第135話 女三人寄れば……
残り数日で王都に辿りつくという段階まで私たちの旅が進んだ頃。都市部に近づいたことで今までよりもずっと栄えた街で私たちは休息を取っていた。
もしリンをどこかで待たせるというのなら王都から最も近いこの街が適切だと思う。だけど、それを私は未だに言い出せずにいた。
というのも……
「あ、あのさリン。もうちょっと離れて歩かない? じゃないと歩きにくいというか……」
「私は気にしない」
「いや、周りの目もあるし、ね?」
「……ルナは私と一緒にいるの、嫌?」
ずっきゅーーーんっ!
そ、そんな言い方されたら断れないじゃないか!
「ま、まあいいか。別に悪いことしてるわけじゃないし」
「……うん」
私の許可が下りたことで更にその体を密着させてくるリン。最早しなだれかかるという表現が似合うほどのべったり感だ。やや暑い。
「全然良くないわよ。二人してそんなにべたべたされると一緒にいる私まで恥ずかしくなるじゃない」
「あれ、いたんだ。アリス」
「最初からいたわよ! というか宿から一緒に出たじゃない!」
しまった。あまりにもアリスが空気だったから存在を忘れかけていたよ。
「ほら、さっさと離れなさいよ。私たちはこれから買い物もしなくちゃいけないんだから」
「……腕を組んでいても買い物は出来る」
「しないほうがスムーズに終わるでしょう! 私は早く帰りたいのよ、もう!」
綺麗な金髪をフードで隠してしまっているアリスは周囲をきょろきょろと見渡している。やっぱり人が多いところではその耳が見られないか心配なのだろう。リンはそういうところ全く気にしないから、そこは性格の違いだね。
「そ、それにルナだってそんなに引っ付かれていたら迷惑よ」
「ルナ、私迷惑?」
「え? いや、別にそんなことはないけど……」
「ルナは優しいから面と向かって邪魔なんて言えるはずないじゃない。少しは空気を読みなさいよね!」
ぐいっとリンの腕を掴み私から引き剥がそうとするアリス。
だがその際に足を躓かせたのか、バチンッ! っと、まるで鞭のような勢いで私の額にチョップをかましてきやがった。完全に不意打ちだったせいでもろに喰らってしまったよ。少し痛い……
「ご、ごめん、ルナ! 大丈夫!?」
「アリス、邪魔」
「ひどいっ!?」
アリスのドジは今に始まったことではないが、なんともまあタイミングが悪い。リンがまさしく「お前の方がいい迷惑だよ」と言わんばかりの態度でアリスを見ていた。
「だ、だからごめんってばぁ!」
泣きそうな顔で許しを懇願するアリス。
まあ、悪気はなかったのだし許してやろう。
というか、最近はこういうやり取りが増えた気がする。
いつかの色欲の暴走あたりから二人がやけに私と一緒にいたがるようになった。
我を忘れてリンに嫌われたのではないかと思ったがそんなこともなく、覗き見していたアリスもやはりそういう不純な関係は見逃せないからなのか私がリンと二人でいることを阻止するようになった気がする。
今日だって普段なら宿で引きこもるはずのアリスがこうして私達と買い物に付き合ってくれている時点で異常事態だ。何か思うところがあるのは間違いない。
(やっぱり女の子同士でそういう関係になるっていうのは抵抗感強いんだろうな。アリスとは家族みたいなもんだし、私だってアリスが同性愛者になるなんて言い出したら多分止めると思うし)
かといって彼氏を連れてきても受け入れられるかどうかは……うん。ちょっと自信ないね!
(これはやはり早いところ男に戻る必要がありそうだね。リンと付き合うかとかは別にしても、やっぱり私は女の子が好きなんだし)
今度そういう魔術がないかグラハムさんに聞いてみよう。
「……アリスは落ち着きがなさ過ぎる。そんなことではルナの隣は譲れない」
「そ、そういうリンだってこの前、間違えてルナの寝床に潜り込んでたじゃない!」
「あれはわざと」
「な、なんですってー!?」
そしていつの間にか二人の口喧嘩がヒートアップしていた。
最近はこういうのも増えた。別に仲が悪いわけじゃないんだけど、時折譲れないところがぶつかるのかよく衝突しているのを見かける。一体、何なんだろうね。
「ほら、二人とも喧嘩しない。甘いお菓子でも食べさせてあげるから」
「ほんと!? なら私クッキーがいいなぁ」
「……お団子」
「はいはい。遠回りになるけど、どっちも行ってあげるから」
二人の仲裁をしながら買い物を続ける。
いつか皆で仲良く過ごせる日がくればいいな、なんてそんなことを考えながら。




