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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第4章 王都学園篇

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第145話 すれ違う心

 肩まで伸ばされた銀髪に、くりくりと可愛らしい瑠璃色の瞳。

 まだ幼さを残すあどけない顔立ちは私にとてもよく似ているが、まとう雰囲気が少しだけ違っている。全体的に丸っこいイメージのあるルカは私より親しみやすさを含んでいるように見える。

 私を綺麗系とするならば、この子は可愛い系の美少女だ。


「あ……えと、ルナ・レストンです。よろしく……ね?」


 いきなりすぎて動揺してしまったが、何とか挨拶を返すことは出来た。

 姉としての一応の面目は保てただろう。

 だけど、いきなりこれは……


「ふふっ、驚いたみたいね、ルナ」


「……悪戯っぽい顔してると思ったらこういうことだったのか」


 まさしく悪戯が成功した子供のように笑みを浮かべるティナは心底楽しそうに微笑んでいた。こっちはびっくりしてそれどころじゃないってのに。


「もしかしなくても私にずっと隠してたよね、これ」


「うん。修行が終わったルナにサプライズで会わせてあげようと思ってたんだけど予定より遅れちゃったわね。でもこうして無事に会えて良かったわ」


 サプライズ……いや、まあ確かにそういう意味では大成功だけど幾らなんで私にずっと黙っていたなんていくらなんでも酷くない?


「ああ、怒らないでルナちゃん。これにはちゃんと理由もあるんだから」


「……聞きましょうか」


「え、えっと……ほら、この前までルナちゃんがどこにいるかも分からなかったじゃない? だからちゃんと会わせてあげられるか分からなかったから……」


「それはあの後の話でしょ? 私が王都にいた間は手紙なりなんなりで伝える方法は幾らでもあったと思うんだけど?」


 ぱっと見でもルカはもう4、5歳になっている。

 だとしたら、私が王都にいる間に生まれたと考えるべきでその報告はあってしかるべきだろう。常識的に考えて。


「は、ははは~」


「おい」


「ご、ごめんなさいぃぃっ!」


 笑って誤魔化そうとするティナを睨みつける。

 幾多の視線を越えてきた私の眼光はすでに殺人鬼並みだ。すっかり怯えてしまったティナに、


「は、母上を苛めるなっ!」


 ばっ、と身を挺して守るかのように両手を広げて私の前に現れるルカ。

 その勇気は買うけど涙目になってるじゃん。これだと私が本当に苛めているみたいだよ。


「だ、大丈夫。冗談だから、冗談冗談」


 なんともいえないやりにくさを感じながらもルカの頭を撫でてあげようと手を伸ばすのだが……


「……っ」


 ぱちん、とその小さな手に払われる。

 それからはっとした表情になったルカは俯き、黙り込んでしまう。

 ……え? なにこの雰囲気。マジで私が悪いの?


「もう、ルカったら。ごめんね、ちょっとこの子人見知りぎみだから」


「え、あ……うん」


 人見知りって……いや、まあ、初対面の姉に対しては仕方ないんだろうけどなんだかなあ……かなり悲しい。

 どうやら私との間に壁を感じるルカにはあまり触れない様、私はルカとは反対側に腰を下ろし、ティナに話しかける。


「こういうことはもっと早く言ってよね」


「あはは、ごめんごめん」


「まったく……」


 色々と言いたいことはあるが……どうもティナの様子を見るに、ルカのことを隠していたのは私にサプライズしたいってだけではないように思える。何か事情が、それも私には言えないような事情が見え隠れしている。

 それを追求することは簡単だが、それをしてしまうとまたルカに怒られてしまいそうだ。また次の機会にしたほうがいいだろう。


「ふふ……なんだか夢みたいね」


 私が話題を探していると、くすくすと珍しく上品な笑みを浮かべるティナ。


「え? 何が?」


「こうして三人でいることが、よ。本当にありがとうね、ルナ。私たちのところに帰ってきてくれて。もしかしたらもう会えないかもって……そう思ってたから」


「そういう割りに昨日会ったときはあんまり驚いていなかったみたいだけど?」


「それはアンデルさんに前もって教えてもらっていたからよ。近いうちにルナが顔を出すだろうからーって。まさかその日のうちに来るとは思ってなかったけどね」


「師匠が?」


 旅が終わってすぐに姿を消したからてっきり自室で爆睡しているものとばかり思っていたのに……どうやら裏で色々と手回ししてくれていたらしい。

 多分、いきなり会って必要以上に驚き過ぎないようにという配慮だろう。

 特にティナにはその準備をする必要があった。


「……これでダレンもいてくれたら良かったんだけどね」


「…………」


「あっ……ご、ごめんね。不安になるようなこと言っちゃったかな。お父さんならすぐに帰ってくるから心配しないでね」


 よしよしと左右に座る私たちをそれぞれ撫でてくれるティナ。

 私は素直にそれを受け入れたのだけど、ルカは違った。


「は、母上が謝る必要なんてないっ、勝手にいなくなる方が悪いんですっ!」


 手を払いのけこそしなかったが、そう言って私の方を睨みつけてきた。

 その視線がなんだか気に食わなかった私は早速姉としての役目を果たそうと叱り付けようとして、


「ちょっと、ルカ。あんまりそういう言い方は……」


「うるさいっ! 母上が大変な時に遊び歩いていた姉上に何が分かるっ!」


 猛烈な反撃をもらうのだった。


「ルカっ!」


「…………ッ!」


「あっ……」


 ティナの叱責にルカは一瞬だけ躊躇うと、勢いよく借家を飛び出していってしまった。止めようと思ったが、思ったより先ほどの言葉がショックだったらしい。私は立ち上がることも出来ずにいた。


「……ごめんね、ルナ。あなたのことはルカにはちゃんと説明してなかったの」


 二人きりになった室内で、ぽつりとティナが漏らす。


「……それってもしかしたら私が帰ってこれないかもしれないから?」


「うん……ルカには本当のことが言えなかったの。あなたと会うのを本当に楽しみにしていたから。だから……ルカにはお姉ちゃんは遊興の旅に出たんだって。そう言ってあるの」


「…………」


「ごめんなさい」


「お母様が謝ることじゃないよ……って、これはさっきあの子が言ってたか」


「……ルナ?」


 突然立ち上がった私に、ティナが呼びかける。

 私はティナが出来るだけ安心できるよう、精一杯の笑顔を浮かべてみせた。


「ルカは私が探してくるよ。ちょっとすれ違いがあったみたいだけど……やっぱり私達、兄妹だから」


 まさに生き写しと呼んでも差し支えないほどに似通った容姿。

 同じように持った母親を思う心。

 間違いなく私たちは血の繋がった兄妹だ。

 さっきのルカの剣幕でそのことが良く分かった。

 きっと私たちは分かり合える。

 その確信が私にはあった。


「すぐには無理かもしれないけど……いつかは一緒に笑えるようになる。私がそうさせる。だからお母様は少しだけ待っててくれる?」


「……うん」


 私の問いに、ティナは頷いてくれた。


「大丈夫。私、待つのは得意だから」


 少しだけ寂しげな、笑顔を浮かべて。

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