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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第3章 冒険者篇

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第125話 実験と聞くと心躍る自分がいる

「そういうわけでこれから山賊のところへ行くから、リンも付いてきてくれる?」


「分かった」


「いや、待て。色々突っ込むところが多すぎるぞ」


 私が最後に連れて行くことを望んだのは私の相方とも呼べるリンだった。

 戦闘になることを考えるなら彼女ほど頼りになる人もいないからね。連携だけを考えるなら師匠よりリンの方が相性は良いだろうし、師匠もグラハムさんを連れて行くのだ。私も一人くらい相棒を連れて行ってもいいだろう。


「まずなんでわざわざ山賊のところへ行くのかが分からないし、リンも即答しすぎだ。少しは言葉の意味を考えろ」


「……ルナが行くなら私も行く。理由はそれだけでいい」


「さっすがリンちゃん、頼りになる」


 背中を預ける相手としてこれ以上ない答えだ。

 私が女だったら惚れてたね。あ、今、私女だった。


「お前は……いや、良い。それよりなんでそんな話になったんだよ」


「師匠が遠回りするのはめんどくさいって言い始めてね。それに多分、取られた商品をいくらか取り戻してあげたいんだと思うよ。師匠もあれで結構優しいところあるから」


「……理由は分かった。だけどお前たちが行く必要はないだろう。あの女が言い出したことなら任せていれば良い」


「そういうわけにもいかないでしょ。私達には戦える力があるんだから。義を見てせざるは勇無きなり……私は私の正義にだけは嘘を付きたくないんだ」


「……はあ、お前も相変わらずか」


 諦めた様子のウィスパーに、思わず笑みが漏れる。

 ようやくウィスパーも私の性格が分かってきたみたいだね。


「だがそういうことなら俺も行くぞ。お前ら二人だけには無理をさせられん」


「え?」


「行くと言ったら行くぞ」


 断固とした決意を見せるウィスパー……だけど正直言うと少し、いやかなり心配だ。


「えっと……危険だよ?」


「それくらい分かってる」


「……無理はしない方がいい」


「無理なんかじゃない。土蜘蛛に比べれば山賊なんぞ路傍の石と変わらん」


 この人、まともに土蜘蛛と戦闘したわけでもないのに……

 私とリンの気遣いも届いていない様子だ。

 んー、なんだか珍しく気合が入ってるっぽいな。これは。

 強引に置いていってもいいけど、後で愚痴を言われるのも嫌だし……どうしようかな。


「頼む。俺はお前たちと一緒に戦いたいんだ」


 大の大人が小さな女の子二人に向けて頭を下げるのはどう見ても絵面が悪い。

 だけど……ウィスパーがどうしてそこまで付いてきたがるのかは少し分かった気がした。

 ウィスパーは前回、自分がチームを抜けたことを悔やんでいた。その穴埋めとして今回の同行を求めているのだろう。そういうことならその心意気を無碍にするのも忍びない。


「分かったよ。そこまで言うならもう止めない。でも私達の近くから出来るだけ離れないようにしてね」


「非常に物申したい条件だが……まあいい」


 活躍して評価を改めさせれば良い、とでも言いたげなウィスパーの表情。

 頼りになりそうな気配もあるし、やっぱりどこかでポカをするような気もする。これは出来るだけ目を離さないようにしておこう。うん。


「あ、それと先に言っておくけど、今回の戦闘で幾つか試しておきたいことがあるから。リンとウィスパーにはそれのサポートをお願いしてもいいかな?」


「問題ない」


「どんな内容だ?」


 二人がそれぞれに肯定的な言葉を返してくれてよかった。

 これから私がしようとしていることは、もしかしたら大変な事態を招く可能性もある"実験"だ。だからこそ、最悪のケースを事前に対策しておく必要がある。

 ある程度の思惑を二人に伝えたところで、私はリンに向き合い、そのお願いごとを口にする。


「もしも最悪の事態に陥った場合には……リン、貴方を頼りにさせてもらいたい」


「……私でいいの?」


「うん。というより頼めるのはリンしかいないんだ。私と互角の力を持っているリンだからこそ。今まで以上に危険な橋を渡ることになるけど……頼めるかな?」


 すでに今回の実験の危険性は伝えた。

 だけど、リンは私を真っ直ぐに見つめると……


「私はルナの為に生きると決めた。だからルナが望むなら……私はどこまでも力になる」


 どこまでも純粋なその宣言をするのだった。

 嬉しいは嬉しいんだけど、流石にこうまで面と向かって言われると流石に照るね。最近は私がお世話になりっぱなしだから、いつかちゃんとこの借りは返さないと。


「ありがとね、リン」


「……ん」


 私が頭を撫でてあげると、リンは気持ち良さそうに目を細めた。

 尻尾や耳もこれくらい素直に触らせてくれたら良いのに。

 ん? ……というかこれ、ちょっと待て。


「リン、もしかして背、伸びた?」


 以前に比べて僅かに手を伸ばす位置が高くなっている気がする。

 これまではほとんど変わらない身長だったのにこれは……並べばはっきりと分かる程度には差が付いてしまっているかもしれない。


「自分では分からない。けど、ルナがそういうならきっとそう」


「くっ……リンは私より年下なのに……」


 年下の子に身長で負けたというのは、地味に私の心を傷つけていた。

 アリスにバストサイズで負けていることは1ミリたりとも悔しくなかったのに、今回は駄目だ。きっとこういうところも男の子っぽい考え方だと思うんだけど……ああ、ショックだ。


「大丈夫、大切なのは身長より心の器」


 年下の子に身長で負けて落ち込んでいる時点で心の器なんてせいぜいペットボトルの蓋程度しかないと思うんですけど……リン、それフォローになってない。


「そうだな。それにルナは女の子なんだし、多少身長が低くても可愛くていいじゃないか」


 そしてウィスパー、お前もなにさらっとロリコン発言しているんだ。

 そんなフォローされても全然嬉しくないんだよ。


「5センチ……いや10センチでいいから、その無駄に高い身長を寄越せ!」


 なんだか悔しかったので、ウィスパーに八つ当たりすることで私は気持ちを静めることにした。

 ああ、早く男に戻りたい。

 そうすればもう少し身長も高くなるだろうに。

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