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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第3章 冒険者篇

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第134話 覗き、ダメ、ゼッタイ

 リンとアリス。

 どちらの少女を選ぶのか、その答えを私は持っていなかった。

 そもそも女の子を選ぶ、なんてことが私には不可能に近い所業だ。私は全ての美少女を愛しているのだから。比べるなんてことは出来ない。


 だけど……今回ばかりはそうも言ってられそうにない。

 アリスと共に学園の門を叩くのか、リンと共に安息の地を探すのか。

 どちらも魅力的な提案ではあるが、片方を選べば片方の道は切り捨てるしかなくなる。


(やっぱり、リンが王都に入れる方法を探すのが最善なのかな……)


 両方を手に入れようと思えばそうするしかない。

 だがそれにしたってリスクは付きまとう。

 もし密入国させたことがバレれば重罪人として私達は裁かれることになるだろう。それだけは避けなければいけない。


「うーむ……」


 あまり物事を深く考えない私だが、他ならぬリンとアリスの問題だ。

 皆が寝静まった後、散歩がてらに近くの小川まで歩いていった私はそこで月夜を眺めながら難しい顔を作って思案に暮れていた。

 すると、


「ルナ」


 後ろから私を呼ぶ声が。

 振り向くとそこには眠たげに目を細めるリンの姿があった。


「こんな時間にどうしたの?」


「……ルナは迷ってる?」


「え?」


「昼間から様子が変だったから。それに……馬車での会話、聞いてた」


 リンは獣人種の中でも特に身体能力の高い黒狼族の人間だ。

 その特徴は五感にも影響している。つまり耳が良いのだ。リンは。


「そっか……それで心配になったの? 私がリンを置いて王都に行っちゃうかもって。大丈夫、リンを一人にしたりしないから。何があってもね」


 安心させようと笑顔を向けるが、リンは首を横にフルフルと振って、


「私はルナの選んだ道ならそれを尊重する。その傍に私がいないとしても……」


「ちょ、ちょっと、リン。そんなこと言わないでよ。これまでずっと一緒にやってきたじゃない。私にはリンが必要だし、リンだってそう思ってくれているんじゃないの?」


「私はルナの剣になると決めた。でも……剣が要るのは戦いの時だけ。日常でのそれはただの重りにしかならない」


「私はリンを重りだなんて思ったことはない!」


 リンの言葉に私は強く言い返す。

 前からリンが私の役に立とうとしてくれていたことには気付いていた。だがそれはあくまで対等なもの。お互いがお互いを支えあう相互扶助の形だと私は認識していた。だけど……


「私がリンと一緒にいたいのはリンが強いからじゃないよ……私はリンがリンだから一緒にいたい。ただそれだけだよ……」


 リンはそうではなかった。

 リンは私の役に立つこと、それだけを考えていた。

 奴隷の子として生まれ、奴隷として生きてきた彼女には他の生き方が分からないのだろう。誰かの役に立つための生き方以外。


「でも、私がルナと一緒にいたら迷惑がかかる」


「迷惑なんてかけてくれればいい。今更そんなことを気にするような関係じゃないでしょ、私達」


「……うん」


 目を伏せたリンはとぼとぼとこちらに歩み寄り……ぽふっ、と倒れるように私の体に身を寄せてきた。


「私も……ルナと一緒にいたい」


 そして、一瞬で私のハートを打ち抜くキメ台詞を吐くのだった。

 思わず胸を押さえてその場を転げまわりながら悶えそうになるが、リンの攻撃はまだまだ終わらない。


「ルナが良い……他の人は嫌、私はルナが良い」


「く、ふ……ッ!」


 な、なんだこの可愛い生き物は!?

 全世界の人間を萌え殺しにするつもりか!?

 少なくとも私は殺される! 萌え殺されるっ!


