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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第149話 人は何かを失いながら生きている

 グラハムさんの口から出たメイドになってみる気はないかという問い。

 私はその言葉の意味を理解するのにたっぷり30秒ほどの時間が必要だった。


「あの、えーと……な、なんで?」


 そして、混乱した私が言葉にしたのはグラハムさんの真意を問いただす言葉だった。

 もしもグラハムさんが身の回りの世話をする人を必要としているのなら、私はそれに答える気はある。それでお父様を探し出せるのなら安いものだ。

 だけど……メイドはないだろっ! 色んな意味で!


「ふむ、流石に言葉が足らんかったかのう。実は儂は今、一つだけ手に余る悩みを抱えておっての。実は儂の孫娘に関わることなんじゃが……」


「孫娘?」


 突然の話題転換に首を傾げる私。

 更に詳しい話を聞くと、ようやくグラハムさんが私に何を言いたいのかが分かってくる。


「うむ。今年から魔導学園に通うことになっておるんじゃが、そのお付に苦慮しとるようでのう。正確に言うならあの子の我侭なんじゃが……どうも可愛らしいおなご以外とは通いたくないらしい」


「お付き、って付き人のことですよね? 魔導学園って付き人がいないと入学出来ないんですか?」


「いやいや、付き人をつけるかどうかは自由じゃよ。ただ慣例的に貴族の息女には付き人をつけるようになっておってのう。まあ、世間慣れしておらぬ子供のお守り役と言ったところじゃ」


「は、はあ……あ、それでさっきのメイドってことですか」


 そこで私はようやくグラハムさんが私に何を求めているのか理解できた。


「うむ。お主には儂の孫娘のサポート役として学園に通って欲しいのじゃ」


「なるほど……」


 貴族のお嬢様のお付きとして学園に通う。

 なるほど、確かになかなかに重要な任務だ。だけど、だからこそ疑問に思う。そんな大任を私なんかに任せてもいいのかどうか。

 そのことを率直に聞いてみると、グラハムさんはなにやら含みのある笑みを浮かべた。


「ほっほ、お前さんほどお付きに向いておる人材はなかなかおらんじゃろうて。どうかのう、交換条件としてはそれほどズレてはおらんと思うのじゃが」


「……あの、そのことなんですけどお付きってメイドじゃなくちゃ駄目なんですか?」


「? 女のお付きとなればそれはメイドじゃろう?」


「ん? ……ああ、そうか」


 言葉のイメージから私は「お帰りなさいっ、ご主人様♪」みたいなメイドを想像していたがこちらの世界では多分それは一般的なメイドのイメージではないのだろう。

 雑用係とか多分そんな感じのイメージが正しいはず。

 言葉で現すなら侍女という言葉がしっくりくるかもしれない。


「すいません。なんか色々誤解してました」


「ふむ? ……む。まさか、儂がお前さんを傍に侍らせるとでも?」


「あはは……それもちょっとだけ」


 そのせいで最初フリーズしてしまったからね。

 でもそうか、そういう事情なら頷ける。それほど変な条件というわけでもない。


「期間はどれくらいになりますか?」


「出来れば孫娘が卒業するまで頼みたいところなのじゃが……学園を卒業できるかどうかは実力次第じゃからのう。ひとまずは4年を目処に考えてくれると助かる」


「4年……」


 今の私からすれば長い時間だ。

 他にやりたいことがあるわけでもないが、それほどの長期間拘束されることは出来れば避けたい。だけど……


「…………」


「何か悩むことでも?」


「ええ、実は私の家族のことで少し」


「おお、そういえば無事に再会は出来たんじゃったかのう?」


 こくり、と頷く私にグラハムさんは良かったのうと自分のことのように喜んでくれた。


「でも、喜んでばかりもいられなくって。実はまだ小さい妹もいて金銭的に少し苦労しているようなんです。ですから出来れば仕送りでも出来ればと思っていたんですけど……少しでも良いのでお給金の面で都合してもらえないでしょうか」


 私が学園に侍女として通うことはお父様の情報と引き換えだ。

 だからこれ以上私は何かを望める立場にはないのだが、その点だけがどうしても気になった。

 学園を卒業する頃には私はもう14歳。その歳なら家計を支えて当然である。これまでずっとティナには心労ばかりかけてきたのだから金銭面で少しでも助けになりたかった。

 私のそんな不躾な頼みに、グラハムさんは真剣な顔で考えこむ。何とか融通しようとしてくれているのだろう。その気遣いだけでも有り難い。


「ふむ……なるほどの。そういうことなら向こうの屋敷に住み込みで働くのが良いかもしれんな。まかないも出るじゃろうし、口減らし……という言い方も良くないが母君の負担は減らすことが出来る。お前さんさえ良ければそういう条件で向こうに伝えておこう」


「あ、ありがとうございます!」


 そして、結果的にグラハムさんは私にとって最良の環境を用意してくれた。

 学園に通うことになれば影ながらアリスをサポート出来るだろうし、お金を工面できればティナを助けてあげることが出来る。

 お父様の捜索も進むし、これで全ての問題が解決できる。

 後、残っている懸念といえば……


「まあ、全ては向こうがお前さんを受け入れてくれるかどうかにかかっとるわけじゃけどな」


「で、ですよね。気に入ってもらえるよう、頑張ります」


 そう。まだ会ったことすらないグラハムさんの孫娘とやらが私を採用してくえるのかどうかという一点。唯一にして最大の懸念事項だった。


「ほっほ、そんなに心配そうな顔はしなくても大丈夫じゃよ。お前さんは敬語も問題ないようじゃし、きっと気に入られることじゃろうて」


「だったら良いんですけどね……」


 グラハムさんに励まされてもイマイチ自分に自信が持てなかった。

 だからといって諦めるわけにもいかないけど。


「さて、ここまでは儂とお前さんの交換取引じゃったわけじゃが……」


「? はい」


「ここからは儂個人としての頼みじゃ。あの子はなかなか破天荒での。色々と苦労することになるかと思うが……どうか傍にいてやって欲しい」


「あ……」


 深々と頭を下げるグラハムさんに慌てて頭を下げ返す。


「こっちこそ色々と都合してもらって申し訳ないです。このご恩は必ず……その娘さんに尽くすことでお返し致しますので」


「ほっほ、これ以上なく頼りになる言葉じゃの。どうか……よろしく頼む」


「はいっ!」


 こうして私とグラハムさんの取引は完了した。

 メイドとして学園に通う。

 なんだかまた一つ男として大切なものを失ったような気がしないでもない私だった。

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