴方は私のお付きよ!」


「良かった。あれだけの啖呵を切っておいて不合格になったらどうしようかと思ってました」


 私の言葉にあからさまに嬉しそうにそのツインテールをぴこぴこと動かすお嬢様……いや、ちょっと待て。なんだその機能は。君の髪には動力源でも取り付けられているのか?


「ありがとうルナっ! これであの人達に一泡吹かせてやれるわ!」


 未知の技術に驚きはしたが……どうやら私はこのお嬢様の期待に応える事が出来たらしい。

 これで……私は私の目的を果たすことが出来る。


 こうして初めての面接、プラス実技試験は幕を閉じた。

 少しだけやりすぎた気がしないでもないけど。

 ま、流れってあるから仕方ないよねっ!

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