「二人の話を聞いて、もしかしたらルナがいなくなるかもって思った。そうしたら胸の奥がぎゅって痛くなった。こんな気持ち、今までなったことなんてなかったのに……」


「わ、私も今まさに胸が痛いよぉ……」


 主に萌え過ぎで。


「……多分、私はルナのことが好きなんだと思う。他の誰よりもずっと」


「はぁぁぁぁあああんっ!」


「……ルナ、私は真面目な話をしている」


「わ、分かってる、分かってるよ!」


 リンのジト目がガチだった。

 別にふざけていたわけではないが、少し自重したほうが良さそうだ。


「私はルナの隣にいたい。もうルナが独りで戦わなくてもいいように」


「…………」


 リンのどこまでも真っ直ぐな瞳に私は何も言えなくなった。

 私の信条的にはリンは守るべき対象であり、一緒に戦うような関係ではないはずなのだが……この子に関しては別の感情があった。


 きっと土蜘蛛との死闘を共に生き延びたからなんだろう。

 共に戦いたいという思いが私の中にあった。

 恐らく、こんな風に思える相手は人生の中でも数えるほどしかいないだろう。背中を任せてもいいと思えるほどの絶対的信頼感がリンに対して存在していた。


「私にはこんな生き方しか出来ない。誰かに尽くすような生き方しか。それはもう変えることは出来そうにない」


 長年を奴隷として生きてきたリンは今更別の道を歩むことは不可能だという。

 しかしその後、リンは「でも……」と言葉を続けた。


「誰に尽くすかは私が選びたい。今はルナが私の主人になってくれたら良いと思ってる。私は……ルナに尽くしたい」


「…………」


「……ルナ?」


 突然壊れたPCのようにフリーズした私にリンが心配そうな顔を向けてくる。だが、今の私はそれどころではなかった。

 自らの内側から溢れ出す……"あの感情"を抑えることに必死だったからだ。


 というか……『貴方に尽くしたい』は反則だろぉぉぉぉぉぉぉっ!

 無理無理かたつむり! これを耐えるなんて絶対に無理!

 ああ、リンに対する愛しさが天元を突破している……これはもう、駄目だ。


「……リン」


「なに?」


「襲っていい?」


「……………………え?」


 まだ理性が残っている内に承諾を得ようと思ったのだが、どうやらリンは混乱している様子。仕方ない、ここは私がリードするしかないようだ。


「前は不発に終わっちゃったけど……今夜こそ寝かせないからね」


「る、ルナ? なんだか様子が変……」


「変じゃないさ。リンの可愛らしさに真実の愛に気付いてしまった。ただそれだけさ」


 そっとリンの唇に手を触れさせ、瞳を覗き込む。


「好きだよ、リン」


「~~~~っ」


 耳元で囁くとぼんっ、と音が出そうな勢いでリンの顔が真っ赤に染まる。

 こういう反応も珍しい。いつも無表情のリンもクールで可愛いけど、やっぱり女の子は照れてる顔が一番可愛いね。


「心配はいらない。優しくするから」


 ぐいぐいと体を寄せ、リンの胸元に手を伸ばす。

 その手が目標に届く寸前、ふらぁっとリンの体が後ろに向け傾いた。


「おっと!」


 どうやら押しが強すぎたみたいだ。

 倒れこんだリンをひとまずその場に寝かせ、体勢を整える。

 よりヤリ易い体勢……すなわち馬乗りへと。


「可愛いよ、リン」


「ま、待って、ルナ……」


「今の私は一秒が千年にも感じれるほど焦れているからね」


「……?」


「つまり……無理ってこと」


「っ!?」


 抵抗する暇も与えずリンの唇を奪う。

 すると、リンは見たこともない表情で驚いていた。

 何気にリンとキスするのはこれが始めてかもしれない。今までずっとタイミングが悪かったから出来なかったけど……今日こそリンの全てを私は手に入れる!


「る、ルナぁ……」


 唇を離すと、リンは泣きそうな顔で私の名を呼んだ。

 だけど、それは決して嫌そうな顔ではなくて……


「リン、愛してる。結婚してくれ」


 私の中でリンへの愛しさが爆発した。

 最早、自分自身を止めることすらできず私の手はリンの胸元へと伸びていき……


「は、はぅぅ……」


 決してリンのものではない、熱い吐息を耳にするのだった。

 横の方から聞こえたその声に視線を向けると、そこには両手で目を隠しているつもりでしっかりその隙間からこっちを見つめるアリスの姿が。


「こ、これからどうなっちゃうのかしら……あの二人、女の子同士で……ご、ごくり」


 盗み見することに集中して、気付かれたことに気付いていない様子のアリス。

 というか独り言は抑えなさいよ。ばっちり聞こえてるんですけど。


「…………」


 私に聞こえるということはリンにも当然聞こえているというわけで、リンの視線もアリスの方向へ寄っていた。その表情はほっと安心したようでもあり、邪魔者の登場に憤慨しているようでもあった。

 名残は惜しいが、とりあえず……


「アリスぅぅぅぅぅぅっ!」


「ひゃ、ひゃああああっ!?」


 見られながらなんて出来るかぁっ!

 私とリンの初夜を邪魔しやがったアリスはとりあえずシメる!


 それから私はアリスに「もうしません、もうしませんーーーーっ!」と泣きを入れさせるまで折檻し続けましたとさ。

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― 新着の感想 ―
いや1から10まで気持ち悪い。主人公が。 庇護対象っていいつつ友達と天秤にかけるのはどうなの?迷うまでもないでしょ? せめて両取りするかリンを取るかで悩めよ
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